魅力の発見

(お題:プロジェクト、熊、魔力)


「あっあの、こんなのは、どうですか?」


 人差し指をピンと立て、すごいの閃いちゃったとばかりに正面の彼女は瞳を輝かせた。

 続きを、と僕は手でうながす。


 喫茶店で打ち合わせを始めてから五時間。窓の外はとっくに暗くなっており、いつしか店内は飯原いいはらさんと僕の二人きりだった。そんな状況にどことなく気まずさを感じつつ、静かにコーヒーを啜った。


『次の企画会議には、お前たちの企画を推してみようと思っている。今日はもう帰社しなくていいから、明日までに企画書をしっかり練ってまとめ上げて来い。上手くいけば新はお前たちの主導だ。俺はけっこう期待してるぞ』


 正午のあたりで、直属上司たる先輩からお達し。のような髭をいじりながら突拍子もない無茶ぶりを投げてきた。

 とうとう『新人』を卒業させてもらえたのか、と嬉しい気持ちが沸き起こる一方、期待という言葉が重く圧し掛かる。


 どうしても、結果がほしい。


「じゃあ、えっと、はい。あのですね――」


 自信ありげな鼻息を吹かせ、飯原さんは思いつきたてのアイデアを語りはじめる。上体のすべてをつかって、器用に、そしてわかりやすく。陰では社内屈指のプレゼンテーターやもと見込まれているだけあって、まだカタチになっていないアイデアの種にもかかわらず、それは卓越した言葉と身振りで見事に肉付けされて、ビジョンが容易に映し出された。


 停滞していた時間がふたたび動き出す。彼女の提案を聞いて、自分の頭が目まぐるしいほど回転するのがわかる。

 これは、上手くいくかもしれない。


 僕は冷めたコーヒーをテーブルの端に押しやって、話し合いのための本腰を入れた。

 企画の趣旨から逸れないよう飯原さんのアイデアを練り上げ、疑問点を解消し、余分をそぎ落とす。『注文の多い新人』は僕につけられたあだ名だ。生意気なところを揶揄やゆする反面、その口ぶりは先輩を含めた周囲から「いいぞ、やれ」と背中を押されている気がしていた。

 それも就職した頃から積極的に意見の出せる環境にあったからこそだと、僕は思う。今回みたいな機会も与えてもらえたし、本当にいい会社に入ることができた。


 気付けば閉店の時間になっていた。試行錯誤を繰り返し、みっちりと洗練された企画書がそこにはあった。飯原さんは興奮気味にこぶしを振り上げる。


「ついにやりましたね! うんうん、この企画書なら絶対認められますよ!」

「プレゼンは任せたよ。飯原さんの巧みな話術で語られる企画には、耳の方から引き寄せられるがあるからね」


 僕がそう言うと、飯原さんはふいと顔をそむけた。ちらりと見える頬はどことなく赤い。




——————


最初期の三題噺。

今読み返すとどこか慣れてない感じがします。

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3分で読める物語。 でい @simpson841

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