ガイアを封じる守り人

(お題:金貨、鳩、領主)


「夢の中から君に伝える……能力を解放しろっ!」

「うおおおおああああああああっ!!」


 少年の叫びに呼応するよう、周囲の空気が変化していく。魔力の解放からくる衝動にてられて、がいっせいに飛び立った。


 陽気を通り越して少し肌寒い春の夕空。二人の中学生が楽しそうにたわむれるのを眺めつつ、暗黒の意思ちゅうにびょうの系譜はたしかに受け継がれているのだと、複雑な気持ちになった。

 あの頃の僕はどうかしていた。ちょうど、あの子たちのように。


 あれは、いつだったか。めばちこができて眼帯をつけて学校に行った日。

 そうあの日が、もう一人のオレが目覚めた日だった。


「鈴木〜、どうしたんだその眼帯?」

「ガイアを封じているのだ」

「え?」

「ガイアを封じているのだ」


 ガイアを封ぜねば――

 その日から、『ガイアを封じる守り人』というもう一つの人格があらわれた。敬虔けいけんなシトロン教徒であり、生まれながら運命さだめに生きる、呪われた末裔……。設定が大渋滞なことも、当時のオレにはなんら関係がなかった。その罪深さに気づいた頃には、すっかりと負の遺産だらけになっていた。


 さいわい、軌道修正できる機会チャンスが僕にはあった。


「おーい、鈴木~! サッカーしようぜ~!」

「娯楽に興じている暇はない。オレはガイアを封じているのだ」

「鈴木……」


 級友たちよ。僕は本当に馬鹿だ。

 いや、級友だけじゃない。


「鈴木、いい加減にその眼帯をはずせ。もうかれこれ半年近くしているし、病気は治っているだろ。ここから先は治療具ではなく、アクセサリー扱いだ。はずしなさい」

様。これを外してしまうと、この世は災禍につつまれてしまいます」

「いいか鈴木、領主様じゃなくて先生だ」

「どうかお見逃しください。ワタシはこの平凡な世界が、好きなのです。壊したくない……。そうだ、これを、をお納めください。どうか見なかったことに」

「いいか鈴木、賄賂はダメだ。それにこれは、金貨じゃなくてビスケット。お菓子は学校に持ってきちゃいけないんだ」


 遠くでカラスの鳴く声がする。もう家に帰る時間だ。

 中学生たちの姿はすでになかった。


 ふと思う。ガイアを封印する守り人だったオレには、彼らのような真の仲間がいなかった。

 もしいたならば、暗黒の意思も少しはいい思い出になったのだろう。



 —————


 冒頭の中学生と実際にすれ違ったので、この話が生まれました。セリフもそのままです。

 ただ、たぶん高校生でした。

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