暴走ディレクター

(お題:ギター、ソクラテス、八つ橋)


「ええっ、次の新番組の企画、俺が主導していいんですか!?」

「若いやつにも経験積ませろって、上からの指示でな。やるからには高視聴率だ。しょうもないもの撮ってくるなよ、佐々木」

「当たり前っすよ! 度肝を抜く画を撮ってきます!」


 威勢のいい啖呵を切ったものの、初のディレクターに抜擢された佐々木は焦っていた。

 とくに明確な目標もなく入ったテレビ業界。運よく採用されてポンポン出世するも、生来の勢い任せが結果へと転んだにすぎなかった。プロフェッショナルな仕事の流儀もなければ秘蔵のアイデアも温めてない。ぶっちゃけノリで引き受けたのだった。


 番組の趣旨は、職人のドキュメンタリー。

 オープニング曲は情熱大陸ばりの壮大なオーケストラ、にしたかったが、低予算のため学生時代に軽音楽部でかじった佐々木のソロを収録した。勢いが武器の佐々木なりに頑張った。


 次は取材対象の職人探し。だがパッと思いつく無難な職を選んでは、せっかく抜擢してもらった意味がない。

 ただし、熟練された職人というのはなんだか気性が荒そうで気が引けた。となりの人間国宝さんクラスの、ほぼ一般人みたいなレア職人を探すことにした。


 ロケは体当たりだ、と業界経験を生かさないまま、佐々木はカメラマンを引き連れて京都ぶらり歴史探訪した。当然それらしき職人は見当たらない。「もう帰りましょうよ」と若手カメラさんの嘆きがこぼれる中、永観堂周辺にたどり着く。京都浪漫、悠久の物語。この小川沿いの小径は「哲学の道」と呼ばれ、東山慈照寺――有名な銀閣寺と続く。


を探すぞ」

「は? ソクラテスはアテナイの人で、京都には縁もゆかりもありませんよ」

「哲学ってワードの響きに釣られて、それっぽいのがいるはずだ!」

「そもそも哲学者って職人じゃないでしょ……」


 カメラさんのつぶやきを無視して佐々木は己の哲学の道を突っ走った。道中で見つけた石碑には、『人は人、吾はわれ也、とにかくに吾行く道を吾は行くなり』と刻まれていた。なんとなくいい言葉な気がしたので、佐々木は自身のセブンルールに加えることにした。


「いたぞ! 三角のなにかを手に、あの物憂げな表情の老人。あの風貌……あれ哲学者だろ!? 賢人めいた長い髭は、まさしく無知の知を説いたソクラテスだ!」

「生を食べているただのお爺さんですよ。髭にあんこついてるし」

「ふふっ、見つけたぞ撮れ高。ここが俺のアナザースカイだ!」


 佐々木はカメラさんの首根っこを掴んでソクラテス(爺)をフレームに収め続けた。その勢いのまま帰りの新幹線内で編集し、ガイアの夜明けに会社で上司に完パケを確認してもらった。


!」




 ————


「ソクラテス」→「お蔵です」

「八ツ橋」→「やっぱしー」

 という、しょうもないダジャレの二重オチです。

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