第2話


 書類を書き終え、運転免許を取り出し、


「終わりました」


 職員の女性が、書類と免許を受け取り、ペン片手にチェックし始めた。


 チェックし終わるとハンコを押し、


「いつほど出発致しますか?」

「今からでも」

「今日ですか……」


 女性は、パソコンを開いて調べ始める。


「ああ、午後の4時からなら、行けそうですね」

「ホントですか」

「えっと、今は11時半、これから検査と脳内インプットを続けて受けてもらえれば、間に合いそうでございます」

「はい、わかりました」

「異世界旅行について、ご説明いたしますね。パンフレットはお持ちでございますか」

「ああ、はい」


 パンフを机の上に出す。


 女性は受け取り、開いて僕に見せてきた。


 赤ペンを女性は取り出し、


「異世界に滞在できますのは、その世界での24時間でございます」


 とキュッキュッっと赤ペンで、パンフに書かれている注意事項の部分に線を引っ張る。


 千を引っ張った場所にも、異世界に滞在できるのは、その世界での24時間と言うのが書いてあった。


「事前告知もありません。その時間になれば、この世界に強制転移されます。ご注意ください」


 と赤ペンで、強制転移の文字に丸をする。


「はい」


 その後も赤ペン片手に説明してきた。


「現地での怪我などには、当社は責任を負いません、十分注意してください」

「はい」

「現地での犯罪行為は禁止いたします。違反した場合、異世界旅行会員の資格停止処分に致します」

「はい」

「異世界に行った時、異世界人に成りすます必要があります。ので、現地人の恰好をしてもらう事になります」

「はい」

「衣装の希望はありますか?」

「どんなのがあるんですか?」

「シャンナークはこちらでございます」


 女性は、カタログみたいなのを、下の引き出しから出してきた。


 イケメンの外人が衣装を着てポーズを取っている表紙だ。


 ページを開くと、羊飼い、商人、僧侶、戦士、魔法使い、いろんな衣装がイケメンの外人が着てポーズを取っている。


 うーん……何でも良いかな……。


 ……いや、せっかくだし……。


 いやでもなぁ……。


 ……無難なのにしとくか……。


 いや、せっかくだし……。


「じゃ、この、単なる冒険者で」

「冒険者でございますね、かしこまりました」


 ああ、やっぱ魔法使いとかが良かったかなぁ。やめときゃよかったかなぁ、魔法使えたりしたのかな。


 女性は黄色の書類に、冒険者、男、と書いていった。


「汚れなどは構いませんが、衣装の過度な破損は弁償になります。ご注意ください」

「はい」

「では、この書類を持って、そこの廊下に引いてある黄色い線をたどって、健康診断と予防接種を受けに行ってください」

「はい」

「では異世界での楽しい1日を」


 椅子から立ち上がり、軽く会釈して女性と別れた。


 黄色い線を、人ごみの中辿って、別フロアへのゲートをくぐりぬける。


 長ソファがいくつもあるフロアだった。


 黄色い線がいくつもに分かれ、その先にあるそれぞれのドアの前にみんなが一列に並んでいた。


 一番人の少ない列に並び、順番を待つ。


 ドアの先の小部屋には、看護婦さんと白衣を着た医者がいた。


「青い紙をご提出お願いします、封筒などはその台に置いてください」


 優しい声で言ってくる。


「はい」


 青い紙を取り出し、封筒を台に置いた。

 

 そして、医師の前の椅子に座る。


 僕の上着を脱がせられた。


「はい吸って、吐いて」


 聴診器を当てられる。


 続いて喉ちんこを見られる。脈も取られた。


 おしっこも取られるかな? ここに来る前にやったばかりだぞ、でないぞ……。


「はい、では尿と唾液を取りますので」

「あ、はい」


 コップを2個渡される。


 唾を小さいほうのコップに出して、とりあえず提出した。


 そして、トイレでおしっこをひねり出す。


 ……よし、なんとか、コップ3分の1は出た……。


 これで良いだろう、もう無理だ……。


「では、ソファに座って呼ばれるのをお待ちください」


 看護婦さんに言われる。


 ソファには、たくさんの待っている人達がいた。


 僕も、30分ほどソファで座って待つ。


 何やらドイツ語で書き込まれた、青い紙を返される。


「問題ありませんでした、では、予防接種を行います」


 前と違う看護婦さんに淡々と言われた。


 もう一度小部屋に入ると、


「じゃ、注射しまーす」


 医師は、やる気なさそうに言ってきた。


「何の病気の予防ですか?」

「異世界に行くんでしょ、そっちにあるこの世界で存在しない病気のだよ」

「そんなやばい病気なんですか?」

「ちょっと、じっとして」

「ああ、すいません」

「そんな致死性はないよ。ただ君はその病気に何の抵抗力もない、だから重くならないようにだよ」


 医師が注射針を僕の左腕に差し込んだ。


 注入されていく。


「よし終わった」


 医師が注射器を引き抜いた。


「では、青い線をたどって衣装室へ向かって」

「はい」


 青い線を、人ごみの中辿っていく。


 うーん……その病気とか、僕は軽症でも、ウィルスをしょい込んできてこの世界に持ってきたらダメなんじゃないのか? 蔓延するかもしれないよな……。


 こっちからも、異世界に病気を持っていっちゃダメだよな……まぁそのための検査だったのか……。


 辿っていた青い線が途切れる。


 顔を上げると、行列ができていた。


 遠くにカウンターが見える。


 見回すと、壁沿いにずらっと小部屋が並んでいた。


 中からキャッキャッと話し声が聞こえてきている。


 そして周りにいる多くの人は、異世界の服装を着ていた。

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