第22話 YouT◯be解禁

聞いて下さい!!!

私、進化しました!!


ああ、苦節数週間……。

何度もチャレンジしては挫折していた日々が、今ではなんと懐かしいことか……!


むふふ。むふふふふっ。

むふふふふふふふふふふふふふふっ。

むふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ!!



……え?

無駄なことしてないで本題に入れって?(汗)

こちらとしては喜びを最大限に表していたつもりですが……まあ、良いでしょう!!

私は今、超絶ご機嫌なのですから!!



――――コホン。では。

なんと!なーーーんと!!!


今までてんで役に立たなかった『スマホ』で、You◯ubeが見れるようになったのです!!



【ツヴァイリングホラーチャンネル】のアーカイブが見放題です☆(キラキラ)

昨夜、見逃してしまったトンネル回だって見れるのです!!


ほぼ毎日、生朔夜くんと生コタローくんを拝んでいるけれど、YouT◯beだけは別物なのです!

再生数を回して、回して、回しまくって、私が朔夜くんとコタローくんを世界一にしてやんよ!!


「私、最強!!」

『カーカーカアー!』

(やかましい!)

「痛っ!? 酷っ!何をするの!!」


背後からゲシッとカーコに蹴られた。


『カーカーア、カーカ?』

(鬱陶しいからだけど、何か?)


にっこりとした、圧に圧を重ねた笑みを浮かべながら、カーコが首を傾げた。


――目は口ほどに物を言う。

カーコの目には『次は目玉を刳り抜くぞ?』という、明確な殺意が浮かんでいる。


……ゴクリ。

普通のカラスならまだしも、幽霊わたしに攻撃できるカーコ姉さんだもの。殺ると言ったら殺るのだ。


「すみませんでした……!!」


ガクガクブルブル。

カーコの鋭い視線を感じながら、私は小刻みに身を震わせた。




――暗証番号は相変わらず分からないものの、勝手知ったる私のスマホ。


YouTu◯e登録チャンネルのトップには、勿論【ツヴァイリングホラーチャンネル】がある。


YouT◯beが見れるようになったことが嬉しすぎて、ついつい舞い上がって、先ほどのような醜態を晒してしまったけれど、私の目的はそれだけではなかった。


まあ、一番の理由は【ツヴァイリングホラーチャンネル】だけどね!


【ツヴァイリングホラーチャンネル】最高!

【ツヴァイリングホラーチャンネル】マジ最高!!

もう【ツヴァイリングホラーチャンネル】無しじゃ生きられないよね!!!

(擦り込みという名の宣伝中)


生前の私は、どんなに疲れきっていようが、高熱にうなされようが、余程のことがない限りは365日リアルタイムで配信を見ていた。

リアルタイムの配信が見れなかった時は、悔し涙を流しながらアーカイブを見ましたとも。……ええ。


チャンネルを開けば、懐かしい動画の数々があった。

どれもこれも思い出深いものばかりである。


スマホをスワイプしながら、ついニヤけてしまうのは、仕方のないことだ。……なので、蹴らないで!?



――初期の頃は登録者なんて殆どいなくて、機材も揃っていない状態で、スマホの明かりを頼りに二人は弾丸心霊スポット巡りを決行していた。


動画が増えていくにつれて、登録者も増え、動画の再生回数も順調に増えていった。

念願の収益化が叶った日には、『祝☆収益化』の生配信時に、GoProと遠くまで照らせる強力なライト、スピリットボックスを買ったのだと、それはそれは楽しそうに可愛いらしい朔夜くんが語っていた。

隣で一生懸命に頷いているコタローくんのなんと尊いこと……。(合掌)


何事に対しても真摯で一生懸命で、それでいて、面白くて、イケメンで……。

私はずっと朔夜くんとコタローくんの二人に癒されてきたのだ。


二人の作る動画が好きだと、少しでも感謝の気持ちを伝えたくて、必ずコメントもしていた。

気の利いたことなんて思い付かなかったし、面白いコメントでもなかったと思う。 

独りよがりだったかもしれないけれど、自分の気持ちを素直に書いたつもりだ。


あー……。


酔った勢いで泣きながら『二人が大好きです!この世に生まれてきてくれてありがとう!!』と…………血迷ったコメントを書き込んだことあったことを唐突に思い出した。


うわぁ……。ドン引きだよ!!

今更だけど自分で自分に引いた。


さっさと削除しとけば良かったのだけど、珍しくコタローくんがコメントくれた時だったから、消せなかったんだよ(泣)。


どの動画にも思い入れが詰まっていて、サムネを一目見ただけで、どこの心霊スポか当てる自信がある。


【サムネ当て選手権】なるものがあったなら、ぶっちぎりで優勝してみせるぜ☆


今まで流れるようにスワイプさせていた指がピタリと止まった。


ぐっと唇を噛み締めた私は、深呼吸を繰り返した後に、震える指で別の登録チャンネルを開いた。


【ツヴァイリングホラーチャンネル】ほどではないものの、そこそこに見ていたチャンネルだ。


それらを次々に開き、同じようにスワイプさせていっては、止まる。という行動を繰り返した。




――そして、私はまた【ツヴァイリングホラーチャンネル】を開いた。


『動画』→『新しい順』と順番に選択し、スワイプさせていけば、一つ目の境界線があった。

更に下へと、ゆっくりとスワイプさせていくと――



……ここだ。


毎回欠かさず見ていた私がよく知っている動画と、全く知らない動画という境界線が存在していた。

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