第17話 撮影準備
森の中の暮らしは孤独である。
ただそんな孤独の中でも、毎日のように物資や洗い物を運ぶ御坊&熊五郎をはじめ、来訪者がいないことはない。
来るのは、私に面識がある人間だけ。
(どういう技術かは知らないけれど)GOOGLE MAP上にこの場所は存在しないように加工されているらしく、限られた人間だけがこの場所へやってくる。
御坊、熊五郎そしてリュウちゃん。
最初リュウちゃんに場所を教えたと言ったら御坊は「……これやからシュルツは……ほんま、何しちゃあるんな、ほんま……」とめちゃくちゃ渋い顔をしていたが、しかしその心配は杞憂である。
リュウちゃんは信頼に足る人間であることは、私が保障する。だからそんなに心配しなくても良いのだ。
さらに、この夏からは新たな来訪者が訪れるようになった。
「今日もあっついなー」
と、ゴブリン氏が撮影機材をもってえっちらおっちらやってきた。
Tシャツ上半分の色が変わるほどの汗をかいている。あんなガリガリの細い体のどこからこんなに液体が出てくるのかが不思議で仕方がない。
「ご苦労さま」
「なんの、これも人間・エルフの分断のため!」
あの健康館での一件以来、彼は私の居住地を拠点としてエルフの集落の監視を続ている。
だいたい一週間ごとにこの森にやってきて、定点カメラを複数仕込み、次の来訪時に回収し内容を確認する……というのが彼の仕事なんだけど、三週目の手配となってもまだ成果が無いらしい。
「先週もだめだったな、奴らが中々隙を見せない……というより役場の職員がかなりうまく手を回しているらしくて、どうにもアヤシイ場面を撮影できない。交渉現場とか、そういう感じのやつ」
「むう……」
もちろん御坊の手回しがあるのだろう。
私に物資を運びつつエルフの警護にも隙のないとは、まさに八面六臂の活躍である。敵ながらあっぱれ。
特にゴブリン氏が来てからというもの、彼の警戒レベルが一段階上がったように思えるのは気のせいではあるまい。
「御坊さんもこっちに引き込めれば百人力なんだけどなぁ。シュルツさん、そのあたりなんとかなんないかな? 仲良いんでしょ? 彼に取り入るとか、好きそうなもので釣るとか……」
「別に仲良いわけじゃないし。物資持ってくるのも紀伊橘田町の決まりでやってることだし。ゴボーの個人的な感情もぜんぜん感じない。岩か大木みたいなやつだな。体もデカいし」
「そんな、モノみたいに言わなくてもいいんじゃない……?」
「何考えてるか分かんないんだよね。アイツはこっちの思惑も知ってるから、やろうと思えば思いっきり妨害できそうなもんでしょ。でもやってこない。私は自由に動ける。でもたまに怒られる。謎すぎ!」
私は放り投げるように言い、氷水につけた足をばしゃばしゃとバタつかせた。
「となると、妙案は思いつかないな……僕としてはなんとか休学期間が終わるまでに形にしたいんだけど……今週分の分析して何もなかったら、ちょっと次も考えないとな……」
ゴブリン氏はこの大いなる作戦のために学業を一時中断している。聞けば入学するのも至難の由緒正しき大学だそうだが、彼自身はそこまで執着はないみたいに見える。
「休学は秋の授業が始まる9月末日までだし……それまでには、なんとか……」
そんなことなら大学を辞めてはどうかと提案したこともあるが、ゴブリン氏曰く「それはちょっと違う」らしい。
まぁ、彼にも色々とあるのだろう。色々と。
「とりあえずこの問題は一旦棚上げしといて……シュルツさん、いよいよ『S氏の告発動画』とりますか」
と、ゴブリン氏は私に原稿を手渡した。「しっかり練ってきたんだ、これで間違いないよ」
「……そうね」
ついに、第一の作戦を決行するときがきたようだ。
「エルフ・人間の分断のため、死力を尽くそう……!」
私とゴブリン氏は力強く頷きあい、撮影場所へと移動を始めた。
(つづく)
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