第17話 メルチ大尉

「噓よ、そんなことするわけないでしょ、ちょっといじめてみたかっただけ。でもショックを受けてくれてうれしいな、もう一度見せてあげよか、わたしの」

 

 また脚を広げようとする先生を、航は慌てて止めた。見たいのはやまやまだけど、話が前に進まなくなる。

「たぶん君や君の妹が覚醒したから、影響を受けたんだと思う。誰かっていうのは明日向こうからアプローチがあるよ」


「誰かわからないんですか、それってやばくないですか。いきなり殴られたりしませんか」

 要は恋敵ということなのだろう、なら、いきなり手を出される可能性はあるような気がするんですが。向こうは自分を知っているのだろうか。


「大丈夫、そんな馬鹿じゃないとおもうよ。それに向こうもツバイ大尉が君ということはわかっていないはずだから。明日学校で顔を合わしたら、お互いにわかることになると思う」


「先生は誰かわかっているみたいですね、教えてくれないんですか」

「うん、それはダメ、フェアじゃないでしょ、君だけわかっているのは。たぶんびっくりすることになるよ、二人とも」


 言わんとすることはわかるような気もした。

「じゃあ、せめてメルチ大尉ってどんな男なのかぐらいは」


「いいよそのつもりで呼んだんだから、はい手を出して」

 先生は航の手を左胸にあてた。

「また触らせてあげる、うれしいでしょ。話すよりこの方が早いから」


 航が言葉を発するより早く、先生の胸の柔らかい感触と、大量の映像が一気に流れ込んできた。


「私はメルチ、君は」

 学校の入学式のようだ、多くの若者が整列している。

 隣の女性が握手を求めてきた。

 女性? 女性なのか、士官学校の同期じゃないの。そりゃあ女性の軍人もいて不思議じゃないけど。


「私は男性なんて一言も言わなかったよ」

 航の頭は完全に混乱している、姫を取り合ったライバル、そういったじゃないか。そういえば美咲も男性だとは一言も言わなかった。


「ツバイ、西の国の出身だ。よろしく」


 メルチとツバイ、つまりは航は気があったらしい。次々と流れる士官学校での生活の様子では常に二人はバディをくんでいた。


 訓練は厳しかったようだが、メルチは抜群の身体能力と知能で常にツバイの前にいた。どうやらツバイが無事に士官学校を卒業できたのは、彼女のおかげだったようだ。


「どうして彼女が姫をめぐるライバルになったんですか? むしろツバイとくっついた方が自然だったんじゃないですか」

「知らない、女性が好きだったんじゃないの」


 先生は例によって何か知ってそうだが、今は言う気はないみたいだ。

「隠してないよ、今送り込んだから、そのうち見えるんじゃないの。で、いつまで触ってるのかなあ、それともする?」


 先生は舌なめずりをした。そのしぐさにどきりとしたが、挑発には乗らない、きっとろくなことにならないはずだ。


「ち、残念、いい加減になびけばいいのに。のんびりしてると他の男に抱かれちゃうからね」

 どこまで本気かわからない。それでも航は、先生の作る夜ご飯を食べていくつもりにはなっていた。


 先生といると美咲や中土井とは違う心地よさがあった。今の先生の魅力なのか、それとも前世の因縁なのか、そのうちにわかることもあるかもしれない。







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