第23話 鍋と共に休息

 奈々に一連の出来事を報告して家に帰ってきた。


「ワンワン!」


「…………待て。ワンワンはとりあえずいいから、その座り方やめてくれ」


「くふぅん?」


「目に悪いんだよ! さっさと普通に座れ!」


 入って早々に犬座りしていたシホヒメを叩き起こす。


 そもそもミニスカートでその座り方をするなよ……一体何のエ〇ゲーだ……はあ…………。


「それより、ひとまず特大魔石の販売のおかげで次の配信までの生活費と入院費は問題ない。問題はガチャだな」


 頭の上に乗っていたリンをテーブルの上に置いて、シホヒメと座り込んだ。


「リン。さすがに次の配信までガチャを引けないのは厳しい」


「あい……」


「明日からは配信はないが午前中はダンジョンで魔石を集めてガチャを回す。午後から奈々のところに向かう。これでいいか?」


 リンがコクリと全身を縦に動かして理解を示してくれた。


「エムくん! 魔石! 魔石!」


 シホヒメは袋に大量に入った魔石を持って目を光らせる。


「あれ……? 増えてないか?」


「取って来たの!」


「…………そりゃ数日も寝ていないからシホヒメも大変だな。とにかく今日の分のガチャを回すか」


 魔石は全部で二千個にも達して十連が二回も回せるようになった。


「ガチャ~! ガチャ~!」


「わかったわかった」


 また犬座りしようとするシホヒメを宥めて、早速十連を回す。


 黒が十個落ちて、最後に白が落ちる。


 黒はジュース、スリッパ、ラバーカップなどはずればかり。


 目的でもある白からは――――枕が出て来た。


「ま”く”ら”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」


 空中に飛んだ枕に抱き着くシホヒメ――――もちろん触れることが出来ずに通り過ぎた彼女はそのまま壁に直撃した。


 ドーンという大きな音をなびかせる。


 顔面をぶつけた彼女がゆっくりと振り向く。


「し、シホヒメ……鼻血が出ているぞ?」


「ま”く”ら”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」


「待て待て!」


 またもや突撃して通り過ぎる。


 このままでは家が大変な事になりそうなので急いで枕を手に取って彼女の布団に移動する。


「はあはあ……エムくん……はあはあ…………」


「お、おい、俺に発情するな!」


「エムくんの……それ……はあはあ…………」


「落ち着いてっば! ここに置くから。さあ……いち……に…………さんっ!」


 布団にポンと置くと、シホヒメが「しゃああああ~!」と叫びながら飛び掛かってきた。


 ギリギリで横に飛んで避ける。


 綺麗な金髪がふわっと広がると共に、そこから見える水を得た魚のような満面の笑顔。


 着地する直前に、器用に空中で回転して大の字になって眠りについた。


 …………ミニスカート履いてるから色々見えるんだよな……白か……まさか、勝負パ――――いや、やめておこう。


 そっとスカートを直してあげて、布団をかけてあげた。


「さて、もう十連回すか」


 二十連目回すと、相変わらず全黒からの、白が落ちた。


 今回現れたのは――――パックにお肉と野菜がたくさんはいっていて、キューブ型の鍋の元が一つ入っている。


「高級鍋セット……」


 まあ、いっか。


 鍋を取り出して一人で鍋を作り始めると、リンがぴょんと飛んでテーブルの上で鍋を見つめ始める。


「ご主人しゃま……」


「うん?」


「ソーセージ……入れて……」


「そうだったな。ちょっと待ってな」


 すぐに冷蔵庫から大量に買っておいた安いソーセージをたくさん入れる。


 スライム姿になっているリンが嬉しそうに体を揺らすのが可愛らしい。


 指を伸ばしてツンツンと押してみると、程よい弾力がまた可愛さをより際立たせる。


「なんかこうしてゆっくりしている日は久しぶりだな……毎日配信に追われて頑張っていたからか。ああ~一千万円欲しかったな~一千万円だと何連だ?」


「特大魔石……八十三個……」


「まじかよ……百連を八十回……やべぇ…………」


 いまさらだけど、羽根にそれだけの価値があるならすぐにでも売りたいくらいだ。


 それで奈々の薬を引けるなら…………。


「なあ、リン」


「あい……」


「奈々の薬…………ガチャから出るのかな?」


「…………」


「あはは、すまん。ちょっと弱ったのかもな」


「ご主人しゃま」


「ん?」


 リンが俺の胸に飛んで来てくっついた。


 そして――――


「薬。出るよ」


「!?」


「でも…………薬……出ても……リンのこと……」


 珍しく悲し気な声を出すリンをおもわず抱きしめる。


「リンは俺の従魔だ。これからも末永くよろしくな?」


「あい……♡」


 うむ……巨乳はあれだが、スライムの時のリンは素晴らしいくらい癒されるな。


 鍋の蓋がガタガタと揺れて中から美味しそうな湯気が溢れると共に、美味しそうな香りが部屋に充満する。


 静かに寝息を立てて幸せそうに眠ってるシホヒメを眺めながら、鍋を食べ始める。


 熱々のソーセージを美味しそうに頬張るリンも愛らしい。


 手を伸ばしてリンを撫でる。


「美味しいか? リン」


「あい……♡」


 高級鍋セット……ハズレだろうけど悪くないな。


 リンが言っていたことを信じてこれからもガチャを引き続けると決心した。

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