第4話 一夜明け…
次の日、霊妖町は騒がしかった。何しろ地元の神社で二人の死体が発見されたのだ。鑑識の結果、死亡したのは町内に住む三十代女性と近所の高校に通う須藤章正であるということが判明した。神社には早朝から警察の捜査が入り、鳥居の前には野次馬や報道陣で溢れかえっていた。
この事件の大きな謎、それは犯人の証拠が一切現場に残されていないこと。恐らく事件は未解決のまま終わるだろうと、識者は言った。
それが大きな話題性を呼び、各テレビ局で特集が組まれていた。新聞は地方紙のみならず全国紙でも大きな見出しで一面を飾った。SNSでもトレンドに乗るほどの影響力だ。そのせいか、報道陣だけでなく再生数稼ぎのYouTuberまでも事件現場に訪れていた。
もちろん、章正の学校でもこの話で持ち切りになっており、多くの学生が事件現場に集まっていた。
「うわー、めっちゃ人いるじゃん。やばー」
「テレビカメラとか初めて見たんだけど」
「誰が死んだんだっけ?」
「ほら、五組の須藤君じゃない」
「いたっけ?
そんな人」
「知らねー」
「それよりさ、犯人まだ見つかんないの?
この町にまだいるって考えたら怖いんだけど」
「それなー」
学生達は好き勝手に喋っていた。憶測や陰謀論までネットニュースに出回り、情報が錯綜していた。何が本当で何が嘘か。誰もがその正当性を判別しかねていた。それは警察にしても同じだった。いくら現場検証を繰り返しても、犯人特定に繋がるような情報は一切なかった。付近の監視カメラの映像や近隣住民への聞き込みも入念に行ったが、どれも手がかりになるようなものはなかった。
◆◇◆◇◆
捜査は一週間続いた。しかし、これといった進展はなかった。
この事件の捜査を任された森田警部は頭を抱えていた。彼は今年四十五歳になる敏腕刑事だ。これまで数々の捜査に携わってきた。しかし、今回の事件ばかりは簡単ではなかった。
「参ったな……、これだけ調べて何一つ手がかりが得られないんだからなぁ……」
これだけ進捗がないと、捜査規模縮小や最悪の場合、捜査打ちきりというのもあり得る。被害者の女性及び章正や彼らの両親のためにも、この事件は解決したいと森田警部は思っていた。
「どうしようかねぇ……」
すると、若い男性の警官が彼の元へやってきた。
「森田警部、今お時間よろしいでしょうか?」
「おや、君は最近ウチに配属された杉本巡査部長か。何か見つかったか?」
「いえ、ですが警部にお会いしたいという方がいらっしゃいまして……」
「ん?
誰だ……、まさか金田警視が直接?」
「……それが――――」
「森田警部っていうのはあんたのことかい?」
杉本巡査部長が発言する前に、とある女性が現れた。顔立ちの整った純和風美人という言葉がよく似合いそうな人だと森田警部は思った。
「誰だ……、あんたは。関係者以外立ち入り禁止の筈だぞ」
訳の分からない人物を現場に入れる訳にはいかないと森田警部は女性に帰るよう促した。しかし、女性も引き下がろうとはしなかった。
「これはこれは申し訳ない。だが、あんた達の上はあたしらに捜査を一任することにしたらしい。はい、これ同意書、権利書諸々ね」
自慢気に女性が複数枚の書類を森田警部に手渡した。森田警部も最初は懐疑的だったが、書類を読み進めていくにつれて、顔色が変わった。
「……なるほど。これが上の判断か」
森田警部は全てを悟った。
「そうさ。さっ、あんた達はいても邪魔だからさっさと撤退してくれないかねぇ」
女性は淡々と命じる。悔しいが、彼女に指揮権が渡った今、自分達にできることは何一つないと森田警部は感じた。
「……分かった。現場に必要なものは残しとく。あとはあんたらの好きにしろよ」
「すまないねぇ……」
そうして、警察は撤退を余儀なくされた。
森田警部がパトカーに乗り込もうとしていると、杉本巡査部長が悔しさを滲ませた顔をして近付いてきた。
「どういうことですか警部!
何であんなどこの誰かも分からない女に全部任せるんですか?」
至極真っ当な意見だと森田警部は思った。しかし、世の中はそう甘くはないと彼は知っていた。
「杉本巡査部長、君はまだ若い」
「――――?」
「このまま刑事として働き続けたいのなら、知らないフリしとくのが世渡りのコツだぜ」
「ですが……」
「仕方ないさ、この事件は既に俺達の手を離れた。彼女らに捜査が託されたっていことはそういうことなんだろうな」
「それは一体……」
「おっと、それ以上は警部以上の者が知れる機密事項だ。知りたかったらお前もさっさと昇進しろよ」
杉本巡査部長を残して、森田警部を乗せたパトカーは走り去って行った。
◆◇◆◇◆
さて、純和風美人改め――
「……、これは明らかに妖魔の仕業だね。彼らでは手が及ばないのも納得だ」
誰の仕業かはすぐに分かった。だが、何が原因で彼らが死んだのか礼子は腑に落ちなかった。
「しかし、妖魔が人を殺したのは十年ぶりくらいか……、近年目立った動きはなかったのになぜ……」
その時、礼子は地面に埋まっていた石の破片に気付いた。
「なんだい……、これは……」
不思議に思いながら破片を摘まむと、礼子の顔つきが変わった。
「まさか……!」
◆◇◆◇◆
その夜、霊妖町に一筋の流星が落ちてきた。煌々と光を放ち、真っ暗な空を明るく照らした。それは妖しい紫色に輝いていて、目撃した者を魅了したという。しかし、光は上空で突然消えてしまった。
人々は珍しい隕石に違いないと、金儲けのために霊妖町のあちこちを奔走するのだが、誰も見つけることはできなかったという。
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