第17話




 朝日が眩しく部屋に差し込み、少しずつ意識が浮上してくる。右腕に、毛布とは別の暖かさを感じ、心地が良い。


 ぱちり、と目を開けるとそこには。


「おはようございます、旦那様。」


 と嬉しそうに微笑む婚約者、アレクサンドラが添い寝していた。



◇◇◇




「サンドラ・・・いつも言っているだろう。添い寝をするのは式の後だと。」


 もう毎朝の恒例となってしまったこの小言も、アレクサンドラには全く響いていないようだ。辺境伯領に到着して二週間。アレクサンドラは屋敷中の使用人たちにも、領民にも歓迎され、今は領地経営の仕事を熱心にしてくれている。たった二週間で、アレクサンドラの評価は鰻登りだ。そのことには、アルバートも感謝している。だが一点困ったことが。



「だって、どうしてもアルに触れたいんですもの。」


 アレクサンドラは隙あらばアルバートに触れる機会を狙っている。これだけは、いくら諌めても止める気配はないどころかエスカレートしている。今も、体を起こしたアルバートの膝の上に乗り始めた。


「サ、サンドラ!こんな薄着で密着してはいけない!」


「でも、あの日はお許しになってくれたわ。」


 あの日、というのは、宿屋で一緒に泊まった日のことだろう。


「あの日は、君が寒がっていたから仕方なく・・・それに夜着ほど薄着じゃなかっただろう。」




 ぺたり、と体を寄せてくるアレクサンドラに流されまい、とアルバートはアレクサンドラの頬に手を添え、口付けする距離の一歩手前まで自身の顔を寄せた。


「ア、アル・・・?」


「目の下に隈が出来ている。私が寝た後にここに忍び込んでいるということは、私よりも毎晩遅く眠っているのだろう。」


「へ、へいきですわ。むしろ王太子妃だった頃よりもたくさん眠っていますもの。」


「駄目だ。サンドラの体が心配なんだ。」


 形勢逆転し、顔を赤くしてオロオロしているアレクサンドラの瞼に口付けを落とすと、へにゃり、と身体中の力が抜けてしまう。アレクサンドラは、積極的すぎるくらいぐいぐい来る割に、アルバートからのアプローチには弱く、初心な反応を見られるところをアルバートは気に入っていた。執事のジャンが入室したのを片手を振って、追い払ってしまうくらいには。

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