第91話 つまり、レナードお兄様ラブってこと

 引き続き訓練場を見学していると、今度は外から大きな声が聞こえてきた。もしかして、レナードお兄様が騎士団を視察しているのかな? 確か予定ではそうなっていたはずである。


「次は屋敷の外を案内いたしますわ」

「お願いするよ」


 どうやら俺の見学と、騎士団の視察の時間を合わせてくれていたようである。フレアちゃんに案内されて室内訓練場から外に出ると、そこにはすでにたくさんの騎士たちが集められていた。もちろんレナードお兄様の姿もある。

 よく見ると、奥にリングのようなものがあった。決闘でもするのかな?


 気になりながらもレナードお兄様の話を聞いてみると、どうやらその場所でこれから模擬戦をするみたいである。迎え撃つのはレナードお兄様。大丈夫かな?

 ハラハラしながらそれを見守っていたのだが、心配なんていらなかった。


 レナードお兄様、強い。もう少し手加減してあげた方がいいんじゃないかな? と思うくらい強い。フレアちゃんも無双するレナードお兄様に目がクギづけになっていた。

 うう、やっぱり男の子は強い方がいいよね。召喚スキルは強いけど、俺自身は普通の子供だからな~。残念無念また来世。


「レナードお兄様は強いね」

「そうですわね……」


 レナードお兄様に尊敬のまなざしを向けるフレアちゃん。まあ、俺からすると”ですよね”って感じなんですけどね。

 いいもん、俺にはかわいいラギオスとモグランがいるから。

 そんなちょっといじけている俺にレナードお兄様が気がついたようである。


「ルーファスもどうだ?」

「遠慮しておきます」


 即答する俺。そして困惑するレナードお兄様。きっと少しは手加減して、俺に花を持たせるつもりだったのだろう。でもね、俺の実力じゃ、そんなのすぐにバレると思う。それなら、そんな不正はやらない方が王族の権威を傷つけなくてすむはずだ。接待ゴルフなんて、ノーサンキューである。


 その代わりとは言ってはなんだが、フレアちゃんが戦いたそうなんだよね。剣聖の胸を借りる機会なんてめったにない。それが憧れの人物なら、何をか言わんやである。


「フレア嬢はレナードお兄様と戦ってみたいんじゃないの?」

「それは、その……」

「遠慮しなくていいよ。レナードお兄様、フレア嬢が手ほどきを受けたいそうです!」

「そうか……よし、あがりたまえ」

「は、はい!」


 うれしそうに返事をするフレアちゃん。その目はキラキラと太陽のように輝いている。そして頭を抱えているフルート公爵。

 そんな公爵のことなど知ってか、知らずか、リングにあがり、木剣を受け取るフレアちゃん。そしてすぐに模擬戦が始まった。


 うん、俺なんかよりもずっと強い! よかった、あの場所にあがらなくて。大恥をかいていたところだった。ナイスだ俺。よくやったぞ俺。

 思わず笑顔になっていると、両脇から不満そうな声が聞こえてきた。ラギオスとモグランである。二人ともどうした。


『主、これでよいのですか?』

『監督のかっこいいところも見たいんだなー』

「いいんだよ、これで。俺のかっこいいところなんて見せなくていいの。俺、今回の旅では問題を起こさないって決めてるんだ」

『もうすでに手遅れなような気が……』


 おおう、ラギオス、辛辣ぅ! その目はジットリとしている。きっと盗賊退治のこと言っているんだろうな。でもそんなの関係ねぇ。


「大丈夫、まだワンナウトだからさ」

『ワンナウト……』

『監督……』


 そうこうしている間に決着はついたようだ。もちろんレナードお兄様の勝ちである。それにしてもずいぶんと手加減が上手だよね? あの満足そうな表情をしているフレアちゃんを見てよ。


 これはアレだな。火属性魔法スキルをきわめる暇があるなら、剣術の訓練をするようになるな。なんとなくその光景が見えるような気がした。フルート公爵もぼう然としている。

 つまり、フルート公爵は二重の意味で頭を抱えているってこと。


 その後も数人がリングへあがって、レナードお兄様にたたきのめされたところで終了の時間になった。

 天使のような笑顔で無双するレナードお兄様。それをあがめるように見ていたフレアちゃんがハッと我に返る。


「あ、あの、ルーファス様……」

「楽しめたみたいだね。レナードお兄様が戦っている姿なんてそうそう見られないからね。いい勉強になったかな?」

「はい、とっても」


 明るい笑顔をこちらへ向ける。もしかして、レナードお兄様のことが好きだったりするのかな? あれだけかっこいいもんね。それは仕方がないことかもしれない。

 でも、俺は馬に蹴られて死にたくないので、すべてを飲み込むことにした。好きにしてもらっていいんだよ。


 屋敷へ戻ってきた俺たちは夕食の準備が整うまで、案内された客室で休むことにした。もちろんレナードお兄様とは別々の部屋である。


「いやー、馬車の旅は思ったよりも疲れるね」

『どうしてダーリンは剣術が使える子を呼び出さなかったのよ。そうすればダーリンが惨めな思いをしなくてもよかったのに』

「ティア、気持ちはうれしいけど、別に惨めな思いなんてしてないからね? こんなもんだよねとは思ったけどさ」


 不満そうに口をとがらせているティア、そしてアクア。どうやらご主人様にはかっこよくあってほしいみたいだった。

 でもなー、俺がそうすると問題しか起こらないんだよなー。


 剣聖スキルを持つレナードお兄様に勝てるような魔法生物を呼び出したら、剣聖スキルの価値が一気に下がる。レナードお兄様も自信をなくすはずだ。

 そして俺の魔法生物がレナードお兄様に勝ったところで、俺にはなんのメリットもない。すごいですねーと言われるか、またやらかしたのかと言われるのがオチである。

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