第74話 つまり、魔道具師は存在するってこと

 トラちゃんの中から送風箱の取り扱い説明書を出してもらい、国王陛下に渡す。もちろん説明書は古代文字で書かれているので解読する必要がある。

 どうやって説明しようかなと思っていたのだが、その心配は不要だったようである。フンフンと言いながら、国王陛下が説明書を読んでいる。


 どうやら国王陛下も古代文字を読めるみたいだ。それもそうか。古代人が使っていた魔道具に興味があるのだ。古代文字を読めるようになっているのは当然か。

 もしかすると、ギリアムお兄様がやたらと古代文明に興味があるのは、国王陛下の後ろ姿を見て育ったからなのかもしれないな。


 そしてそれによって古代文明オタクになったギリアムお兄様の二の舞にならないように、お母様は俺とレナードお兄様にその姿を見せないようにしていたようだ。

 でもまあ、ギリアムお兄様は学者スキル持ちだからね。もし国王陛下の後ろ姿を見ていなくても、同じ結果になった可能性は十分にあると思う。

 国王陛下のせいでも、お母様のせいでもないのだ。


 目の前で、新しいおもちゃを手に入れた子供のように送風箱を操作しては、小さな歓喜の声をあげる国王陛下。

 もしかして、トラちゃんの中に魔道具が入っていることをあらかじめ想定していた? そのために俺をここまで呼んだのではないかという疑惑が、俺の中に沸々と湧き上がる。


「国王陛下、お話が終わったようでしたら、私はこのあたりで……」

「待った。ルーファス、まだ同じ物が入っているのだよな?」

「ええ、まあ、そうですが」

「それではもう一つ出してもらえないか? そっちは魔道具の研究のために、魔道具師たちに渡そうと思っている」


 やっぱり魔道具師はいたのか。それもどうやら、国王陛下が管理しているようである。

 超古代文明時代の遺産はどの国も必死になって調査しているはずだからね。存在していて当然か。


 だがしかし、表立って活動してるわけではないようだ。やっぱりスパイとかに狙われるからなのかな?


「もちろんですよ。トラちゃん、お願い」

『分かりました』


 先ほど同じ送風箱を国王陛下へ渡す。どうやら最初に出した送風箱を、研究のために魔道具師に渡すという考えは、国王陛下にはなかったようである。さすが。


「これで我が国の超古代文明時代に対する理解はさらに深まることになる。これはもしかすると、アレも動かせるようになるかもしれぬな。ルーファス、よくやってくれた。褒美を出そう」

「ありがとうございます。その、アレ、とは?」

「ふむ、ここだけの秘密だぞ?」


 そう言ってから、国王陛下が手招きをした。あんまりよくない行為なのだが、国王陛下の顔の近くまで自分の顔を寄せる。


「実はな、巨大な船がこの国のとある場所に眠っているのだよ。研究者によると、空を飛ぶ船だそうだ」

「まさか、飛行船ですか!」

「シッ、声が大きい!」

「す、すみません」


 チラリとバルトとレイを見る。二人はどこか遠くを見つめており、今の話は聞かなかったことにしたようだ。世渡り上手な二人である。

 それにしても飛行船があるだなんて。超古代文明時代って、ものすごい時代だったのでは? これなら惑星外へ出ていてもおかしくはないな。


「本当にそんなものが?」

「ああ、あるのだよ。しかし、飛行船か。いい名前だな。その名前を使わせてもらおう」

「ど、どうぞご自由に」


 まずい、余計なことを口走ってしまったかもしれない。空飛ぶ船の名前がこの場で決まってしまった可能性があるぞ。

 本来は別の名前だったかもしれないのに、前世の記憶がー。まあ、言ってしまったものは仕方がないか。なるようになるさ。


「おっと、忘れるところだった。この話はギリアムには内緒だぞ」

「もちろんです」


 空飛ぶ船がこの国のどこかに眠っているとギリアムお兄様が知ったら、間違いなく城を飛び出すだろうな。その結果、船が空を飛ぶまで帰って来なさそうである。絶対に口に出せない。


 それよりも、国王陛下にあげた送風箱がお母様に見つかると非常に厄介なことになるんじゃないのかな。そのことは自覚しているのだろうか。してるよね? 俺は信じているよ。

 それから魔道具は国王陛下の命令で出したのであって、執務が滞っても俺が原因じゃないからね。そこのところ、よろしく。


「それでは褒美の話に戻るが、何か欲しいものはないのか?」

「それでしたら、私が召喚した魔法生物たちと走り回れる場所が欲しいです」

「なるほど、それがあれば、他の召喚スキル持ちも自由にその力を試すことができるな。ルーファス、今、我が国はどの国よりも召喚スキルに対する理解が進んでいると思わないか?」

「そう思います」


 俺の返事に我が意を得たりといった様子でうなずく国王陛下。どうやら国王陛下は魔道具だけでなく、召喚スキルでも他国よりも先を行こうとしているみたいだ。

 俺としても召喚スキルの知名度が広まる結果になるので、渡りに船である。


「よし分かった。すぐに場所を選定して、ルーファスに与えることにしよう」

「ありがとうございます」


 みんなの遊び場ゲットだぜ! これでみんなが運動不足に悩むことがなくなるぞ。そのうち”ふれあい魔法生物園”なんかを開催するのもいいかもしれない。子供たちに楽しんでもらえば、きっとこれから召喚スキル持ちが増えるはずだ。

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