第64話 つまり、気になるってこと
それでは今日も元気よく召喚ギルドでの仕事を、と思ったところでバルトから待ったがかかった。
「ルーファス様、お忘れではないでしょうか?」
「何を?」
「シュークリームとみたらし団子を王族の方々に試食していただくというお話のことです」
「そうだった、忘れてた」
ナイスバルト。ワンポイントあげよう。朝食の席では一言も話題に出なかったから、完全に忘れてしまっていた。
もしかしてみんなも忘れてる? いや、他はともかく、ギリアムお兄様に限ってそれはないか。
ギリアムお兄様が召喚ギルドに襲撃を仕掛けて来る前に、ちゃんとこなしておこう。そうでないと、暴走したギリアムお兄様が、またダイニングルームで素振りをすることになってしまう。
そろそろ調理場も朝食の片づけが終わった頃合いだろう。料理人たちが遅い朝食を食べているかもしれないが、それでも大した問題にはならないはずだ。
「バルト、レイ、調理場へ行くよ。セルブス、ララ、行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ」
「あう……」
ん? どうしたんだ、ララ。そんな悩ましげな声をあげて。もしかして、シュークリームとみたらし団子を食べてみたかった? もう、しょうがないにゃあ。
「予定を変更する。ルーファス・エラドリアの名において命じる。顕現せよ、テツジン・シェフ!」
『マッ!』
「シュークリームとみたらし団子を作ってほしい。材料を教えてもらえるかな?」
『マ』
テツジンが紙にペンを走らせる。そんな俺たちの様子を見て、ララが申し訳なさそうにしていた。
このままではよくないな。できる男はさりげなく女の子をフォローするのだ。
「調理場で料理人たちに作ってもらう前に、まずはここで試食しよう。おいしくなかったら困るからね。みんなには申し訳ないけど、実験台になってもらうよ」
「それはそれは。お手柔らかにお願いします」
「が、頑張ります!」
すべてを察したような顔をしたセルブスが冗談交じりにそう言った。バルトとレイも異論はないようで、にこやかに笑っている。
よしよし、これでララの腹ぺこ疑惑は一掃されたはずだぞ。
「レイ、この食材を調理場からもらってきて」
「承知いたしました」
一礼すると、レイが風のように去って行った。どうやら素早さは、バルトよりもレイに軍配が上がりそうである。その代わり、バルトは体格がいいので、ディフェンスには定評がありそうだ。
レイが戻ってくるまでの間に、トラちゃんの中から加熱調理器具を取りだしておく。そしてみんなも呼び出しておく。みんなにもシュークリームやみたらし団子を食べてもらいたいからね。
俺がみんなを呼び出しているのを見て、セルブスとララも自分たちの魔法生物を呼び出し始めた。まだまだぎこちない動きではあるが、慣れれば意識せずとも呼び出してモフモフしようと思うことになるだろう。
『あの、主、何か用があって呼び出したのですよね?』
「そうだよ。ラギオスをモフモフするために呼び出したんだよ」
『それでは……ベアードは?』
「ベアードは吸うためだよ」
あ、ラギオスが遠い目をして天を見上げている。それにつられてベアードたちも天を見上げ始めた。だがそこには天井しかなかったので、しきりに首をかしげている。
もしかすると、理由もなく魔法生物を呼び出すのは俺が初めてなのかもしれない。そして創造神は、それも見越して俺をこの世界に転生させたんだろう。魔法生物の進化のために。
「みんなにもおいしいものを食べさせてあげるからね」
『昨日食べたプリンとはまた違うみたいね。どんなお菓子なのか楽しみだわ』
『甘いのですよね? 甘いお菓子は幸せな気持ちになります』
ティアとアクアは特に甘いお菓子が気に入ったようだな。ほかのみんなもそれとなく観察してみると、なんとなくそわそわしているように見える。口には出さないけど、気にはなっているみたいだ。
ふむ、セルブスが呼び出したマーモットをなでているな。なでられたマーモットが少し首をかしげている。
いいぞ、これ。マーモットが自らの意志で反応しているという証拠である。セルブスもそれに気がついたのか、先ほどよりもワシャワシャし始めた。ちょっと楽しそう。
ララは召喚したバードンを交互の指に乗せて歩かせていた。その足下ではマーモットが上を見上げ、その様子を観察している。
もしかして、少しずつだけど魔法生物を同時に動かせるようになってる?
まさかこんなに早く効果が現れるとは思わなかった。この調子だと、それほど時間をかけずに、複数体の魔法生物を同時に行動させることができるようになるかもしれない。
そうしてみんなと戯れている間にレイが戻ってきた。料理長を連れて。
「ルーファス様、料理長がぜひとも作っているところを見たいということです」
「急に訪ねてしまって申し訳ありません、第三王子殿下。これからシュークリームとみたらし団子のお菓子を作ると聞きました。どうかその様子を見せていただけませんでしょうか?」
体が直角に曲がる料理長。これは俺が許可するまで、絶対に頭をあげないやつだな。そのキレイな姿勢から、その気迫が伝わってくるようである。仕方ないな。どのみちこれから作ってもらうことになるわけだし、鴨が葱を背負ってきたと思うことにしよう。
「顔をあげてよ、料理長。もちろん構わないよ。試食を済ませたら、みんなに作り方を教えるために、調理場へ行くつもりだったからね」
「なんとありがたい! ……ところで、その金属製の箱はなんでしょうか?」
頭をあげた料理長が、すぐにテツジンの隣に置いてある加熱調理器具に気がついた。あ、これもしかして、まずいやつなのでは?
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