第55話 つまり、調理場の設備を使えってこと
テツジンと一緒に加熱調理器具の使い方を確認する。フムフム、どうやら俺が使っていたオーブントースターと同じような使い方でよさそうだな。
ダイヤルを回して時間と温度を調節し、この丸いボタンを押せば調理が開始するようだ。
全面の扉を開くとガシャコンと台座が前に少しだけせり出してきた。これなら鉄板の上に物を載せるのも楽にできる。もちろん鉄板は簡単に取り出せるぞ。
『主、ずいぶんと手慣れてますね』
「まあね。俺、第三王子ですから」
『その言い訳はちょっと苦しいのではないでしょうか?』
心配そうにこちらを見てから首をひねるラギオス。確かにそうかもしれない。俺は急いでトラちゃんの中から取り扱い説明書を出してもらった。
もしかしてないかなと思ったけど、ちゃんと存在していた。
「う、読めない。これって古代文字だよね?」
そう言ってから、この中で一番、知識量が多いと思われるセルブスに見せた。慎重にそれを確認すると、ゆっくりと首を縦に振った。
「間違いありません。こうして完全な形で古代文字が残っているのは、非常に貴重なはずですよ」
「それはまずい。ギリアムお兄様には見せられないな」
古代文字を読める王族はギリアムお兄様くらいではなかろうか。こんなときのために、俺も古代文字を学んだ方がいいかな? でもギリアムお兄様に古代文字を教えてほしいと頼んだら、そっちの沼に引きずり込まれるかもしれない。どうしたものか。
「ラギオスは読めない?」
『残念ながら読めませんね』
申し訳なさそうに首を左右に振るラギオス。しょうがないよね。古代文字を読むために召喚したわけじゃないからね。新たに古代文字を読むための魔法生物を呼び出してもいいけど、今いるメンバーで読める子はいないかな?
「ティアは?」
きっと無理だろうな、と思いつつ、テーブルの上でマリモにまたがっているティアに取り扱い説明書を見せた。
『えっと、使用上の注意。最初に魔晶石に魔力が充電されているかどうかを確認して下さい、だって』
「読めるの!? まさかティアにそんな学があっただなんて。これは驚きだ」
『ちょっと、それどういう意味よ。あー、なんだか読めなくなってきたなー』
「はわわ! 天才ティア様、どうか無知な私にそのお力をお貸し下さい」
ここでティアにへそを曲げられて振り出しに戻るのは困る。もうすぐレイがプリンの素材を持って来るのだ。せっかくプリンまであと一歩になっているのに、そのあと一歩がゆっくりと手を振りながら遠ざかってしまう。
『もう、しょうがないな~。ダーリンがそこまで言うのなら力を貸してあげるわよ』
こうしてティアから説明を聞きつつ、加熱調理器具の使い方を習得していった。
問題になりそうなのは魔晶石の存在である。どうやらこれがエネルギー源のようだな。加熱調理器具の前面にある小さな扉の中に入っていた。
「これが魔晶石か。見覚えがあるな」
それは送風箱を分解したときに見つけたエメラルドとまったく同じだった。魔晶石という名前だったのか。魔力を充電と言うからには魔力が込められているのだろう。充電されている魔力が切れたら、補充することができるのかな?
『色がなくなったら新しい魔晶石に交換して下さいって書いてあるわ』
「交換? 充電はできないの?」
『うーん、そんなことは書いてないわね』
これは困ったぞ。魔晶石の充電が切れたら終わりになってしまう。そうなると、この加熱調理器具はただの金属製の容器になってしまうことだろう。
そうなる前に、まずはトラちゃんに確認だな。
「トラちゃんの中に、魔晶石の充電装置はあるかな?」
『えっと、ありませんね』
「ないの!? それじゃ、予備の魔晶石は?」
まさかのない発言。これには俺もビックリだ。どうやら魔晶石の充電は何かしらの装置を使うのではなく、別の方法で充電するようである。もしかすると、古代には充電スキル持ちの人がたくさんいたのかもしれない。
今の時代にそのスキルを持った人がいたら、完全に外れスキルだな。どこかの古代遺跡からものすごい遺物が派遣されることでもない限り。
でもそんなスキルがあるという話を聞かないところをみると、ないんだろうな。超古代文明時代に魔晶石へ魔力を充電することはだれにでもできる技術だったのかもしれない。
『えっと、それならありますね』
「どのくらいの数があるのかな?」
『百個以上、ありますね』
「百から先は?」
『数えられません』
まさかの数えられない宣言。百から先は覚えてない、ならぬ、百から先は数えられないである。
トラちゃんの中での表記がどうなっているのか、とっても気になるところだ。
「まあそれだけあればしばらくは困らないか」
「あの、ルーファス様、調理場の設備を使えばよろしいのではないですか?」
「……そうだね」
まさにバルトの言う通りである。別に超古代文明時代の便利家電を無理して使う必要はまったくないのだ。
そのことを気づかせてくれたバルトにはワンポイントあげよう。ポイントがたまったら豪華賞品と引き換えることができるかもしれないぞ。
「ルーファス様、頼まれていた食材をお持ちしました」
「よくやったぞ、レイ。料理長から何か言われなかった?」
「首をかしげておりましたが、特に何も言われませんでした」
「そうか」
料理長のことだから、何に使うのかくらい聞いてきそうな気がしたけど、そんなことはなかったか。まさかお菓子を作るとは思わなかったのかもしれないな。
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