第31話 つまり、再現は不可能ってこと

 何度も何度も箱を確認するが、開きそうな場所はなかった。どうなってるの、これ。まるで千年パズルのようである。何か特殊な工具か、開き方があるのかもしれない。

 無理やり分解してみるか? 力こそパワーだ。

 が、しかし。


「ダメだ~。開くことも、壊すこともできない。圧倒的なパワー不足だ。ちょっと中身を見たかっただけなのに。そうだ!」


 俺はベアードの方を振り返った。キョトンとした様子のベアードが首をクルンとかしげた。

 はいかわいい。俺のモフモフたちはどれもかわいいな。そんなベアードにお願いをする。


「ベアードの爪で、この箱の側面を切れないかな? できるだけ薄く切ってほしいんだけど」

『ベア』


 分かったとばかりに箱を受け取ると、爪を一本だけ伸ばしたベアードが慎重な手つきで箱の側面を切り裂いた。見事な神業である。キレイに外側だけを分離することができた。

 しかしである。


「ありがとう、ベアード。さすがだね。でも、これはどうにもならないな。まさか側面も含めて装置の一部になっているとは思わなかったよ」


 なんと側面にはビッシリとよく分からない文字が書かれていたのだ。そのため、ベアードが側面を切断するのと同時に、その他の部分とつながっていた線がぶつ切りになってしまった。


 ベアードは悪くない。これを予想できなかった俺が悪いのだ。ぶつ切りになった線を確認する。どう見ても銅線にしか見えないんだよなー。

 俺に鑑定能力があればよかったのに、残念ながら召喚スキルにはそのような機能は搭載されていないようである。


「なんの素材で書かれているんだろう。銀色をしているけど……はんだかな? でもなんか違うような気がする」


 壊れてしまった送風箱はもう動かない。それならば、と俺は興味の赴くままに箱の中身をくまなくまさぐった。

 うーん、電池のようなものは入っていないようなんだけど……。


「なんだこれ? エメラルドかな?」


 側面に小さなエメラルドが張りついていた。これほど小さいのにもかかわらず、しっかりとエメラルドカットされている。そのことからも、当時の技術力の高さがうかがえる。

 もしかして、これが動力源なのかな? あとでだれかに鑑定してもらおう。


 壊れた送風箱はもちろんトラちゃんの中に戻しておいた。証拠隠滅を図るには、トラちゃんはとても便利そうである。

 今度は懐中電灯のような道具を取り出してもらった。見た目はそのまんま懐中電灯である。


「世界は違っても、最終的にはこの形に行き着くのか。不思議だ」

『これはなんですか? うわ、まぶしっ!』


 明かりをチカチカさせてラギオスを照らすと、かわいいお手々で顔を隠した。たとえドラゴンでも、まぶしいものはまぶしいようである。そりゃビックリして地面にも落ちるわ。すぐに耐性がつくみたいだけどね。

 すでに耐性を身につけたラギオスが、今度はカイエンを照らして遊んでいた。


「古代人の技術力はすごいね。こんな物まで作れちゃうんだから」

『今の人たちは作れないのですか?』

「絶対にムリだね。ようやくネジが出回り始めたくらいなんだよ? こんなどうやって開ければいいのかも分からない箱なんて、作れるはずがないよ」


 それにこの謎の素材。どう見てもプラスチックだし。当然そんなものは今の時代には存在しない。使えるのは主に、木材と金属だけである。


 先生は内部構造が分かれば修理することもできるかもしれないと期待していたみたいだけど、内部構造が分かったところで、修理するまでにはあと何十年、下手すれば、百年以上はかかるだろう。絶望的だな。


「それだけ文明が進んでいたとなると、大量破壊兵器とかも存在してそうだよね」

『大量破壊兵器ですか? ありますよ』

「出さないでね。……トラちゃん、それ、全部処分することはできる?」

『できますけど……恐らく元マスターは何かの役に立つかもしれないと思って入れているはずです。それを処分するだなんてとんでもない』

「何かの役に?」


 そんなものが役に立つ時があるのかな? 敵国を滅ぼすときになら使えるのかもしれないけど、それを使ったら、汚染された土地が残るだけだったりするんじゃないの? 絶対、使わないぞ。


 ……いや、待てよ。確かその時代は神と魔族が戦っていたんだったな。そして人間は神の陣営についた。そうなると、当時、敵だったのは魔族。そしてその大量破壊兵器も、魔族を倒すために作られたはずである。


 いま現在、この世界に魔族がいるという話を聞いたことはない。だがこの先もそれが保証されるかと言われれば、ノーだろう。もしかしてご先祖様は、これを見越してトラちゃんの中に大量破壊兵器を入れていた可能性が微粒子レベルで存在するのか?


『主、どうかしましたか?』

「トラちゃん、さっきの処分の話は保留ね」

『分かりました』

「ラギオス、魔族ってまだこの世界に存在するのかな?」

『どうでしょうか? まあでも、仮に存在していたとしても、私にかかればチョチョイのチョイですけどね』

「そうだったね」


 こちらには魔族もはだしで逃げ出す、動く大量破壊兵器がいるんだった。ラギオスの実力を見せてもらったわけではないが、創造神と深いつながりがありそうなところをみると、聞かなくてもヤバイことが分かる。


 ラギオスの力を見せてほしいな、なんて無邪気なお願いをした日には、国一つ、島一つが地上から消えることになるだろう。おお怖い。


『主、何か失礼なことを考えていませんか? まるで私が無差別になんでも破壊するデストロイヤーみたいだとか』

「ソ、ソンナコトナイヨー。ラギオスはいつも、そのままのかわいいラギオスでいてね」


 ラギオスを怒らせてはいけない。ルーファス、理解した。頼もしいんだけどさ、限度があるよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る