もう、魔王やめた! 無職魔王は働かない。~魔王なのに反逆されたので、同じく戦友に裏切られた勇者を仲間にして逆襲する……隠居しながら! ろくでなし魔王の自堕落で騒がしいほのぼのスローライフ!?~
第13話 危険運転からの……ダイナミック入店ッ!
第13話 危険運転からの……ダイナミック入店ッ!
まったく意図しない形で勇者につきまとわれることになった俺だったが……。
細かいことに目をつむる形で、メイを助けるべく行動を開始した!
「おい、魔王っ! おいっ!」
「声が大きい! つんざくわ、耳が!」
「あの娘が連れ去れた場所は、わかるのか?」
「一応な」
くそ! メイが連れ去られたときに、すぐに追いかけるべきだった。
勇者のバカにからまれて、くだらない言い争いをしてたせいで、すっかり夕方だぜ。
「娼館の営業が始まるまでに、間に合えばいいが……」
「おい、魔王! 娼館までは、遠いのかっ!?」
「俺とお前の足なら、すぐだよ。だが、もっと早い足が欲しいな……屋根登ったり、壁走ったりとかしたら、無意味に目立っちまうし……」
近場に馬車でもないものかと、通りにざっと目を通してみる。
「おい、魔王。あそこに『蒸気機関駆動式自動車』があるぞっ!」
目ざとい勇者が、通りの向こうに車を見つけた。
そして、見つけるなり、だだーっと小走りで車に近づく。
「自動車は、外の大陸じゃ珍しいのに……お前、運転できるのか?」
「当たり前だ! 私は勇者だぞっ!」
返事の意味がわからん。
つか、当然のように窃盗する流れになってるのは、勇者としてどうなの?
「おい! お前ら、俺の車になにしてんだぁぁぁーっ!?」
現れたのは、車の持ち主らしきハゲオヤジだ。
「って、フールの旦那じゃねぇか!」
よく見れば、近所のキャバクラのオーナーのハゲオヤジじゃん。
こいつは、話が早い。
「このおっぱい大きいおんにゃのこは、誰なの? フールの旦那、ヒモのくせに浮気なの? やだ、こわい……」
「そんなことより。メイが、借金のカタで豚オヤジにさらわれた。ちょっくら取り返して来るから、車貸してくれ」
変なおっさんと、くだらん世間話などしている暇はない。
「ええっ!? メイちゃんがさらわれただってぇーっ!? どーいうこったよっ!?」
「悪いが、説明してる時間がない。今日、タダで酒飲んでいいから、車貸してくれ」
「いや、車は別にいいけどさぁ……火なんて焚いてないよ?」
「問題ない。火ぐらい『魔法』で出せる」
拳をぎゅっと握って魔力を集め……。
手の平を開くと同時に、炎を具現化させる!
「うわっ! フールの旦那、魔法が使えたのかいっ!? しかも、呪文詠唱なしでっ!」
「俺を誰だと思ってんだよ? この街で魔法つったら、フールちゃんよ?」
蒸気エンジンの火室に、紅蓮に燃え盛る手を突っ込む!
「勇者、出せ!」
エンジンから白く熱い蒸気が噴き上がり、タービンのピストンが動き始める。
「どりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
俺の合図と同時に、勇者が車の操縦レバーを乱暴に動かした。
次の瞬間、車が物凄い勢いで走り出す!
「魔王、道を教えろっ!」
「真っ直ぐだ! この道を真っ直ぐ進め! 噴水が見えたら、右に曲がれ」
言ってすぐに、噴水が見えた。
マズいな。ちょっと加速しすぎているかもしれん……。
この車……かなりボロいから、下手したら壊れそうだな。
「右だなっ!」
勇者が次の瞬間、錆びて変な音を出すハンドルを乱暴に回す!
急カーブしたせいで、車体がぐわんと大きく傾いだ。
車体の左車輪が高く上がる。今にも、ひっくり返りそうだ!
「運転が荒過ぎる! お前、免許持ってんのかよっ!」
「車を動かすのに、免許などいらぬわあああああああああああああああああーっ!」
勇者が、むっちゃ豪快に無免許運転を宣言した。
「右に曲がったら、どうするのだっ!?」
「道なり進んでから坂道を下って、突き当りを左だ!」
「了解だっ!」
なぜか、勇者が車を思いっきり加速させた!?
「はあ!? なんで下りの坂道なのに、加速させてんだよッ!?」
「急いでいるからに決まっているだろうがーっ!」
「えっ!? なんで怒られたのっ!?」
それはともかく、危険運転が過ぎる! 完全に思考が異常者だ!
「おいおいおい! 速すぎんじゃねぇのこれェェェえええーッ!?」
勇者の運転する車が、急な下り坂を猛烈な速さで突っ走るッ!
普通だったら四分かかるはずの道を、四十秒で通り過ぎる!
「ヤバい! ぶつかるぞッ!」
突き当りの建物にぶつかりそうになるなり、俺は体を固めて身構えた!
「いいや! ぶつからないのだっ!」
涼しい顔の勇者が、乱暴にハンドルを回す!
「どりゃりゃりゃりゃりゃあああああああああああああああああああああああっ!」
ものすごい速さで走る車が、建物の壁ギリギリを掠める!
痛ェェェーッ! どっか擦ったッ!
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
最悪だァッ!
俺の平穏な隠居生活がァッッ!
バカによって引き起こされる危険運転および交通事故でェッッ!
台無しになってしまうううううううううううううううううううううううううっ!
「うるさいぞ、魔王っ! 子供みたいにはしゃぐなっ!」
「はしゃいでねぇよッ! 怯えてんだよッ!」
か……間一髪だった!
一瞬でも曲がるのが遅ければ、死んでいた……ッ!
バカ勇者の豪快すぎる交通事故に巻き込まれて……死んでいたッ!
「もうやだ! コイツの疫病神感……異常ッ!」
「魔王、泣いている場合ではないのだっ! あのやたら派手なお城みたいな建物が、目的地かっ!?」
危険運転を続ける勇者が、指さす先――。
夕日に照らし出されているのは、ドギツい極彩色の城だ。
「そうだ。無駄にド派手な城だ。あの趣味が悪すぎる娼館が目的地だッ!」
ひどい外観だ……あの金満豚オヤジの悪趣味が、全開になってやがる。
なにはさておき、一番ムカつくのは、娼館の入り口に立つ豚オヤジの銅像だ。
あんなもん見てたら、娼館に入る前に色々萎えるわッ!
「道を歩いている人が多いな……うっかりすると、轢いてしまいそうだ」
「かまわん、邪魔なら轢き殺せ。生きててもしょうがねぇゴミどもだ」
色街に入ったせいか、周囲は祭りみたいに賑やかだ。
女を買いに来た男、男を騙してやろうと企む女、その間でズルく立ち回る女衒とそいつらを食い物にする遣り手ババア――地獄の生態系が垣間見れる。
「そんなことできるわけないだろうがっ! 魔王め、やはりお前は悪なのだっ!」
「おい! バカ勇者! よそ見すんなッ!」
ろくでもない連中が蠢く金と欲で満ちた色街を、暴走自動車が爆走する!
「ぎゃあああーッ! 危ねぇーッ! 轢き殺されるーッ!」
「なんだテメーら! 街中を暴走しやがって、どーいうつもりだッ!?」
「どこ見て走ってんのよっ! 事故って死にがやれぇーっ!」
勇者に轢き殺されかけた連中が、口汚い罵声を浴びせてくる。
「そこをどかないかっ! 死にたいのかーっ!?」
「よそ見して殺しかけておいて、その言い草はヤバない!? 勇者、こっわ!」
だが、勇者は俺のツッコミもどこ吹く風で、さらに車を加速させた!
「やめろ、減速しろッ! この勢いだと娼館に突っ込むぞッ!」
異常行動を全力で続けるバカ勇者を注意する。
すると、勇者がなぜかニヤリと不敵に笑った。
「おい! 人の話、聞いてんのかッ!?」
次の瞬間、勇者は減速するのではなく――。
「突撃だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
なぜか加速させたァァァーッ!?
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
猛烈に加速した自動車が、排気口から白い蒸気を噴き上げる!
「はうあ! 俺が火を止めればいいのだッ!」
しかし、気付いたときには、時既に遅し――。
暴走自動車は、勢いそのまま!
娼館の正面玄関に突っ込んだッ!
「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
勇者の怒号が轟くと同時に、車が娼館の扉にぶち当たるッ!
ものすごい音を立てて扉が砕け散ったッッ!
体が車から投げ出されそうになるほどの強い振動と衝撃ッッッ!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーッ!?」
店内に突っ込んだ車がどっかにぶつかった衝撃で、外に投げ出されたッ!
ボガンッ!
俺の背後で、破壊された車が炎を噴いて爆発するッ!
「おいいいいいいいいい! なにが起きたああああああああああああああァーッ!?」
「交通事故なのだ。娼館のなかでな」
激しく混乱する俺に対して、勇者はなぜか妙に落ち着き払っている。
「なにやってんだ、お前ぇぇぇーッ!? メイを救出する前に死ぬところだったじゃねぇかッ!」
やることが、無茶苦茶だ……完全に頭がどうかしている!
バカか、そうじゃないかで言ったら……大バカだッ!
「何を言う。魔王の貴様が、この程度で死ぬわけないだろう?」
いや、俺のことを正当に評価するのは、いいのだけれども……。
やることが無茶苦茶すぎるッ!
言動が完全に狂人のそれではないかッ!
「ゆくぞ、魔王! 出だしから調子がいい! これは、確実に勝つ流れだぞっ!」
なんだ、この突き抜けた元気さとバカさはっ!?
「何が出だしから調子がいいだよ……最初から最悪だッ!」
……とはいえ、時には明後日の方向に全力で走る前向きすぎる姿勢も必要だ。
――そう思わせる妙な説得力があるには、ある!
「狂人としての目安をはかるのに、『躊躇なく全力で常識外れの行動を行えるか?』というのがあってな……おめでとう、勇者アンジェリカ! 君を狂人と認定するよ!」
「はあああーっ!? 誰が狂人だっ! 私ほどの常識人はいないだろうがーっ!」
「自分を客観視できないやつほど、こわいものはないな」
などとやっていると、店の奥から豚オヤジが慌てた様子で姿を現した。
「おいいいいいいいいいいい! なんじゃこりゃあああああああああああああッ!?」
勇者が起こした交通事故の現場を見るなり、豚オヤジが血相を変える。
「わしの店がぶっ壊れとるやんけェェェーッ! ぬぅわ~んで、車が突っ込んできとんねえええーんッ!?」
まぁ、自分の店のなかで交通事故が起きたら、誰だって発狂するわな。
つか、あの自動車……キャバクラのハゲオヤジのじゃん。
修理不可能なぐらい爆発炎上して壊れちゃったけど……タダ酒飲ませるだけで弁償代足りるかなぁ~……?
いや、俺が壊したわけじゃないから、心配しなくていいかっ!
「フウウウウウウウル! テメー、なにしにきたあああああああああああああッ!?」
「お前に用はない。メイに用があるんだ」
「残念だな! メイなら逃げたぞッ!」
「はあ?」
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