第6話 本当の理由

「ねえ、ミレイちゃん」

 魔女アランナに声を掛けられて、ミレイは我に返った。

「君は、何を封印したいの?」

 東の大陸、ジバの村の北にある、アルバの森の魔女の本屋。

 樹齢数百年のアルバの樹の中腹にある小さな家。それが魔女の本屋だった。

 店の主アランナに本を読むことを許されたミレイだったが、魔女の本屋はミレイの頭よりも高い位置にあった。

 階段や梯子などは見当たらない。ミレイが一体どうやって行けば良いのだろうと首を傾げていると、アランナが魔女の店の方を手で示した。

『お客様一名、ご案内~』

 楽しげな調子だったが、何かが違うと思った。低く落ち着いた大人の女の声の中に、人の言葉を真似する鳥の声が混ざっているかのような。

 彼女の声に応えるように、アルバの葉が舞い上がって階段を作った時、ああこれが呪文なのかと納得した。

「え、封印··········私が? どうして」

「ミレイちゃんが手に取る本を見たら、どうもね、そんな気がしてきてさ」

 魔女の本屋の中には、たくさんの本棚が並んでいた。壁際に木製の長机と椅子が置かれていて、ミレイはそこで本を読むことを許された。

 アランナは親切だった。ミレイの要望に応えて「封印」に関する本を何冊も持ってくるだけではなく、長時間の読書は疲れるだろうと紅茶まで用意してくれた。

 手元の本に目を向ける。今ミレイが手にしている本は、【恐いモノを封印するために】。

「物語でも魔法書でも何でも良い、そう言った割には、ミレイちゃんが手に取るのは『何かを封印する方法』が書かれていそうな本ばかりだったからさ。もしかして何かを封印したいんじゃないかって思ってね」

「··········」

「ミレイちゃん。悪いけど、君、魔法の基本すら知らないんだろ? やたらと難しい専門書は避けて、これから初めて魔法を使う人向けの本を選んでる。でもね、ミレイちゃん。封印の魔法は、これから初めて魔法を使う人間には扱えきれないよ。一人前の魔法使いになって、五年は経たないと」

「··········」

 わかっている。

 いくつかの魔法書に目を通して、ミレイはそれを思い知った。

 それでも、ミレイは封印の魔法を習得しなければいけないのだ。何が何でも。どんな手を使ってでも。

「ねえ、ミレイちゃん。君は何を封印しようとしてるの? 教えてよ」

「アランナ様」

 拳を強く握りしめる。それを口にするのは、魔女の本屋を目指した時よりも勇気が必要だった。

「アランナ様は、『イソトメ様』をご存知ですか?」

「イソトメ? 何それ?」

「ジバの村の··········守り神です」

 イソトメ様。ジバの村を守ってくださるありがたい神様。ジバの村の老人達は、そう信じている。

「イソトメ様は気まぐれで、機嫌が悪くなると村に災いをもたらすんだそうです。不作とか、病気だとか」

 村を災いから守るため、ジバの村では、定期的にイソトメ様に生贄を捧げていた。

「アランナ様。私、次の満月の日に、イソトメ様の生贄として捧げられるんです」

 その年に最も立派に育った家畜と――――その年に十八歳になる村の娘を。

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