第07話 手術台
――ここまでのあらすじ
大学生の
サークルの主催者・宇堂だ。彼が稲穂に眠り薬を盛って失神させ、ここまで連れてきたのだ。
その後、稲穂は暗闇のなかで
光輝は
野萩は「誘拐」から「手術台」に連れて行かれるまでの一部始終を覚えていた。なぜここに連れてこられたのか、どういう目的なのか――その答えを知っていた。
稲穂たちを取り巻く謎がいま紐解かれる――。
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「俺を乗せたジャガーは高速道路を下り、更に人気のない山道――車体の揺れから山道と判断するのに十分だった――を登っていった。整地された場所で車は止まり、俺はストレッチャーのようなものに載せ替えられた。
「ストレッチャーは静かな建物の中を進んでいった。ここまでくると、眠り薬が効いてきたのか、さすがの俺もところどころ意識が揺らいできた。いつの間にかヒヤリとした平たい台の上に寝かされていた。裸でな。
『検体を用意した』
「そう言ったのは
『さっそくスキャンに掛けましょう」
「若い方――宇堂が言った。
「足の先から頭のてっぺんにかけて俺の身体の上を何かが移動した。それはどうやら機械のようだった。ピーッとシンセサイザーような音がしていた。俺は『スキャン』という単語と合わせてMRIのようなものを連想したね。何かが俺の身体を調べ上げたんだ。
『体重78kg、身長179cm……』
「第三者の声がした。若い女の声だった。
『心身ともに健康』はずんだ声で宇堂は言った。『この男は〈プレイヤー〉として一際すぐれた特性を持っていますね』
『適応力も高く、〈暗闇〉の〈儀式〉でも高い生存率を誇ることでしょう』と女。
『だが、いささか傲慢にすぎる』と天剛。『すぐれた肉体とは言え、
『すべては五百年後に分かること――我々からすれば遠い未来の話ではないでしょう』女は確かにそう口にした。『すべての〈プレイヤー〉がいかに〈暗闇〉から〈出口〉に到達できるか。その成功確率が高ければ高いほど、我々の生存可能性も高まります』
『全ては彼らが彼ら固有の能力をいかに使うかにかかっています。イマジネーション。彼らが彼ら自身を救うことを願いましょう』
「それから頭がぼやけ出した。急に睡魔がやってきたんだ。やつらは『〈本体〉を元の場所に戻せ』とか『記憶のクリーニングをしろ』『〈
「それから目の前が暗転して、ここにいるというわけだ。あの時はよく分からなかったが、今になってようやく奴らの言っていることが分かったぜ。
「要するに、俺たちはやつらの何らかの〈儀式〉=〈実験〉に〈プレイヤー〉つまり〈被験者〉として投入されているということだ。やつらの発言から察するに今は西暦2500年の世界。俺たちはそれまで冷凍されていたんじゃないかな。こうして2500年の世界にとき放たれたというわけだ。
「俺たちがどうやってこの〈暗闇〉から〈出口〉に到達することができるか、奴ら――天剛や宇堂は監視しているのさ。すべては奴らのいう奴らの〈進化の袋小路〉から自分たちを救い出すため……」
稲穂さんは、この話を聞いたときの俺の感情を分かってくれるだろうか。
野萩自身が言ったようにたしかに『ぶっ飛んで』『突飛な』話だった。俺はしばらく野萩のパーツの大きな目と鼻と唇を見つめていた。
「奴らは……一体何者なんだ」
「分かるだろ?」と野萩。「俺達のことを『地球人』と呼んでいるんだ。つまり地球以外から来たってことだろ」
「……外宇宙から来た――エイリアンだとでもいうのか」
野萩は何も答えなかったが、その沈黙が答えだった。
エイリアン――笑ってしまうような話だ。まるで不出来なB級SF映画のストーリーみたいじゃないか。
だが、そう考えると納得せざるを得ない。実感があったんだ。俺が記憶を失う前に目にしたもの――女の笑顔の法外なまでの冷たさ。あんな笑顔は人間にはできない。
「じゃあ、なんだその――さっき話に出た死体ってのは何に使うんだ」
「ゲームには盛り上げ役がいるだろう? 俺が思うに奴らは何かを作っているんだよ。例えば恐ろしい化け物なんかをさ」
「嘘だろ!?」
「嘘を言っているつもりも、真実を言っているつもりもない。俺の考えだよ。真実が知りたかったら――」
野萩は頭上に手をかざした。一本指を立てて。
「ここを覗いている連中に尋ねな」
「そこにいるのか!?」喉が裂けるぐらいの大声で俺は叫んだ。「いるんだろう? 聞こえているんだろう? なら答えろ、俺に何をして欲しいんだ! 何を求めているんだ!」
沈黙。
重苦しい沈黙だけ。
答えはなかった。
その後、野萩とは死に別れることになるのだが――その話は長くなる。後でするとしよう。
その前に、稲穂さん、喉が乾いているだろう。
近くに水場がある。
ひと息つこうじゃないか。
――なぜ分かるのかって?
俺は人より鼻が利くんだよ。水の匂いが分かるんだ。もう少し歩いた先にあるはずだ。さあ、付いてきてくれ。
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