第8話 気が合う趣味友達
購買で中野のパンを買い、俺たち3人は屋上でお昼ご飯を食べていた。
ちなみに屋上には俺たち以外誰もおらず、そもそも普通は鍵がかけられていて入ることができない。
屋上の鍵は茜が生徒会の特権というやつで先生から借りている。
まぁ、それほど茜は教師からの信頼を勝ち取っているということなのだろう。
「うぉー……やっば、体中パキパキ鳴ってる……寝過ぎたかも……」
「そりゃ授業中ずっと寝てたらそうなるわよ」
茜は気怠げにパンを食べている中野を見つめながら言った。
「それでテストとかできるのか?」
碧嶺学校は偏差値70を越えている名門校だ。故にテストも高レベルなものを用意されていた筈だったが。
「この子、頭はすごくいいから問題ないのよ。なんやかんやでテストの結果は学年5位以内には絶対いるしね」
「どやァ」
まじかよ。じっと寝てるのに……
しばらく3人で雑談をしているとぶーとあかねのスマホが振動した。
「あ、ごめん。ちょっと生徒会に用事ができたから席を外すわ。いつき、双葉をちゃんと教室まで頼むわよ」
「え? あのー」
「鍵はあとで私に返してね」
あかねは一方的に屋上の鍵を俺に渡してさっさと生徒会室に向かって行った。
「………………」
「………………」
はい、気まずいー
互いに沈黙が続く。
これまであかねが上手いこと会話を回してくれていたからな。
わーさっきまで全然聞こえなかった小鳥のさえずりが聞こえるよー
ちらっと隣にいる双葉を見ると購買で買ったパンを食べ切ったところだった。
くっ……しょうがない。ここは男として俺から言葉のボールを投げるとするか。
「ねぇ」
「はいっ!?」
こちらから話かけようとしていたところに中野に話しかけられる。
「な、何?」
予想外の展開というか、思わぬ不意打ちに面を喰らう。
「佐藤って茜の幼馴染みなんだよね?」
「……………………そうだけど」
「え? なに今の間。そんでなんでそんな苦虫を噛み潰したような顔してるの?」
「……いや」
「ち、ちなみに小さい時の茜ってどんな感じだったの?」
「やるなと言われた事はやる! 行くなと言われた所は行く! 傍若無人かつ猪突猛進! 唯我独尊!! いつも振り回されっぱなしだった……」
「なんか……苦労してたんだね……」
その言葉がすごく沁みてなんだか泣きそうになった。
「うーん……」
中野はじっと俺の顔を見つめながら何か考え込んでいる。
「佐藤と私って……前にどこかで会ったっけ?」
「……いや、初対面なはずだけど」
「なーんか……なつかしい感じがするようなー?」
………………
「あ、それとそれと! 佐藤はどうやってこの高校に転校してきたの? この高校って偏差値も倍率もクソ高いからよほどのことがない限り転校なんてできる所じゃない筈なんだけど」
「え? コネ」
「いや、ワロタ」
「いやいや、ほんとだって。佐藤一樹は仮の名前。俺の真の正体はこの国を牛耳る御三家一つの次期当主なのさ」
「ナ、ナンダッテー!!」
「俺はこの高校で学を学び、人とのコネクトを作り上げ、この国を支配するに相応しい男になり、将来的にこの国は俺が舵を切っていくんだ!!」
「おぉー!! 佐藤一樹サマー!! 素敵ー!! パチパチ〜」
「……意外とノってくれるんだな」
棒読みで手を叩く双葉を見ながら言った。
馬鹿みたいに空目掛けてガッツポーズを突き上げる俺の姿を見る彼女の目はどこか楽しそうに見える。
「まぁ、こんな馬鹿みたいな会話は嫌いじゃないし?」
「ふーん……」
あ……会話終わっちゃった。
「…………」
「…………」
そして再び訪れる沈黙。
先ほどの盛り上がりはなんだったのだろうと思わせるこの静けさ。
あ、また小鳥のさえずりが聞こえるよぉ〜
……ここは男として俺から言葉のボールを投げるとするか。
ここは1つすかした言葉を飛ばしてやるぜ!
「あ、あの……ご趣味は?」
「いや、お見合いかよ」
中野の鋭いツッコミが入る。
なんか……死にたくなってきた。
「まぁいいや。そうだなぁ〜映画鑑賞……とか? アニメや漫画とか……サブスクで見たり……あとはゲームかな?」
ツッコミを入れつつも真剣に考えながら答えてくれる。
「お、マジか……俺と趣味丸被りだな! ちなみに最近見た映画は?」
「マイナーなやつだから分からないと思うけど、実写版エンジェルマン」
「あれマジクソ映画だったよな!」
あの映画はほんと……人生の中でもトップ5には入るクソ映画だった……!!
「まぁね……原作無視は平気でするし、大根役者ばっかだし、演出も安っぽいし……でもラス」
「でもラストシーンだけは良かったんだよなぁ」
原作にはなかったシーンだけど、俺とは違ったけど、納得させられる解釈ができて結構好きだった。
まぁ、作品がクソすぎてあまり評価されてないけど。
「そう、そうなんだよ! あのラストシーンは私達原作勢でも納得のいく解釈で! でも作品全体がクソすぎてみんなそこには評価しないの! それがまた寂しいというか……!!」
中野の顔は生き生きとしてた。
同じ趣味仲間を見つけたからか、同じ感想を抱いていた同士に出会えたからか……いや両方か。
なんだか中野との距離が縮まった気がする。
「なんだよ〜さと〜! 分かってるじゃ〜ん! あ! そうだ今度ー」
瞬間、何かに気づいたようにはっとして何かを諦めたような表情を見せる。
「あー……やっぱなんでもない。私、そろそろ行くね」
中野は少し寂しそうな顔で立ち上がった。
「私とはもう関わらない方がいいよ。見たでしょ? クラスだけじゃなく学校から腫れ物扱いされちゃってる私と一緒にいると居場所がなくなっちゃうよー」
俺の返事を聞く前に中野は屋上を出て行った。
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