第58話

 グレアのレベル上げはこれで終了となった。

 もうこれ以上のグレアのレベル上げはする必要はないだろう。

 あとは実戦でモンスターを倒し、モンスターから経験値を手に入れ、レベルを上げる。

 実戦でモンスターを倒してみたほうがいいだろう。

 実戦から得られるものも多いからな。

 敵との戦い方や実際に敵が襲い掛かってくるという緊張感は実戦からしか得られない。

 その緊張感の中、自らの身体を動かし、魔法を使い、防御をし、敵を倒すということを……。

 グレアは風水火土、どの魔法の属性も使いこなせる。

 オレはいくらレベルを上げても、光魔法しか使えないのだが。

 グレアの可愛い可愛いフィギュアだったり、聖剣エクスカリバーの偽物だったり、レプリカだったり、しか作れないのだが。

 グレアはいいよなあ。

 魔法が使えて。

 オレは魔法が使えないよ、光魔法しか、とそんなふうに思うのだった。

 さて、グレアは紅蓮の炎に加入する際に、試験として紅蓮の炎のメンバー、アレクと模擬戦をすることになった。

 それは紅蓮の炎にグレアを加入させることはできないか? そう紅蓮の炎のメンバーに聞いたら、試練をしましょうとエルマが言ったのだ。

 だったらアレクと戦ってみなさいと。

 アレクに勝利したら、グレアちゃんの紅蓮の炎への加入を認めてあげるわと。

 そしてグレアは紅蓮の炎のメンバーと地下訓練場へと向かい、冒険者たちが見ている中で、アレクとの模擬戦を開始する。

 結果はグレアの圧勝。

「獣人族相手に勝てるわけがねえだろうがっ」

 というアレクのことを、ファイアーボールを一回使っただけで倒してしまったグレア。

 グレアは強すぎた。

 獣人族とはこれほどまでに強いのだろうか。

 それともオレはグレアのレベルを上げすぎたのだろうか。

 もともと強いのに、さらにレベルを上げすぎてしまったのだろうか。

 グレアのことを強くしすぎてしまったのだろうか。

 筋トレやランニング、そしてもともとの才能に磨きをかけすぎてしまったのだろうか。

 高みへと導きすぎてしまったのだろうか。

 オレはまだその高みへは至っていないのだが。

 グレアはオレに寄ってくると、

「サトウさん、アレクとかいう人に勝利しましたよっ。相手が弱かったのもあると思うんですが勝利しました」

 とかいうグレア。

 いや、その負けた相手が目の前で悲しそうな顔をしているんですが。

 最近、オレ、新人に負けてばかりだとそんな悲しそうな顔をしているんですが。

 さて、グレアがアレクに勝利したので、グレアは紅蓮の炎に加入することになった。

 そしてグレアは冒険者ギルドに登録することになった。

 グレアの冒険者ランクはGランク。

 冒険者は登録したばかりだと、どんなに強い能力を持っていてもGランクから始まるのだ。

 そしてみんなで、紅蓮の炎のメンバーで、グレアが紅蓮の炎に加入したことを祝うパーティーが行われることになった。

 またパーティーか。

 冒険者ってのは、何かあるごとにいちいちパーティーを開く、そんなやつらなのか。

 まあパーティーは楽しいんだが。

 パーティーは楽しいから別にいいんだが。

 酒が飲めるし。

 飯が食えるしな。

 みんな笑顔で酒を飲み、飯を食っている。

 グレアもまたオレの隣で楽しそうにしている。

 グレアは酒ではなく、ミルクを飲んでいる。

 まだ向かいにいるアレクは、戦闘で負けたことにショックを受けている。

「また負けたよ。ちくしょう。サトウだけじゃなくて、グレアにまで負けるなんて……相手が獣人とか関係ねえ。オレは強い冒険者になりたいんだ。Aランクの冒険者になりたいんだ。エルマと同じようにAランクの冒険者になりたいんだ。でもこんなんじゃだめだ。こんなんじゃ、オレはいつまでもダメなBランクの冒険者だ。Aランクの冒険者になんかこんなんじゃなれるわけねえ」

 というアレク。

 アレクはショックを受けている。

「まあ大丈夫だろう。アレク、お前が弱いんじゃない。オレとグレアが強すぎるんだ」

 というオレ。

 オレはアレクの肩を叩くな。

 アレクは言った。

「そういうことは自分で言うもんじゃないぞ」

 とあきれて言うアレク。

 そんなことをオレとアレクで話していたら、エレンがグレアのことを見ていた。

 それはエレンのグレアをにらみつけるようなまなざしだった。

 グレアはそのエレンの目におびえている。

「サトウさん、なんだかわたしのことをものすっごい目つきでにらみつけてくる人がいるんですが。怖いです。この人怖いです」

「ああ、エレンね、エレンってやつはね、いつもこんな感じで人のことをにらみつけてくるやつだから気にするな。こいつはみんな平等ににらみつけてくる、目つきの悪いやつってだけだから、気にしちゃダメだ」

 というオレ。

「うっせえな。悪かったな。ちっ」

 と舌打ちするのはエレン。

 舌打ちするエレンにびびるグレア。

 グレアは言った。

 小さい声で言った。

「そうだったんですか……なんだかものすごい殺気をこめた目でわたしのことを見てくるので……怖かったです。獣人族のことが嫌いなのかと思いました」

 というグレア。

 だがエレンが目つきが悪いのは、こんな目をしているのは、まあいつものことだ。

 紅蓮の炎のメンバーの中では、みんな知っていることだ。

「グレア、気にするな、エレンはこういう顔なんだから。顔が悪い、目つきが悪いとか言うってもどうにもなるわけではないだろう」

 まあエレンはイケメンの部類なのだが。

「エレンはもともと目つきが鋭いから、気にしちゃダメよ。グレアちゃん。それにこいつは別に誰でもにらみつけているわけじゃないわ。普通に人のことを見ても、そんなふうに相手に感じさせちゃうだけなの」

 というエルマ。

「ちっ、うっせーな」

 というのはエレン。

 エレンはにらみつけるような目で、グレアのことを見ていた。

 グレアはエレンにおびえている。

「そんなことより、みんな、酒を飲んで、飯を食べよう」

 というのはサック。

「そうだな。いちいち戦闘に負けたことを気にしちゃいられねえよな。オレが弱いんじゃねえ。こいつらが強すぎるんだ。こいつらが化け物すぎるんだ」

 というのはアレク。

 エルマは言った。

「さあ、みんな、乾杯をしましょう。これからの紅蓮の炎の活躍を願って、かんぱーい」

「「かんぱーい」」

 といって、みんなで乾杯をする。

 ちなみに紅蓮の炎のメンバーは、普通に乾杯をしていたが……。

 グレアだけはなんだかオレ以外のほかのメンバーとは、ぎこちなく乾杯をしていた。

 まあでも乾杯をできるようなっただけでも、成長か。

 上達か。

 なんつーか距離感がすげえあった。

 まあ紅蓮の炎のメンバーは、そんなことを別に気にしてはいないようだったが。

 エレンはむしろグレアに喧嘩腰だったが……。

 いや、こいつは誰にでもけんか腰か……。

 そしてオレたちは飯を食い。

 酒を飲み。

 グレアはミルクを飲み。

 みんなでパーティーを楽しんで時間を過ごした。

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