第57話
オレはグレアのために地下訓練場に来ていた。
やることはただ一つ。
グレアがレベルアップのために壁を破壊する、ただそれだけである。
目標を破壊する、ただそれだけである。
「ファイアーボール」
「ウインドカッター」
「ウォーターボール」
魔法を使うごとに目標が破壊され、壁が破壊されていく。
そしてそれを遠くから見ている冒険者たちは、ものすごい困った顔をして、それを見ていた。
そしてグレアは冒険者が見ていても、人間がグレアのことを見ていても、人間の目が気にならなくなってきたらしい。
人間が困った顔をしてグレアのことを見ていても別にもう気にしていないらしい。
どうでもいい人のことは関心がなくなったのだろうか。
ほかの冒険者よりも、その分の関心がオレに向いている気がする。
グレアは言った。
「サトウさん、私、またレベルアップしたよ」
といちいち伝えてくるグレア。
「おう。やったな。グレア、今日も強くなったな」
そしてグレアは魔法の練習をいくらしても飽きないのか、いくらでも魔法を使っていた。
そして魔法を使って壁を破壊していた。
魔法を使って目標を破壊していた。
魔法を使って、壁をまた破壊していた。
「よーし。今日の壁の破壊終了。でも壁の被害が毎回毎回大きくなってきているような気がするんだけど……気のせいかな……気のせいだよね。でもなんであの壁って……毎日壊していても、次の日にはなおるんだろうね。不思議だねっ不思議なこともあるもんだね、サトウさん」
と言うグレア。
「そうだな。毎日壊していても、次の日には壁がなおっているなんて不思議だな。異世界ってのは不思議なもんだな。不思議なことばかりだ」
というオレ。
「異世界?」
と首をかしげるグレア。
「あ、いや、なんでもない」
なんで異世界というのは壁を破壊しても次の日には元に戻るのだろうか。
山を吹き飛ばしても、次の日には山が元に戻っているのだろう。
大地を破壊しても、次の日には大地が元に戻っているのだろうか。
ゲームのような感じなのだろうか。
「サトウさんと一緒に修行をするのって楽しい。冒険するのもきっと楽しいと思う。壁を破壊するのって楽しいね。壁を破壊するだけでレベルが上がるのって楽しい」
というグレア。
そんなグレアにオレは言った。
「グレア、これはまだ冒険じゃないぞ。これは修業なんだ。冒険ってのな、修行をしてから、ダンジョンに入って、モンスターと出会って、モンスターを討伐して、お金を手に入れて、モンスターから素材を手に入れて、そしてクエストをクリアして報酬をもらうのが冒険なんだ。クエストなんだ」
というオレ。
「そうなんだ。わたし、はやく冒険に出てみたいな。サトウさんと一緒に冒険に出てみたい」
というグレア。
「まあ、そうだな……そろそろグレアとクエストをやるのも考えておかないとな」
とはいえ、グレアをクエストに連れて行きたくはなかった。
このけもみみをモンスターに傷つけられたくはなかった。
このけもしっぽをモンスターに傷つけられたくはなかった。
オレはなぜか過保護の親みたいになっているなと思い、苦笑いする。
ううん。
そしてオレは考える。
オレは紅蓮の炎のメンバーだけど、このグレアを、紅蓮の炎に入れるのはありなのだろうか? と。
ありだったら、そこでグレアを頑張らせたいと思うのだけれど、どうなんだろうか。
今度、紅蓮の炎のメンバーに聞いてみるか。
「サトウさん、どうかしたの?」
というグレア。
「ちょっと考え事をしていただけだ」
「そうなんだ。グレア、壁の破壊ばっかりしているから、山の破壊ばっかりしているから、それについての考え事? やっぱりものを壊しちゃダメかな。壁を壊しちゃダメだったかな。山を吹き飛ばしちゃダメだったかな。大地を壊しちゃダメだったかな」
というグレア。
「いいや、考え事は違うことについてだ。山を破壊するとかそういったことじゃない。オレは紅蓮の炎っていうパーティーに加入しているんだけれど、そこにグレアも入れないかなーってそんなことを考えていたんだ」
「グレアもサトウさんのパーティーに入れるの?」
と言うグレア。
グレアは嬉しそうにしている。
オレは言った。
「オレはまあそうなったらいいなって思っているんだけどな、それは紅蓮の炎のメンバーに相談してからだな」
「グレア、魔力強すぎるもんね。それに獣人だし」
というグレア。
「まあグレアのパーティー加入が無事に決まるまでは、グレアの特訓だな。筋トレとかランニングとかそういったことをして、グレアを鍛えよう」
というオレ。
グレアは言った。
「えー、わたし、筋トレって嫌い。だって筋トレってきついんだもん」
というグレア。
まあグレアは筋トレがあまりできていないからな。
グレアは腕立て伏せが五回しかできていないからな。
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