第15話
異世界での生活も少しずつではあるが、慣れてきた。
朝、宿屋の一室から出ると、明るい少女の声が聞こえてくる。
「おっさん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「昨日はぐっすり眠れましたか?」
と明るい少女の声を聞いて、一日が始まる。
元の世界での生活では、こんなに若くて可愛い子に朝に声をかけられる、なんてことはなかったんだが。
異世界の生活というのも、こういうことを考えれば、案外悪くはないのかもしれない。
「ああ。ぐっすり眠れたよ。異世界での生活もようやく慣れてきたよ」
「?」
と、不思議な顔をして、首をくいっと傾ける少女。
少女の名前はユイカ。
ユイカは宿屋の看板娘である。
ああっといけない。
異世界召喚者であることは、異世界のものには教えないほうがいいだろう。
もしもオレが異世界召喚者であることが知れたら、魔王を倒してこいとか、魔人族を倒してこいとか、そういったことを言われるに違いないのだから。
オレは魔王なんて倒す気はないし、魔人族なんてものを倒す気はないのである。
村の周辺にいるモンスターを討伐して日銭を稼ぎ、のんびりとこの村で過ごしていければいいとそう思っている。
おいしい飯を食べて、おいしい酒を飲んで、寝る。
そんな毎日を過ごせたらいいのである。
冒険者ギルドの受付の美人お姉さんミリカさんに出会えるだけで、この異世界での生活も悪くないと、そう思えるのである。
つうか、異世界って美人が多すぎと思う。
美少女が多すぎだと思う。
いや、美人と美少女とそこそこ仲良くなれている、とそれだけかもしれないが。
まあ元の世界では、美人さんや美少女さんとの接点ってのは、あんまりないからなあ……。
「おっさん、朝の食事の準備はできました。朝の食事はパンとハムエッグです」
異世界というのは自分で食事の準備をしなくていいのも楽である。
宿屋に行けば食べ物や酒が出てくるし、モンスター討伐をすれば、お金が手に入るのだから。
そしてゴブリンを十体ほど倒せば、一日をそこそこ満足できるほどのお金が手に入るだから、この異世界というのも案外悪くはないかもしれないな。
異世界は美少女が多いし。
そして料理もうまいからな。
そしてなんて言っても美少女の笑顔がまぶしい。
「ああ。とてもうまそうだな」
オレは皿の上にある料理を見ると、そう言った。
そして料理に足りないものがあると感じて、こう付け加えた。
「これに酒があると、最高なんだけどなあ」
どんな料理にも酒はあうのである。
さあ、酒でも飲んで、朝からすごそうかと思っていたが、ユイカがちょっと怒ったような顔をして、むすっとした顔をして、こう言ってきた。
「もう、朝からお酒なんてダメですよ。おっさんはこれからモンスター討伐にいってくるんですよね。モンスターの討伐前に酒を飲むのはダメです。お酒を飲んでモンスター討伐なんて危険です」
なんて言われてしまった。
若い子にそんなことを言われると、はははと笑うしかなくなる。
可愛い子に怒られるのも、なんだか悪い気はしない。
オレのことを心配してか、そう言ってくれているのはわかっているから。
さて、これ以上ユイカに怒られないように、さっさと冒険者ギルドに行ってしまおう。
なんだかユイカはダメなおっさんのことでも叱るような顔をして、
「もう。おっさん、逃げないでください。わたしの話を聞いてください」
というように怒ったような顔をしていた。
さて、ささっと逃げるようにして、冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドの入り口に入ると、受付にはなぜだか人だかりができていた。
さてさて、今日も冒険者ギルドの美人受付嬢のミリカさんと話をしようか。
でも受付嬢のミリカさんのほうにばかり冒険者がずらりと並んでいて、そちらの受付ではどうやら時間がかかりそうである。
とはいえ、ここは異世界。
異世界なのに忙しく動き回る必要もないだろう。
宿屋でのんびりとすごし、飯を食い、美人な宿屋の少女と話をしたり、冒険者ギルドで美人受付嬢と話をしたり、そんなことをしながら過ごすのが、異世界である。
だからまあほかの受付も空いているけれど、わざわざこの無駄に長い列になっている、ミリカさんの列に並んでもいいだろう。
みんながみんなわざわざミリカさんのところに並ぶのだから、なんだかんだ人気があるんだなあ、ミリカさんは。
と思いながら、自分の番が来るのをのんびりと待った。
そして自分の番が来ると、笑顔のミリカさんが声をかけてくる。
「サトウ様、今日もクエストですか?」
「はい。モンスターを討伐しないと、日銭を稼がないと、生活できませんからね。ははは」
オレは頭をかきながらそう言った。
「サトウ様、今日もゴブリン討伐の依頼でよろしいですか?」
「はい」
Gクラスの冒険者ができるクエストなんてのは、ゴブリン討伐のクエストくらいしかない。
ゴブリン討伐のクエストなんて稼ぎが悪いし、わざわざやりたいクエストでもないのだが。
オレの冒険者のランクがGクラスなのだから、仕方がない。
「ゴブリンは危険なモンスターですから、気を付けてくださいねっ」
というミリカさん。
「ああ。はい。気をつけますよ。でもまあ大丈夫ですよ。ゴブリン程度に負けませんから。それほど衰えてはいませんから」
とオレは力こぶを作ってみせた。
「もうっ」
ミリカさんは笑って言った。
「そんなことを言って、ゴブリンにやられた冒険者は山ほどいるんですから……。本当に気を付けてくださいよっ、ゴブリンっていうモンスターはけっこう危険なんですからねっ」
というミリカさん。
気を付けるといってもなあ。
冒険者って、危険なモンスターを倒すのが仕事みたいなものだろうし。
というか、オレは異世界召喚者としては最弱なので、十分モンスターと戦うときは、気を付けて、舐めプはしないようにして戦っているつもりなんですがね。
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