第13話

 異世界の村はまるでゲームの中に出てくるような世界だった。

 宿屋があり、防具屋があり、道具屋があり、そして村に住んでいるであろう人々の家々が建ち並んでいる。

 試しに家の前にあるツボを覗いてみたり、家の中にあるタンスを勝手に開いてみても、村の住人がオレの行動をとがめたりはしなかった。

 うん。

 異世界の住人というのはかなり寛容な人たちらしい。

 オレの住む町では、勝手に人んちに上がりこんだり、勝手に人んちのタンスを開けたりなんてするやつはいない。

 そんな奴は泥棒くらいのものである。

 とはいえ、一度はやってみたかったのである。

 異世界で家の前にあるツボを覗いたり、人の家のタンスを開けてアイテムを発見するということを。

 とはいえ、村人がこちらの行動に気が付いていないとはいえ、こんなことをして遊んでいる場合ではないだろう。

 とはいえ、城から追放されて、自由の身となった今は、何も急いでやる必要もないのだけれど。

 さて、門番さんが冒険者ギルドに行ってみてはどうだ? といっていたので、その冒険者ギルドとやらを探してみることにした。

 建物の三階にある冒険者ギルドは、なんだかほかの場所よりも人のにぎわっている場所だった。

 冒険者ギルドには何人もの冒険者がいる。

 なんだかオレよりも強そうに見える男の冒険者や、なんだかかわいらしい女の冒険者がいる。

 男の冒険者の中には上半身裸の冒険者がいて、そんな格好でいいのだろうか、怪しいやつとは思われないのだろうか、なんて思いながら、異世界の冒険者ギルドにいる冒険者の姿を見ていた。

 そして女の冒険者には、こちらのことをまるで誘惑するように、その大きな胸を強調する服を着ている冒険者がいる。

 へ、変態なのか?

 と思ってしまうほどの洋服である。

 格好である。

 まともな人間には思えない。

 まともな人間とは思えない。

 とはいえ、異世界にいるのはそんな冒険者ばかりのようで、この中におっさんが混ざっても、別になんのおかしいこともなかった。

 異世界とはずいぶんと変わった世界のようだ。

 さて、そんなふうに異世界の冒険者ギルドに目を奪われていると、なんだか扉の近くにいた男に声をかけられた。

「おい。ここは頭の禿げたおっさんがのこのこと来ていい場所じゃねえーぜ。ここは冒険者ギルド。命を懸けて戦う冒険者が来る場所。それがここ、冒険者ギルドなんだぜ」

 というなんだかやけに態度のでかい男。

 その男は上半身裸である。

 服を着ろよ、と思いながら、オレは冷静な目で、男を見ていた。

 理由はあまり強そうとは感じなかったからである。

 と、上半身裸の男は言った。

「おいおいおい。なに人のこと無視していやがるんだよ。それともオレ様に声をかけられて、びびっちまったか?」

 という上半身裸の男。

 いや、別にビビってもいなければ、無視したわけでもない。

 異世界にもこのような男がいるのだと、そのことを再確認しただけである。

 つうか冒険者ギルドの中で戦闘とかしていいんだろうか?

 ゲームとかなら普通に戦闘画面に変わるのだけれど、これはあくまで現実である。

 ここは無難に戦闘になるのをかわしておきたいところだけれど、どうすればいいのだろう。

 とはいえ、目の前にいる上半身裸の男は、オレが無視をしてきたことで、怒り心頭。

 なんだか握りこぶしを作って、今にもオレに襲い掛かってきそうだ。

 困ったなあ。

 戦闘してもいいのかな。

 後ろにいる冒険者ギルドの受付のお姉さんは、そこで戦闘しないで、お願いだから、というような目でこちらを見ている。

 とはいえ、こちらは戦闘をしたい立場ではなく、むしろ喧嘩を売られている立場。

 ここでぼこぼこにされるのも癪に触るので、スキルを使っておくか。

 声に出さなくても、スキルは発動できる。

 スキル、まぶしい光。

 と、きらんとオレの頭が光り輝いて、冒険者ギルドにいる冒険者の目を奪った。

 当然のごとく、上半身裸の男の目も奪う。

「なんだ……この光はっ!」

 といって、自分の目の前を手で覆う上半身裸の男。

「まぶしいっ」

「光のせいで……目が見えないっ」

 ほかの冒険者たちがそんな声を上げていた。

 よし。

 冒険者の視界を奪ったところで、この上半身裸の男が動けないようにしておこう。

 足を払い、地面に倒し、そして上半身裸の男が暴れられないように、関節を決める。

「うぐっ」

 という上半身裸の男。

 ほかの冒険者がその光景を見て、驚きの声を上げていた。

「なんだと……初心者冒険者ばかりを狙う初心者殺しのガッソが……まるで相手にならないだと……」

 という冒険者の一人。

「そんな……ガッソが全く相手にならないなんて……あのおっさんは何者?」

 なんていう女の冒険者がいる。

 いや、この上半身裸の男、これでも強いんですか?

 なんだか動きがのろいし、全く強そうには思えないんですが。

「いたいいたいいたい。悪かったから、ごめんなさい。許して」

 と、上半身裸の男が言うので、上半身裸の男の背中から、どくことにした。

 初心者をいじめるガッソが簡単にやられたのが驚いたのだろうか。

 冒険者が、そして受付のお姉さんがこちらを見ては、驚いた顔をしている。

 えっ?

 攻撃されないように安全に倒したつもりだけど、これでもダメだったのだろうか?

 やりすぎだったのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る