第8話 ビーム!!

「ただいまー」


 丈二はガラガラと玄関を開ける。

 帰りに寄ったスーパーの袋を廊下に置く。

 カツカツと足音が近づいてきた。


「ぐるるるぅぅ!!」


 おはぎは走ってくると、勢いよく丈二に飛びついた。


「ぐほぉ!?」


 みぞおちに衝撃が走る。

 軽く小突かれた程度のものだが。

 ちょっとキツイ。


「ぐる?」


 なんとかおはぎは受け止めた。

 腕の中のおはぎが、『どうした?』と見つめてきた。


「いや、俺が貧弱なせいだよ。ただ、もうちょっとだけ手加減して欲しいかな」


 おはぎを優しくなでて、床におろす。

 そして袋を持って、台所に向かった。


 台所に袋を置いて、中身を冷蔵庫に移していく。

 その様子をおはぎは興味津々に眺めていた。


 丈二の動きに合わせて首を振る。

 まるでメトロノームのようだ。


 丈二は袋の中身を片付けて、最後の物を取り出した。


「ほら、これはおはぎに買ってきたものだよ」

「ぐるぅ?」


 おはぎは『それはなに?』と首をかしげる。

 犬用のビーフジャーキーだ。

 スーパーで売っていた中では、一番高いのを選んでみた。


「おやつだよ。ご飯を食べ終わったら、あげるからね」

「ぐるぅ!」


 おはぎは元気よく鳴いた。

 よく分からないが、良いものだとは理解したらしい。


 丈二は今日の晩御飯を用意する。

 豚バラとピーマンの炒め物だ。

 それぞれを焼いて、市販のタレを絡めるだけ。


「もうちょっと、手の込んだものも作りたいけどなぁ。明日は唐揚げに挑戦してみるかな」


 そんなことを呟きながら、丈二はご飯を用意した。


 食事を終えると、丈二はおやつを取り出す。


「おはぎ、今日は芸を覚えてみような」

「ぐる?」


 丈二はカメラを用意して、撮影を始めた。





 動画には行儀よく座ったおはぎの姿が映る。

 ジッと上を見つめていた。


『上目遣いおはぎちゃんきゃわわ』『きょとんとした顔が良いなwww』


「おはぎ、まずはお手だ」


 おはぎが見つめている方から、左手が差し出された。


「ぐる?」


 おはぎは不思議そうに、その手の匂いを嗅ぐ。


『そりゃそうだwww』『お手を教え始めるとこからかwww』


「おはぎ、こうやるんだ」


 男性はおはぎの右手を掴んで、自身の左手に乗せた。


「これが『お手』だよ」

「ぐるぅ!」


 『分かった!』と力強くおはぎが鳴いた。


『そんなすぐ覚えられんの?』『無理やで』『でも、おはぎちゃん賢いからな』


「おはぎ、お手」

「ぐる!」


 サッとおはぎは『お手』をする。


『すげぇ!?』『マジでドラゴンって賢いんだな……』『俺もお手出来る』『なんで定期的に張り合うやつがでてくるんだwww』


 同じような手順で、一通りの芸を教えていく。


「おかわり」

「ぐる!」


 男性の右手に左手を乗せる。


「ごろん」

「ぐるぅ」


 おはぎはくるりと一回転する。


「ふせ」

「ぐる」


 おはぎは、サッと低い姿勢をとる。


「偉いぞおはぎー」

「ぐるるぅ♪」


 男性はわしゃわしゃと、おはぎを撫でまわす。

 おはぎは嬉しそうにはしゃいでいる。


『短時間でここまで覚えるんか……』『さすおは』『モンスター育成中のワイ。嫉妬で気が狂いそう』『こんな物覚えの良いモンスター、そうそういないからな……』


「ご褒美のおやつだぞ」


 カメラの前にジャーキータイプのおやつが出てくる。

 袋を開けて、ジャーキーを一つ取り出した。


「おはぎ、お手」

「ぐる」


 おはぎはサッとお手をする。

 もう慣れたものだ。


 そしてジャーキーをおはぎの前に差し出した。

 スンスンと匂いを嗅いだ後、ぱくりと食いついた。


 気に入ってくれたようだ。

 アムアムとジャーキーを食べ進める。

 しかし半分ほどなくなると、食べるのを止めてしまった。


「どうした、食べないのか?」

「ぐるぅ」


 おはぎはジッとカメラを、その奥に居る男性を見つめている。


「もしかして、俺にくれるのか?」

「ぐるぅ♪」


 おはぎはうんうんとうなづいた。


「ありがとうな。でもコレはおはぎが食べちゃっていいぞ」


 おはぎにジャーキーを近づける。

 『いいの?』と首をかしげる。

 すぐにアムアムと食べ始めた。


『おはぎちゃん、良い子!』『俺はオヤツ分けられない』『敗北してて草』


 おはぎはあっという間におやつジャーキーを食べ終わる。


「それじゃあ、最後にもう一個だけ挑戦してみようか」

「ぐる?」


 男性の手がカメラの前に映る。

 その手にはカラーボールを持っていた。

 子供のおもちゃ用のプラスチック製のやつだ。


 カラーボールをおはぎの前に差し出す。

 

「おはぎ、このボールを撃ち落とすんだ」


『は?』『なにいってだこいつ?』


「おはぎ、あれだよ。口から出したやつ」


 男性はなにやら、身振り手振りでおはぎに説明しているようだ。

 カメラには映っていないため分からないが。


 しかし、おはぎはなにやら理解したらしい。


「ぐる!」


 力強く返事をした。


 おはぎたちは庭に出る。

 子犬が走り回れるくらいには広い。


「おはぎ、ビーム!」


 男性はボールを何もない方向に投げる。


 ビュン!!

 おはぎの口から細い光線が飛ぶ。

 それはボールに当たると、小さな爆発を起こした。

 穴の空いたボールが転がる。


『ふぁ!?』『なんだこれ!?』『これ、ドラゴンの咆哮ブレスでは?』『そうか、ドラゴンだから使えるよな……』


「まだまだ行くぞ! ビーム!」


 ポイポイポイっと三個のボールが投げられる。


 ビュン! ビュン! ビュン!

 おはぎはそのすべてを撃ちぬいて見せた。


『すげぇ』『探索者なんですけど、ドラゴンってどこで拾えますか?』『道端でケガしてたらしいぞ』『おっしゃ、深夜徘徊してくるわ』『はい通報』


「スゴイなおはぎー! お前は天才だ!!」

「ぐる!!」


 どやっと、おはぎは誇らしそうだ。


「そのうち、ダンジョンにも行ってみような」

「ぐるぅ!!」


 男性がワシワシとおはぎをなでる。

 そこで動画は終了した。

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