第003話 薙ぎ払え!!

 俺は手すりにつかまって身構える。しかし、衝撃がやってくることはなかった。


「あれ? なんで?」


 パイロットが身を起こし、不思議そうに首を傾げている後ろ姿が見える。


『なに!?』

『攻撃を弾いただと!?』

『シールドはもうなくなったはずじゃないのか!?』


 空中に浮かぶ画面の中の男たちの顔が驚愕に歪んだ。俺たちの方からは見えなかったが、宙賊たちからはレーザーが弾かれたのが見えたようだ。


 やった、成功だ!! 

 賭けに勝ったぞ。これなら俺も魔法で戦える!!


「どうなってるの?」


 パイロットは未だに不思議そうに呟いている。

 そろそろ接触を図ってみよう。


「どうやら、無事だったみたいですね」

「誰!?」


 俺の呟きを聞いた人物が席から顔を出して振り返る。声の通り、乗っていたのは可愛らしい女の子。彼女はつなぎの作業着のようなものを着ていた。


「私はキョウ・クロスゲートと申します」

「この船には私以外には誰も乗っていなかったはず。一体どうやって潜り込んだの!!」


 ちょっと恭しい態度で名乗ると、彼女は激しく警戒しながら俺を問い詰める。


 彼女の反応は尤もだ。しかし、俺も目が覚めたばかり。持っている情報は多くない。


「私にも分からないんです。目が覚めたら箱の中に閉じ込められていまして……」

「……もしかして、あのアンティークみたいな箱のこと?」


 俺の説明を聞いた女の子はふと思い出したように尋ねてくる。

 彼女も分かっているのなら話は早い。


「はい、恐らくは……」

「まさかあの箱に人が入っていたなんて……」


 俺が彼女の言葉に頷くと、女の子は放心状態になってしまった。

 ただ、今は戦闘の真っただ中。悠長に考え事をしている場合じゃない。


『くそっ。何がなんだか分からないが、撃て、撃て、撃て!!』


 画面に映っている男の一人が苛立たしそうに叫んだ。その直後に、三隻の船から光線が何度も発射される。


 光線は一直線に船の方に飛んでくる。しかし、そのどれもが俺のシールドに反射された。シールドのおかげで衝撃も伝わらず、船も全く揺れない。


 シールドはゲーム内だとそこまで強力な防御魔法ではなかったはずなんだけど、敵の攻撃で消耗する気配がない。それに、魔法を使用しても、自分の中にある魔力が減っている感覚もほんの僅かだ。


「話は後です。今はあいつらをどうにかするのが先決です」

「それもそうだね。私はコレット。丁寧な言葉はいらないよ」


 とにかく落ち着いて説明するのは戦闘が終わってからにしよう。

 彼女も俺の意見に賛成してくれた。


「分かり……コホンッ……分かった」

「あはははっ!!」


 俺がまた丁寧な言葉を話しそうになると、彼女はおかしそうに笑う。


『どこのどいつだ。てめぇは!!』

『誰だか知らねぇが、俺たちの邪魔をするなら命はねぇぞ!!』

『今に見てろ。殺してやるからな!!』


 俺たちの様子が気に障ったのか、男達はこめかみに青筋を立てて激怒していた。


「武装は?」

「全く積んでないよ……」

「そうか……」


 可能であれば、宇宙船の武装で撃退したかったんだけど、ないものは仕方がない。俺が攻撃魔法を使ってみよう。


「サーチエネミー」


 まずは目を瞑って敵意のある存在の位置を探知できる魔法を唱えた。


 地上ならそんなことをしなくても敵が見えるけど、宇宙じゃ三百六十度どこにでも移動できるし、距離のスケールも違うからそうもいかない。宙賊の船に魔法を当てるためには、奴らの正確な把握する必要がある。


「……見つけた」


 俺は目を開いた。


 魔法の効果が分からなかったため不安だったけど、問題なく敵を把握することができた。頭の中にこの辺りの地図が浮かび上がり、三隻の敵の位置が赤い点となって表示される。


 ゲーム内では平面のマップに赤い点が表示されるだけだったけど、この世界では立体的な地図になっていて、感覚的に敵がどこに居るのかを教えてくれた。 


 俺はその内の一隻に狙い定めるように、手の形を銃に見立てて魔法を唱える。


「レイ!!」


 この魔法は光属性の光を放つ魔法で、敵のレーザーのように光の直線を描いて敵にダメージを与えるものだ。ゲームでは射程はそれほど長くはなかったけど果たして……。


 船の後部を映すカメラに真っ白な光が出現し、ウィンドウに映る宙賊の船の内の一隻に向かって極太の光の直線が伸びていく。


――ドォオオオオオオオンッ


 光の先端が敵の宇宙船に触れた瞬間、大爆発を起こして敵の船は爆散。跡形もなく消え去った。三人のうち一人のウィンドウが消える。


「え?」

「……」


 コレットは間の抜けた声を漏らし、俺はゲームからかけ離れた射程とその威力の高さに言葉を失ってしまった。


 まさか、最下級の光魔法でこんな威力が出てしまうとは……。


『なんだ!? 何が起こった!?』

『分からねぇ!? でも攻撃を受けたことには違いねぇ!!』


 残った二人が焦った様子でお互いに顔を青くする。


『くそ!! 早く撃ち落とせ!!』

『分かってる!!』


 二人はこの船を諦める様子はなく、再び攻撃を放ってきた。しかし、そのすべては俺のシールドによって弾かれてしまう。


「レイ!!」


 俺は再び魔法をと唱える。


 折角の機会なので威力を調整できないかどうか意識してみた。


――ドォオオオオオオオンッ


 二隻目もあっさりと沈んだ。ただ、先程よりも光線の太さが細くなっていた気がする。練習すれば調整できそうだ。


『くそっ、くそっ、俺は死にたくねぇ!』


 三人目が一人残され、錯乱して突然船を切り返す。でも、俺には位置が丸見えだった。


「逃がすか!!」

『ぐわぁああああっ』


 俺はもう一度光魔法を放ち、三隻目の船も撃ち落とした。敵の通信が全て消える。


 今度はさっきよりも細くすることができた。そのおかげでコックピットの辺りを打ち抜き、爆散させずに済んだ。


 少しずつ魔法の扱いにも慣れてきている。その内、威力も自由に変えられそうだ。


「ふぅ……これでひとまず危機は去ったかな」


 初めての戦闘を終えた俺は、ホッとため息を吐いた。


 転生したばかりで死んでしまうという事態にはならずに済んで本当に良かった。


「なんなのあれ、なんなのあれ、なんなのあれ!?」


 俺が安堵していると、コレットが目の前で目を輝かせていた。

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