第004話 一難去ってまた一難
間近で見るコレットは、見たところ高校生くらい。
ボブカットの暗めの飴色の髪の毛と焦げ茶色の瞳を持っていて、非常に整った容姿をしていた。それに、彼女からふんわりといい匂いが漂ってくる。
数十センチのその距離は、彼女いない歴イコール年齢の俺には刺激が強すぎる。
「あ、あれは魔法だよ」
「魔法?」
俺がドギマギしながら答えると、コレットは不思議そうに首をひねる。
「ああ。最下級の光属性魔法の"レイ"という魔法だ」
「魔法っておとぎ話に出てくるあの?」
コレットは魔法なんて知らないという反応だ。
「おとぎ話を知らないからなんとも言えないけど、魔力という目に見えない力を使って、物理法則から外れた超常の現象を引き起こす方法、のことだな」
「え、本気で言ってるの? そんな眉唾物あるわけないよ!!」
改めて説明したら、コレットは変な物を見るような目で俺を見る。
ISOには魔法は存在しなかった。
もし、ここがISOの世界だと仮定するのなら彼女の反応も当然かもしれない。
「さっき見せたよな?」
「何か凄い武器でも隠してるんじゃないのぉ~?」
俺が聞き返すと、コレットは俺の周りを回り、ジロジロと観察してくる。
魔法が存在しない科学が進んだ世界だとそういう発想になるのか。
「そんなもの持ってないよ。ほら」
俺は彼女に改めて見せるように人差し指を立てて、その先に小さな炎を出現させる。頭の中にやり方が思い浮かんできて自然にやっていた。
「それくらいサイボーグ化した人間なら誰でもできるよ!!」
「俺は生身だ」
「ホントにぃ?」
「確かめてみてもいいぞ?」
訝し気な視線を送ってくるコレットに、俺は火を消して手を差し出す。
「うーん、柔らかいねぇ……いやでも、最新型のアンドロイドの皮膚に採用されている素材の可能性もあるし……」
コレットは俺の手を掴んでムニムニと触りながら、ブツブツと呟く。
うっ……勢いで手を出したけど、これはマズい……!!
女の子の手の感触が伝わってきて、ドキドキしてしまう。
「も、もういいだろ!!」
俺は耐えられなくなって、彼女からサッと手を引いた。
鼓動が大きくなって脳内に心臓の音が鳴り響く。
コレットに近づきすぎるのは危険だ。
「ふーん。ま、いっか。助けてくれたことには違いないもんね。助けてくれてありがとう!!」
「い、いや、どういたしまして」
俺の反応を不思議そうに見ていた彼女は、それ以上の追及を止めて満開の花のような笑顔を咲かせた。
俺はそのあまりの可愛らしさに、コレットを直視できず、目を逸らしてどうにか返事をするので精一杯だった。
「そ、それで、ここはどこなんだ? 箱に閉じ込められる前の記憶も曖昧でよく分かっていないんだ」
バツが悪くなった俺は話題を変える。
転生したと正直に話しても、魔法以上に信じてもらえなさそうなので、俺が置かれていた状況を利用した。
これなら怪しまれることもないはずだ。
「ここはメディチ星系の第三惑星近くの宙域だよ」
彼女の答えは、ISOの世界でも聞いたことない星系の名前だった。
ここは似てはいるけど、ISOの世界ではないのかもしれない。
「全く分からない……」
「思い出せないんだね……」
俺は首を振ると、コレットは沈痛な面持ちで俺を見つめる。
そんなつもりはなかったけど、勘違いさせてしまった。
「分かった、任せて!! 命の恩人だし、私が色々教えてあげるね!!」
「それは助かる」
彼女はパッと表情を切り替え、胸をポンっと叩く。
コレットの優しさが胸に染みる。
彼女の善意に漬け込むようで申し訳ないけど、本当のことを話しても変な顔をされるだけなので、このままにさせてもらうことにした。
彼女の話によると、このメディチ星系は恒星メディチを中心として三つの惑星で成っている。その全てが人が生きていけるような環境ではないらしい。
ただし、それらの星には病や怪我の治療に役立つ資源が豊富で、惑星の他にその資源を使った治療薬の研究をメインとしたコロニーと、その薬を求めてやって来た人たちが集まる交易コロニーがあるようだ。
そして、彼女はその交易コロニーで生活しているとのこと。
「それじゃあ、コロニーに帰るね。そこの席に座って」
「分かった」
コックピット内には操縦席以外にも席がある。俺は指示された座席に腰を下ろした。すると、自動的にシートベルトのような物で俺の体が固定された。
「しゅっぱーつ!!」
コレットは俺が座ったのを確認すると、機器を操作して船のスピードを上げた。
「おお、あれが!!」
「うん、あれが私の故郷、メディチ交易コロニーだよ!!」
船に揺られること、三十分程。眼前に見えてきたのは巨大な宇宙ステーションのような建造物。
感動して思わず叫んでしまった。コレットが振り返ってニヤニヤと微笑ましそうな表情で俺を見ている。少し気まずい。
学校の図書室やゲームの中では見たことはあるけど、実際に見るソレは迫力が段違いだ。滅茶苦茶大きくて威圧感があった。
「着艦申請をして、と……オッケー。許可が出たから中に入るよ」
「了解」
空港に管制塔があるように、コロニーにも似たようなものがある。コレットがカタカタと端末を操作して着艦許可を取った。
――ドォオオオオオオオオオオンッ
「きゃああああああああああっ!?」
「ぐぉっ!?」
しかし、コロニーに入るというところで凄まじい振動が俺たちに襲い掛かった。
な、なんだ!? 何が起こった!?
俺は体を起こして辺りを見回す。
『スラスターが破損しました』
その直後、宇宙船のサポートAIの音声がコックピット内に響き渡った。
ま、まさか……。
「あ……宙賊の攻撃で損傷した箇所が爆発して制御不能になっちゃった……」
コレットの呆然とした顔が、俺の嫌な予感が的中したことを知らせてくれた。
船は減速することなくコロニーの宇宙船の発着場に突っ込んでいく。
「ど、どどどど、どうするんだ?」
「ど、どどどど、どうしよう!?」
俺たちはお互いに顔を見合わせて混乱に陥ってしまった。
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