番外編:生まれ落ちたるは死なずの獣

『グルゥオオオオォォォォォ!!!!!!』


大地の奥深く、光が到底届かない場所で産声が轟き響く。空間を揺らし、軋ませ、世界を捻じ曲げるかの様にその産声を世界に轟かせる。

地面が捲れ上がり、壁が吹き飛び、天井が弾け飛ぶ。



『グルゥオオオオォォォォォ!!!!!!!』


再度、産声が轟き響く。

パリンという音が鳴り、赤い炎が捲れ上がった地面を飲み込みながら産声の主の周囲を包み込む。

轟々と燃え広がる大火に包まれ、産声を上げていた主の姿が照らし出されていく。



まず照らし出されたのは、地面を踏み締める両脚。灰色の筋肉質な脚部の四本の指とその先端の鋭く伸びた光沢のある爪。

次に照らし出されたのは、自由に動く尻尾。長くしなやかで太さがあり、その上で鉄よりも硬い硬質性のある先端が三つに分かれた尻尾。

その次に照らし出されたのは、胴体と足。脚よりも遥かに筋肉質で隆起しているのが見て取れる胴体に、三本の爪が伸びた毛皮に覆われた太い両腕。

それから少しして照らし出されたのは、その巨体に見合った大きさの蝙蝠の様な羽。先程の産声の時に大きく広げていたのか捲れ上がった地面が刺さっているが、それでも一切の血を流していない両翼。

そして照らし出されるのは、産声を轟き響かせて未だに唸り声を上げ続ける頭部。蜥蜴の頭をより鋭くそして硬くした様な形で、一本のトサカの様な角が生えている異質さを感じさせる瞳を持つ竜の頭部。


多種多様な生物の肉体を繋ぎ合わせたかの様な体に、異常としか言えない様子で佇み続けるその姿。

化け物と表現していい獣がその場で声を上げ、燃え広がり続けている炎に身を包まれていた。

全身を焼かれている、それなのに一切の反応を示すことなく唸り声を上げ続ける獣。



『ルオオォォォ!!!!!』


唸り声とも産声とも違う、喉を掻き鳴らす様な咆哮が周囲に響き渡る。それと同時に好き勝手に燃え広がっていた炎が突如として停止し、咆哮を掻き鳴らす獣の元へと集まる様に動き出す。

ジュっと燃える様な音、焼け焦げた様な黒い煙、燃え尽きた灰の様な臭いをばら撒きながら炎は集まる。

その中心にいる獣は絶えず咆哮を掻き鳴らし続け、それから獣よりも先に炎が根負けする。


獣の身を焼き焦がし続けていた炎はゆっくりとその勢いを弱めて行き、そのまま獣に取り込まれる様に消えて行く。数秒、それだけで全ての炎を取り込んだ獣は傷だらけの体を自身の腕で引き裂く。

赤、というより黒と呼べる血液が撒き散らされて獣の体はゆっくりと地面の上に崩れ落ちていく。



そして、再誕する。



炎に焦がされた傷も、捲れ上がった地面で付いた傷も、自身で引き裂いた傷も何もかもを消して。

運命を捻じ曲げるかの様に、死という物を冒涜するかの様に、理性も知性も何もかもを失ったかの様に。

狂気と獣性と異常性を受け入れて、周囲へ悪戯に災害の様に振り撒くかの様に。


獣は死に、再誕した。


死という莫大な経験値を取り込み、肉体を再構築に合わせてより強靭に、より恐怖を研ぎ澄ませて。

獣は再誕し、そして最初の産声を超える大きさの咆哮をその場に轟かせる。


『グリュウゥオオオォォォォ!!!!!!!』


ゴォっという音と共に、獣の咆哮に合わせて周囲一帯が火の海に変わり果てる。

地面を、壁を、天井を焼き尽くす勢いで炎は広がりその場を火の海に変える。それを成した獣は、その惨状を気にすることも無いまま歩き始める。

向かう方角は上層、自身以外の命の香りがする上層へと獣はのそりのそりと歩き始める。


飢えている訳でも、目的がある訳でもない。ただただ己以外の生命を殺し、喰らい、再誕する。

自ら死に、再誕によって力を手に入れた獣はただただその目的を満たすために活動を開始した。




醜悪で残酷で貪欲な怪物。

汝が名はアスモデウスにしてベルフェゴールにしてアドラメレクであり、そのどれでもない。

汝に名は無い、汝は無名であるのが真名である。


無名よ、醜悪で残酷で貪欲な怪物よ。

汝が死ぬ事を禁ずる。汝の節欲を全て禁ずる。汝が他者と生きる事を禁ずる。汝が正しくある事を禁ずる。

汝は生涯怪物であり、生涯万物を殺し続けよ。


呪神セイタン様の下に、正しく呪いは刻まれる。




地面に深く、深く刻み込まれたその文章を炎の海焼き尽くしたまま。


────────────────────────



どうも、作者です。

という事で今章のラスボスですね。とはいえ主人公たちと邂逅するまではもう少し掛かりますけど。


ちなみに本編で態々言う事でも無いのでこの場で言ってしまいますけど、呪神セイタンなんて神様は存在しないです。人間含む知性ある種族が邪神とか邪教とか言って崇めてる架空の存在ですね。


主人公VS邪神とか言う展開になることは決してありませんし、いきなりそんな設定が生えてくる事は絶対にないです。シュジンコウハアガメラレルケド‼︎

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