戦闘終結
衝撃波が通り過ぎ、灰色の光が収まっていく。
防御は貼っていて正解だったな、貼っていなければ何処かしらに吹き飛ばされているところだった。
さてと
「グレイス」
「……委細問題はありません、ドラコー様」
「そうか、それじゃあ再開するか?」
「是非とも」
灰色の光が収まった後に姿を現したグレイスは普段と様子が違ったが人型であった。
黒に近づいた灰色の髪にその髪を掻き分けながら伸びている二本の角。赤い輝きを灯す両目にさっきまでより柔らかさを増したかのように感じ取れる翼に尻尾。
それから薄っすらと収まりきらずに滲み出ている魔力とそれに混ざる呪いに龍の要素が減少している様に見える手先や足先。
中身が俺のように変化したグレイスがそこにいた。
龍であり呪いであるという特異性。どちらか一方に塗り潰される訳でも、均等に分かれている訳でもない、調和のとれた状態で混ざり合った。
龍であるという特徴が強く残っていたはずのグレイスがその状態に変わっていた。
半呪半龍、自然と誕生しない同族がいない筈の種族に、どことなく嬉しさを隠しきれていない様子で変化していた。
「スゥー、ハァー、………参ります」
「あぁ、来い」
────────────────────────
光が収まった後の短い声の掛け合い。
それが終わった瞬間に灰色の残光を残しながらグレイスは姿を掻き消し、それ理解するよりも先に半透明な壁に包まれているドラコーの前に姿を現す。
そして拳を振り上げて壁にその黒い煙を上げる拳を叩きつける。その一撃だけでドラゴン状態の突撃も、周囲一帯を吹き飛ばした衝撃波も、その両方に余裕で耐え切った壁にヒビが入る。それを二度、三度と繰り返して叩きつけていく。その度に壁のヒビは広がり四度目が叩き込まれた時、パリンというガラスが崩れる様な音が壁から溢れ出る。
そして五度目の黒い煙を上げる拳を振りかぶり、壁に叩き込もうとした瞬間、壁が消える。
狙っていた物を失い、グレイスの重心がほんの少し崩れる。その原因となったドラコーは不敵な笑みを浮かべながら拳をスッと逸らし、右の手をグレイスの胸にゆっくりと当てる。
「
短い詠唱、それが終わった瞬間バンという重たい物が叩きつけられた様な低音が響く。それと同時にグレイスの体が弾かれた様に後ろに飛ばされ、そのまま十数mほど飛んだところで翼を広げて止まる。
「スフェラ」
そこへ畳み掛ける様に小さな呟きが落とされた、止まったグレイスの周囲に黒い粒子が浮かび上がる。そしてパチンと軽く指を弾く音が鳴る。
その瞬間、黒い粒子は一斉にグレイスの元へ動き出してそのままグレイスの肉体を突き抜けて行く。一切の抵抗を感じさせずに当然の様に突き抜け、鮮血を撒き散らしてその場を赤に染めていく。
そうして一発がグレイスの心臓を貫き、そこから鮮血が吹き出して姿を隠す。
その一瞬後に噴き出した血を突き抜けながら再生したグレイスが飛び出し、ドラコーの首を掴み取り勢いそのままに空から地面へと投げつける。
「クラヴス」
地面への落下に途中で翼を広げて止まったドラコーに向けて腕を黒に染めながら飛び込み、広がった羽に足を付けて胸部を腕で押し込んで地面へ叩き落とす。
そのまま押し込んだ腕を少しだけ引いて、それから強く押し込む。ドラコーの口から血と呻めきが噴き出るの見ながら、腕の黒を大きく浮かび上がらせて腕を押し込むのと同時に黒を叩き込む。
バキバキィ!!!
地面が大きく凹んで百数mに渡るヒビが入る。
押し込まれたドラコーの上半身は血管に臓器が破裂したのか赤紫色に似た色に染まり、引き裂けているのか接地している場所は赤い水溜りが作られている。
それを見たグレイスは静かに腕を振り上げて、意識を失った様に目を閉じているドラコーの首を狙って振り下ろす。
「
その腕が直撃する瞬間、ドラコーの姿は消え去り振り下ろされた腕は地面を大きく抉り取っただけとなり、その場にはグレイスと引きちぎられたドラコーの黒い翼だけが残る。
一体どこに消えた、グレイスがそう思い首を振って姿を消したドラコーの姿を探しているその時、空気が軋み悲鳴を上げている様な高い音が頭上から鳴り響く。
咄嗟に上を見たグレイスの目に入ったのは
過剰なまでの魔法を凝縮された降り注ぐ黒い塊。
数にして数百、大きさにして十数m。
それを背負う様に再生した両翼を広げて滞空して、静かに感情を見せない目で見下ろしているドラコー。
狙いを定めている訳でもなく、ただただ降り注いでいる馬鹿げた破壊力を感じさせる塊。それを目にしグレイスは迅速にそして冷静に魔法を構築していく。何度か自身の心臓を自身の手で貫きながら構築していく。
自身の死でリソースを確保し続けながらの魔法の構築は間に合い、グレイスの周囲に灰色の円を重ねた様な球体が複数出現していく。
「
「
どちらも静かに、それでいて短い詠唱を紡ぐ。
その瞬間ドラコーの後ろをゆっくりと進んでいた数百の塊は速度を増して降り注ぎ、グレイスの周囲に浮かび上がっていた球体からは灰色の太い光線が落ちてくる星に向けて伸びていく。
どちらも莫大な力が凝縮されていたが拮抗する事はなかった。グレイスの放った光線は塊が落下する速度を多少緩めても、止まる事も砕かれる事も無いまま落ち続けていく。さらに後続と重なり、大きさと速度と増しながら落ちてくる。優勢なのはドラコーであった。
「
そこへ残酷にダメ押しの一手が振り下ろされる。
降り注ぐ塊たちの隙間を縫う様に抜けて、魔法を制御するグレイスの元に黒い雷が伸びて行く。
避ける事も相殺することも出来ずにグレイスは雷をその身に受け、自身の魔法を制御出来なくなり、落ちて来ている塊を抑えられなくなる。すると抵抗を失った塊は勢いよく落下して、地面と接触して大爆発を引き起こして凝縮された魔法を周囲に撒き散らす。
黒い閃光がその場の全てを包み込み、魔法と呪いを撒き散らしてその場を埋め尽くす。
煙が晴れる様にゆっくりと閃光が消えていく。
消えた先にあったのは、戦いの痕跡が何一つとして残っていない青い空に新緑が広がっている草原。それから自身の上半身から血を抜き出しているドラコーと、蒸気のように黒い煙を上げながら体を再生しているグレイスの姿。
「ふむ、想定以上の破壊力があったんだな。
重ね掛けして、さらに衝撃を吸収して修復や強化に繋げるようにしておいた防護が消し飛ぶとはな」
「……想定外だったんですね」
「まぁな、あんな形で終わらせる気は無かったさ」
「まぁ、白熱して理性が吹っ切れていたので仕方ないですね。私も一部分砕いて、抉り取りましたし」
「あぁ……………なんか消化不良だし、互いにブレスを撃ち合って決着をつけないか?」
「奇遇ですね、私も同じことを提案しようと思っていました。やりましょうか」
「じゃあ発射方向はお互いに向けて、逸らしたり曲げたりといった周囲にブレスが飛ぶ事は禁止で」
「分かりました、じゃあ結構上に行きましょうか」
「あぁ」
血抜きと再生が終わったドラコーとグレイスは先程の戦闘からは考えられない軽い調子で話し合って、翼を羽ばたかせて上空に飛び上がっていく。
勢いよく雲の近くまで飛び上がって互いに距離をとって、互いにバチバチという音を全身から鳴らしながら魔法を構築していく。
グレイスは灰色の陣を三角形の頂点を取るように作り出してそこに魔法と呪いを込めていく。
対するドラコーは大きな陣を一つ自身の前に作り出してそこに魔法と呪いを込めていく。
「
「
数秒か数分か、バチバチという音だけがその場に鳴り続けていた。発射のタイミングはどちらが先と言うこともなく、互いに息を合わせて全く同時に作り出した陣からそれを吐き出す。
グレイスが吐き出したのは黒と白と灰色が混ざる事なく捻れて伸びる光線、ドラコーが吐き出したのは先が手の様な形をした黒く太い光線。
それらは奇妙な音を立てながらぶつかり合い、雲を吹き飛ばして大きな雷を引き起こしながら大爆発する。
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