戦闘変転

弾け飛ぶ音、裂かれる音、砕け散る音が止まない。

互いに激突し、その度に損傷し合い、その度に自分で自分を殺して再生する。

千切れ飛んだ腕や足に魔法を通して爆弾とし、撒き散らされた血に魔力を混ぜて武器にする。


美しいとはとても言えない、地獄の様な戦い。

それを俺もグレイスも笑いながら続けている。


実際楽しい、ただただ殺して殺されるだけじゃない。

攻めの手を変え、フェイクを入れ、魔法を利用した単独での時間差攻撃を仕掛け合う。

ドラゴンが戦いに全てを見出し、それに全てを委ねて生きてきた理由の根底がよく分かる。

俺もこれを永遠に続けられる気がするが、終わらせないといけないし、明確な勝敗が無いとはいえ俺の方が上だと証明しておきたい。

ほら、妻より旦那が弱いと言うのも色々と情けないだろう? 能力としては勝っている旦那がさ。




ということで、幾つかある奥の手の一つを切ろう。


世界ヲ開クアペリアル・ムンドゥム

世界ヲ繋グコンユンジュレ・ムンドゥム

世界ヲ呑ムデグルティレ・ムンドゥム


死からの再生を不完全な形で留めることで、再生にかかる時間を減らして、死にながら詠唱を継続する。

一節目で根源を開いてその流れる物を具現化させ、二節目で具現化させた根源と流れる物と俺を接続し、三節目で接続した物を全て身体で、魂で呑み込む。

莫大な魔法の塊に馬鹿げた量の呪いが混じり合い、取り込む起点になっている内臓がズタボロになっているが、自動的かつ永続的に再生を繰り返すかつての死なずの呪いを再現した劇物の様な呪いで元通りにする。

痛みはあるし、意識しなくても思考にノイズが走ってまともに戦っていられないので、取り込んだ物を全身に流し込んで一つの魔法を構築していく。

リソースを考えて何度か死んで確保していたが、それを考える必要も無くなったので気にせずに魔法を構築していく。前準備の魔法を使った時点でグレイスは動きを止めて此方を観察している。

とはいえ長いこと待たせてしまうのも熱が収まってしまいそうなので早急に魔法を実行しようと思う。



死生永劫呪龍ウロボロス・ノフェル


俺の魂を起点に取り込まれ続ける全てが巡り続ける事が出来る様に、俺自身を魔法で変化させる。

構築した魔法を起動させればその変化は即座に起き始める。まずは内臓を掻き回される痛みが消えてぐちゃぐちゃになった内臓が修復される。次に手首足首から肘膝に掛けて龍の鱗に似た物が10㎝程度生えてくる。その次に翼と尻尾にも龍の鱗の様な物が生えて元々の状態よりも硬さが増す。そして、側頭部の皮膚を突き破りながら、黒く太い角がが二本捻れながら真っ直ぐと後ろ向きに生えてくる。

角が生えた瞬間は気を失いそうになるくらい痛みがあったが無事に変化は終了した。


「すまん、待たせたな」

「    」

「どうした?」

「あぁ、すみません。少し見惚れてしまい」

「くはは、それは何よりだ。だが生憎、見た目だけじゃあないぞ?」

「えぇ、それはヒシヒシと感じていますよ」

「それは何より...じゃあ、行くぞ?」


羽を大きく広げて震わせる。

突撃はしないし近接戦闘は仕掛けない。自分の不得手な要素を塗り替えられるほどこの魔法は便利じゃないし、グレイスの得意とする要素で戦う必要はない。

なので遠距離から強い攻撃を叩き込み続けられる様な魔法を放つことにする。


形のイメージは先ほどのグレイスがばら撒くように放った魔法。

射出点が俺じゃなくて空中なところと、放つ魔法が細い光線じゃなくて円錐型のランスであるというところに、避けられても追いかけ続けるという違いはあるが。

それでも基本となる形はグレイスの物を丸写しにして、そこに付属品を取り付ける様な形式で魔法を構築していく。


俺の動きを推測したのかグレイスが少し前傾姿勢になって、突撃を行う準備を始めたので予定通りの数は揃っていないが問題無い。足りなければ足せばいい、魔法を使うためのリソースは無尽蔵にある事だしな。

………ついでに防御手段も用意しておくか。殺されても大した影響はないが、攻撃が通らないような防御にして驚かせたいな。。



「魔槍権限、砲身ロック...魔弾トナリテ万象ヲ穿テヨザミエル

「ッッ!! …追って!?」

「そらそら、逃げ切れるか? 追加は無限だぞ」


作り出して放ち続ける槍状の魔法は的確に避けて逃げるグレイスを追いかける。

とはいえ単純な速度だけで考えるとグレイスの方が遥かに速いの放置していれば距離を離されて簡単に処理されてしまう。なので適度に追加の魔法をグレイスの進行方向に放って距離を開かれないように牽制する。ついでに数発ほどグレイスを狙わせながら全く違う方角へと放っておき、タイミングをずらしてグレイスの元に向かう魔法を遊び感覚で仕込ませておく。

おそらくだがこの程度の魔法で相手を仕切れるほど甘い相手ではないので、追加の仕込みを複数用意していく。グレイスが飛び回っているよりも遥か上の空と、現在飛び回っている空気中に次の作戦を仕込んでいく。

空には固体化させた魔法を複数用意しておき留める。空気中の方は全く気にならない程度の呪いを隙間が無くなるように浸透させる。

…………ん? こっちに寄って来ているな。すり抜けざまに切り裂いて、ついでに追ってきている魔法を俺にぶつける気か。防御の試験でもするか、魔法は当たったところで勝手に吸収されるし。


球体防護スフィア・マクシララキ

「………あぁ、そういう事ですか」

「あら、一回でバレたか。じゃあ追加であの魔法にも当たってくれや」

「流石に、それは出来ま、「伸びる擬腕フィーラー」せん!!」

「……避けられたか」


お試し感覚で作った触手は掠ることも無く避けられて、一撃当てられただけで防御の正体に気付かれて、割と高頻度で飛ばしてるのに移動の衝撃とか牙とか爪を軽く振られるだけで落とされてる。

割としっかり力を込めて作ったんだがな、どうやら通用しないらしい。

……空中の魔法はまだ起動させたくない、呪いの浸透に関しては攻撃用じゃないから使えない、となると何かしら適当に作るか。生半可な物どころか実用圏内は無駄、神だの城だのを落とせる様な魔法でもない限りは同じように消し飛ばされるだろう。

………………爆弾を浮かせるか。泡みたいな軌道をする球体上の魔法を空気中に揺蕩わせておいて、一定以上の衝撃を受けた時点で爆発して周囲に呪いとついでに複数方向に魔法を弾け飛ばすタイプの奴を。


「アトモス・カオ・ボルス、シークト・ボゥラ」


飛び回っているグレイスを視界に留めながら、魔法を浮かび上がらせる様に作っていく。魔法同士が接触しない様に注意をしながら、自由に飛べない様にしつつ此方からの射線を妨げない様にしていく。

……追いかけてる魔法が接触して連鎖的に爆発してしまう気がするが、もう始めてしまった事は仕方ない。空間を作って同時に爆発しない様にしておこう。

あとは槍と一緒にこれも適度に飛んでいる途中の目の前に現れる様に動かそう。


「ッッ!? ぁあ、クソッ!!!」

「……悪態を吐いている暇はあるか?」

「!!! ……………やりますか...」


何をしようと...あぁブレスか?

まぁ自由に飛べないから魔法を一掃したいだろうし、妥当な判断と言えばそうか。

そうなると追加を放つのは一旦止めて、盤面をリセットされた瞬間に叩き込める様にしておこうか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


…………………本当にブレスか?

馬鹿げた量の魔法に魔力が凝縮されてはいるが、口腔に溜まっている感じじゃあないぞ。これは、心臓?

心臓に溜まっている? 一体何をする気だ...

妙に嫌な感じがするぞ、数分前に似た様な物を見た気がする。というかやった気がするぞ。

………何に変わる気だ、グレイス。



癒す白、滅す黒、空の灰ドラコ・プリタス

堕ちる白、交わる黒、異様な灰フリティラ・アニムス

天を排して、灰は無終を拝するヴィサス・リンカーネーション


飛び回りながら紡がれる魔法。

一節終わるごとに心臓付近にある凝縮された物が鼓動し、その度にグレイスの体にヒビが入っていく。

俺がやった以上の何かをやろうとしている、追いついた槍状の魔法も進行方向に置いてある魔法も取り込みながら、普通ではない事を成し遂げようとしている。

干渉は出来ないな、俺のを邪魔しなかったというのもあるが、魔法を吸収されるのならば俺に出来ることは近接戦闘だが、俺の攻撃能力は魔法由来だからおそらくダメージになる要素は吸収されて、あとはカスみたいなただのじゃれ合いの様な物しか残らないだろう。

取り敢えず、余波で吹き飛ばされない様に前にも後ろにも防御を重ね掛けておこう。


肉体を変える、真体を変えるシクト・マリトス

横に並び立つ、その為にカルカビ・セクスヴントル

永劫を共にいる為にクイア・ティ・アモ



此処ニ今、私ハ新生スノヴァ


グレイスによる七節に渡る詠唱、それが終わった瞬間に周囲一帯が強大な衝撃波と灰色の光に染められる。

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