後始末

「本当にもう行くのですか?」

「あぁ、というか滞在し過ぎた感もあるからな。

俺たちはこの世界を自由に旅してる途中だからな、最初にお前たちと会えたのは幸運だったが」

「はい、良き日々でしたよアコニト」

「己らにとっても良き日々でした。ドラコー様、グレイス様お二人の旅路がより良いものとなります様に」

「おう、それではな。またいつか」

「!! はい、またいつかお会いしましょう」


トロルの群れを発見し、四体の巨人が現れた翌日。

太陽が中天に昇った頃合いに、俺とグレイスは集落の外でアコニトとそんな会話を交わしていた。

……今日この森を出発する。残った後始末をして、それからアコニトが教えてくれた草原を目指す。

そういう訳でゴブリンたちを代表してアコニトが見送りに来てくれている。他の者は修練場に行っていたり、昨日の祝勝会の片付けをしたりしている。

見送りに来てくれたアコニトは俺たちが出発する事に対して惜しいという感情を前面に出して来ているが、元々の予定より大幅に長い期間を滞在していたので我慢してもらおう。


「…………もう声は聞こえないな?」

「えぇ、ここまで離れれば聞こえていないでしょう。

それに、おそらくですが集落の中に戻ったようです」

「そうか、じゃあ後始末に行くとするか。」

「えぇ、参りましょう」


位置は大雑把でしか覚えていないが、問題は無い。

神性を全く感じさせないこの森の中で、神性を持っているのはアレだけだから。

……捻り潰したのに逃げる事もせずに、同じ場所にいるみたいだな。


「こっちだな、行くぞ」

「はっ」


方角を定めて、グレイスと共に駆け出して行く。

こんな後始末に時間を掛ける理由も、必要性も一切感じないのでさっさと、地面と木々を交互に踏みながら出来る限りそれらにダメージを与えない様に気を付けつつ移動していく。


────────────────────────


『ちっ、折角丹精込めて準備したのによ!!

うざったいんだよ、あのクソ野郎が!!!!

あーもー!!! 何処にも代用になりそうなのいねぇし、屑共にもあのクソ野郎のせいで干渉出来ねぇしよ!! まーじでつまんねぇ!!!

クソッ!! 碌なの居ないじゃねぇかよ!! こうなったら適当なデマをばら撒いて雑種共を引き寄せてやろうか?!』


うわ無様、分厚い性格の仮面をごっそり被ってるとは思っていたが、ここまでとはな。

さてさて、音を殺して気配を殺しながら辿り着いたから気が付いていないみたいだな。

怒りながら遠隔干渉の魔法を使いながら、水面を足だの腕だので叩いてるし。

…………霊体は霊体だが、純粋な霊体じゃないな。後付けとでも言うべきか? そんな風に在り方を強い力で捻じ曲げられているな。

まぁこれなら色々と準備をする必要は無いな、特に根本まで干渉せずに殺してしまえる。



世界ヲ閉ザスクラウディレ・ムンドゥム終ワル命フィニス・ヴィタ

『!? いつの間にぃ!!』

「じゃあな、無駄な抵抗はするなよ」

『ッッアイギスッ!!!』


俺と精霊を隔離し、一つの世界を構築して封鎖する。

水も空気も音も光も何も無い、黒い呪いだけで構築した世界の中に閉じ込める。そのまま囲い込んでいる呪いでヒビを入れて、霊体とその核を削っていく。

その時点で気付いて防護の魔法を起動するが、あまりにも遅いし無駄が過ぎる。

既に干渉は始まっているし、この俺が構築した世界の中にいて呪いに触れている限りはこの干渉からは逃れられない。

……クソみたいな奴とはいえ精霊だから内側と外側の両方に核を持っているが、外側の方はグレイスに任せてあるので、俺はその時間を稼ぐのと実験も兼ねてじわじわと追い詰めていく。


それにしても、この程度の構築で抵抗無しで取り込めるのか。そうなって来ると純粋な精霊レベルまでならばこれを多少改良するだけで捩じ伏せられるな。だが、原初の精霊だの神体だのが相手になってくる場合はもう少し改善した方がいいな。世界の構築を少なくとも半径50Kmくらいには広げなければ逃げられてしまうだろうし、侵食し切るまでに押し返されてしまうだろうしな。

だが、うむ無駄にリソースを消費していないし、取り込んだ相手の力だの魂を新しいリソースとして吸収するのもしっかりできているみたいだな。

…………そろそろ殺すか。おそらくグレイスの方も無事に終わっているだろうし、こいつから得られる情報は全て手に入れた。


『ぐっ、がぁ...!!』

「空間圧縮、個体圧縮、魂断絶」

『.......!?!??!?!?』


軽く操作して精霊の周囲一帯を圧縮して、さらにその勢いのまま精霊自体も圧縮、それでも生きていたので魂を無理矢理引き千切った。

これだけやってもまだ生きている様で、魂の明滅は微弱だが見て取れる。まぁ全く身動きは取れなくて、言葉も一切発せない状態を生きていると言っていいのか分からんのだが。

まぁ薄気味が悪いのでさっさと死んでもらおう。


「悪霊はさっさと死んでくれや」


構築した世界を捻じ曲げる様に動かして、生にしがみついている魂をすり潰す。残滓が外に逃げない様に囲い込みはそのままで、俺の体が巻き込まれるのを躊躇わずに世界を捻じ曲げてすり潰す。

すり潰し始めた瞬間に変な音の様なものが聞こえた気もするが、声なのか世界の絶叫なのか分からないので無視する事にする。それよりも捻じ曲げた影響で千切れた足を再生することの方を優先したい。




「後始末、終了だな。グレイス、そっちも終わっているな?」

「勿論です、取られないと高を括っていたのか雑に置いてありましたので握り潰しました」

「上々、それじゃあ出発するか....どっちだ?」

「えっと確かあちらの方、だったと思います」

「そうか、じゃあ行くか」

「はい」


完全に消滅させ終えて、現実に戻ると砕け散った核を足下に転がしたグレイスと目が合う。

念のため確認を取れば握り潰したと言っているし、パッと周囲一帯の気配を辿ってみても再生していないので、俺たちがこの森で行う後始末は終了した。

と言う訳で森の出口を、その先にある暴れても問題無さそうな平原を目指して二人で歩いていく。進む方向がうろ覚えで、今歩いている道が正しいのか間違っているのかよく分かっていないんだが。まぁ終わりの見えない旅だから適当に進んでも大丈夫だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る