気が付かないうちに勝ち取られていた従者
翌日、今日は宴があるぞとリーズィに伝えられて朝を迎えた。一応旅に向けた準備は昨日で終わったので、今日は挨拶に行くくらいしかないのだが...
残りの挨拶をしていないのはグラム一家とクラージュ一家だけで、その両家は宴に間違いなく来るだろうから宴前に挨拶に行くのも変だと思っている。
そもそもクラージュ一家、昔俺の正面戦闘で負けたことについてヤケ酒に来た赤龍マクシムとその妻子のことなんだが、家にいるかどうか定かじゃない。
戦闘エンジョイ勢で寝る時以外は基本的に森や海で一家総出で戦っている様な奴らなので、会えるのか?
取り敢えず、グラム一家の方に向かうか? あの一家は基本的に家にいるはずだし。
「おはようございますドラコー様。
グレイス・シュテル・グラムです、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「………あぁ、覚えているが」
「でしたら良かったです。
本日からドラコー様の従者をさせていただきます。
よろしくお願い致しますね、ドラコー様」
「はぁ?」
何だそれは、俺は何も聞いていなんだが?
主犯はどっちだ? ヴァイスか? リーズィか?
……………何があったか、取り敢えず聞くか。その前に落ち着こう、冷静にそう冷静になろう。
そうで無ければしっかりと思考が回せないからな。
〜〜〜半呪半龍、鎮静化中〜〜〜
「ふぅーー、それでグレイス。
何があったか教えてもらっていいか? 何故お前が俺の従者になったのかとか、基本的にお前たちが近寄らないはずの此処に入って来たのだとかを含めて」
「かしこまりました。
まずこの場所には、龍王陛下から入っても良いと告げられまして、さらに本日から従者としてドラコー様の側に就けと命が下されましたので」
「……なるほど」
リーズィ、やはり貴様か。
また俺の許可無く何かを主導したのか。宴の準備と称してお前は一体何をやっている?
「それでは、私がドラコー様の従者になった経緯でございますね?」
「あぁ、聞かせてくれ」
「はい。まず事の始まりは龍王陛下とドラコー様の戦いがあった日です。あの日の戦いを見て、我々一般ドラゴン達の心を大きく揺さぶりました」
「あぁ、それで?」
「戦いたい派、伴侶にしたい派、手中に収めたい派が沸き立ちました。割合としましては2、7、1です。
男女比もお聞きになりますか?」
「……いや、大丈夫だ。何か嫌な予感がする」
「そうですか、ちなみに6対4でしたね。
何がとは言いませんけれど」
「待てや、おい」
どっちが6だ!? まずそもそも、何が6対4だ!?
分からん全く分からんが、深掘りしてはいけない気がする。何かこう、恐怖を感じる。
「と言う訳で、ドラコー様の身柄を掛けた決闘大会が開かれました。とはいえ全員での乱戦になろうものなら都市区画が吹き飛びますので、各家一人ずつ代表を出しての決闘でしたが」
「……そうか」
「正直な話決闘の内容をお話ししたいのですが、長い上に半分以上が蹂躙でしたので割愛します。
最終的な結果としましては私とマクシム氏の一騎討ちになり、蹂躙劇で疲労していたマクシム氏を不意打ちで叩き落として勝利しました」
「…………そうか」
哀れマクシム、お前はきっとそう言う星の下に生まれたんだろうな。油断していたか、全員薙ぎ倒したと油断していたのか、だがまぁ同情するよマクシム。
というかグレイス、お前が出ていたのか。父親でも母親でも無くお前か。いやまぁ、お前も大概強いし納得できるんだが。
「褒められましたか? ありがとうございます、褒められると伸びるのでもっと褒めて下さい」
「心をしれっと読むな、お前。
と言うかその勝者になったのは分かったんだが、それがどうして従者に繋がる?」
「ふふん、勿論最初は従者志望じゃありませんよ?
最初は伴侶志望でしたが、そういえば龍峡の外に出て旅をすると以前から言っていたのを思い出しましたので、龍王陛下に直談判して従者になりました。
父も母も喜んで背中を押してくれましたし、龍王陛下も笑いながら許して下さいましたよ」
「そうか、そうか。やはりリーズィか。
……せめて俺に話を通せよリーズィ、許可をするしないに問わずに」
「龍王陛下ですよ? この龍峡で最も自由なお方ですし、その願いはきっと叶いそうにありませんね」
「よく知っているよ、そんなことは」
確かにあいつは一番自由な奴だ。
王としての責務を果たしながら、自分のやりたいことをやりたいようにしてるし。
多分あいつマクシムが相応の力を身につけたら、しれっと龍王を押し付けて龍峡から出ていくぞ。
今はまだ戦いたい、挑戦を受け続けたいっていう想いがあるから押し付けてないだけだろうし。
……仕返し出来ねぇなぁ、あいつ相手に何やっても無駄だしなぁ。いつか訪れると信じて、覚えておくか。
「と言う訳で、私は本日からドラコー様の従者になりました。呼び方はどうしましょう?
旦那様? それとも、ご主人様?」
「………名前呼びでいい」
「ではドラコー様ということで。
別に、手付きにしてくれても、構いませんよドラコー様? 私は基本的に何でも受け入れます」
「……頭の片隅に置いておく。
それより、宴はいつから始まるか分かるか?」
「日が落ちた頃ですね、今からゆっくり向かえば程よい時間かもしれませんね」
「そんなに話していたか、なら行くぞグレイス」
「はい………後ろを進んだらいいですか?」
「隣でいい、そんなことを気にするな。
というかそんな知識を、お前はどうやって手に入れて来てるんだ」
「母からですね、色々教えて貰いましたよ?」
「……そうか」
ヴァイス、お前もか。お前も、この気苦労の原因か。
……どうしてくれようか、本当に。
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