異端の黒龍

衝撃の事実を続けて叩きつけられながテーレのもとから去りつつ、最後の依頼先に向かう。

人型状態用の区画とドラゴン状態用の区画の丁度境目にあり、常に黒い煙が立ち上っている建物。

何処となく小さく、ボロ屋とでも言える様な建物。定期的に爆発が起きては修繕されているのでボロ屋と言っても間違いではないのだが。

取り敢えず、此処にノックの文化はない。勝手に扉を開けて、作業をしている男の肩を叩く。


「あん?」

「よう、元気か?」

「うんん? 旦那じゃねぇか、頼まれた奴はあそこに積んであるぞ。取り敢えず受け取ってくれや」

「あぁ………どの山だ?」

「右の山が調理器具、必要そうな物を取り敢えずサイズ別、切れ味別で用意しておいた。中央の山が魔法を通す球だ、俺で実験したから効果は信じていい。

んで、左の山が魔法原石を削っただけの山だ。持っていってくれ、あんたへの餞別だ」

「………そうか、ありがたく貰っていく」

「そうしてくれ、片付け終わったらこっち来てくれ。

ちょっとだけ手伝って欲しいんだ」

「あぁ」


取り敢えず用意されたものを片付けていこう。

山を抱えて魔法空間に放り込むこと八回、かなりの量を用意してくれたのだと分かるし、かなり出来が良い物を用意してくれたのも分かる。

何度か感謝の言葉を述べながら片付け終えて、振り返って男の方に歩いていく。


「それで今日は何をすればいい?」

「まぁ、取り敢えずそこに座ってくれ」

「あぁ、分かったよ」


近づけば指で場所を示しながらそう言われるので座りに行く。物が散らばっているので整理しつつ、座れる場所を見つけて座る。


「………旦那」

「どうした?」

「いやなに、本当に此処から出て行くんだなと考えててな………なぁ、本当に出て行くのか?」

「そうだ、俺はこの龍峡を出て旅に出るぞ。

リーズィの莫大なエネルギーと共に生きている訳でも無いのだしな。外に出て何か問題がある訳でもない」

「全く曲げねぇなぁ」

「無論だ」

「なるほど、なら仕方ねぇ。

この桶に旦那の血を入れてくれや、今此処で」

「分かった、ナイフを貸せ」

「はいよ」


何処を切ろうか? んー、まぁ手首でいいか。

さっと切って、さっと血を注いでしまおう。

.....こんなもんでいいか、傷は放っておいていいか。どうせすぐ治るだろう。


「ほれ、今回は少ないんだな。

これで最後になるだろうし、もっと要求されると思ってたんだが」

「そりゃまぁ、研究はこれでほぼ終わったからな。

これは、言ってしまえば保存用だ」

「そうなのか?」

「ああ、粗方研究は終わったのでな」

「そうか……それで何を研究していたんだ?」

「旦那の血を使って何が出来るかを調べていた」


ん? 俺の血で?

………あぁそうか、ドラゴンの血は魔法原石と混ぜれば純度を変えれるんだったか。

なるほどなぁ、確かにそれなら俺の血で何が出来るのか確かに気になるな。


「それでどういう結果になったんだ?」

「簡単に言えば、旦那が出来上がったな。

その物じゃないぞ? 旦那と同じ呪いと龍と神の三つを宿した物が出来上がった」

「……魔法原石か?」

「いいや、物だ。旦那の血を使えば、たとえ生物だろうとその三つを宿す。その形に変質する。

言ってしまうならば、擬似的な継承の儀が行われてるってことだな。とは言え100%じゃない、1%以下の確率で変質する。特に生物は死に抗うもしくは死と共存出来ない限り変質しないまま、溶けちまうがな」

「そんなことになってるのか俺の血は」

「そうみたいだぜ? 正直言うなら俺を実験台にしたいんだが、多分耐えられねぇからやってない。

この保存用のやつを調べて、模倣品が出来上がったら試してみるつもりだがな」

「無茶はするなよ?」

「そりゃ勿論、死ぬのが嫌だから此処に逃げたんだしな。簡単に死ぬ気は無いさ、だって異端だぜ?」

「それならいいんだがな」



_______________________



シアンティ、それがこの男の名前だ。

一度しか見たことがないが、スマートな姿をした黒いドラゴンが真体なんだが、人型に成れるようになってからは急ぎの用事がない限り人型のまま生きている。

そしてこいつが自称しているんだが、龍峡の中に生きる異端のドラゴンらしい。なんでも戦いたくないし、死にたくないから戦う事から逃げて、他者との関わりもほとんど避けているとのことだ。


まぁ他のドラゴンに聞いてみたところ別に異端でも何でもないらしいので、本当に自称止まりなんだが。


それはさておき、シアンティは石細工を基本的に得意としている。特に魔法原石という鉱石と魔力が混ざり合った、不安定な状態で安定した石を加工する事を得意としている。というか俺の知る限り、加工の一点だけで見るのならばリーズィに負けていないくらいは巧みである。

そのため今回旅先で使う調理器具、それから非殺傷用の自衛手段のための魔法通しの球を作ってもらった。


「さて、それで旦那は何処に向かうんで?」

「さぁな、適当に風が吹くままに旅をするんだ。

何処かの街に行きたい訳でも、誰か会いたい奴がいる訳でもないしな」

「そうですかい、そりゃまぁ変な旅ですな」

「くはは、まぁそんなもんだ。

どうせ寿命も無ければ、老いることもない。何なら死んでも蘇る変な生態をしているんだ、変な旅をしてもおかしくはないだろう?」

「そりゃ、そうですねぇ。

戦いはー、陛下に傷を作れるんですし興味無いんですかい?」

「無いな、力があるのは面倒事しか呼ばん。

リーズィくらいに圧倒的なら、話は別だが」

「充分圧倒的ですがねぇ、まぁそこに関しては俺は何も言えないんでね、此処で切らせてもらいやす。

あ、なにか飲みやすか? 出せるの地下室で作ってる薬草茶になりやすが」

「要らん、お前の研究と石細工は信用しているが、それ以外は信用出来ん。以前出されたのは俺を殺したことを忘れるなよ」

「そんなことも、ありやしたね」


笑いやがってこの野郎、死なない俺だから良かったに過ぎないんだが、言っても仕方ないか。

差し入れとして出された薬草茶が含有魔力量が高すぎて俺の臓器を炸裂させた過去がある。それ以来こいつの家で何か飲み食いすることは無くなった。

味は不味かった、土食ってる方が美味しく感じるくらいには不味かった。


「くっくっく...それより旦那。この後予定は?」

「急ぎは無いが、世話になったところには挨拶でも行こうかと考えていたな」

「そうですかい、ならこれ以上此処に留める訳にはいきやせんね? 今までありがとうございやした。

………あぁそうだ、追加の選別ですがこのナイフ差し上げやす。どっかで血を注ぐ時にでも」

「あぁ、貰っていこう。

ではなシアンティ、お前との語らいは楽しかったよ」

「えぇ、こっちも楽しかったですぜ」

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