第5話
ローカスト・ガーデンは放棄された高校の校舎をそのまま利用している。
校舎の壁や床はかなり傷んでいるものの、宿舎や食堂まであり必要最低限の生活を営む設備は整っている。
また自給自足をするための畑や、不幸にも死んでしまった者たちの墓。それ以外にも、浄水装置や発電機など必要な設備が随時追加されている。
初盗墓を達成した冬弥は、グラウンドの片隅にある掘っ立て小屋に足を運んだ。
壁はトタン作りでいまにも崩れそうだ。屋根から飛び出しているとってつけたような煙突が、いかにもありあわせで作ったお手製感を醸し出している。
さらに小屋の横には車のバンパーやら古いパソコンなどといった廃材が山積みになっていた。
「ゴミ捨て場……?」
他に形容する言葉が見つからない建物を観察していると、入口の表札に書かれていた「技術開発部」という文字が目に入った。
戸惑いながらも、ドアノブに手をかける。
「あの、技術開発部ってここであってますか?」
「いらっしゃーい! おや、君は噂の新入生だね?」
ガスマスクをつけた黄色いツナギの女が近づいてきた。
「噂のって?」
「あれでしょ? 湖蝶院の弟を小便漏らすほどビビらせたんでしょ?」
ガスマスク女は顎に手を添えると、茶髪のポニーテールを揺らして笑う。
「いや、あれは勝手に漏らしただけで……しかも俺のせいじゃないです」
「そうなんだ? まぁいいや。あたしは
元気よく名乗る女鹿島。やたらと声がデカい。
「十七夜月冬弥です。よろしくお願いします」
冬弥はぺこりと会釈した。
「あっはっは! かったいなー君は! それで? 初日からこんな油臭いところにくるなんてなにごと? それにしても暑いなこの部屋は」
女鹿島は唐突にツナギのファスナーを下した。
ブイ字に開かれたツナギから見えたのは灰色のタンクトップ。タイトな生地にぎゅっと潰された胸が作り出す谷間が顔を覗かせ、冬弥は意識的に視線を上げた。
声もデカいけど胸もデカい。冬弥は一瞬とはいえわりと最低なことを考えた自分を恥じた。
「あの、実はアスダリアを……これを直せないかと思って」
冬弥は首から下げていたアスダリアを女鹿島に渡した。
彼女は革手袋のまま受け取ると、ガスマスクの丸いレンズ越しに興味深そうな視線をアスダリアに送り、ほどなくして顔を上げた。
「みたところ軍事関連のエーアイチップみたいだね。悪いけどいまは直せないかな」
「いまは?」
「部品がないんだ。一から作るとなるとかなり時間が必要になる。しばらく預かってもいいかな?」
「お願いします」
冬弥が深々と頭を下げると、女鹿島は吹き出した。
「ちょっとちょっと、さっきから固すぎるよ! この学校は年齢も性別も関係ないんだから、もっと軽い感じでいいよ!」
「軽い感じって?」
「とりあえずタメ口でいいかな! あたしも君のこと十七夜月って呼ばせてもらうし!」
「わかった……。よろしく、女鹿島」
「よくできました! あー、そうだ。せっかくだしあれを……」
女鹿島はワークベンチに歩いていき、両手で大事そうになにかをもってきた。
「はいこれ、君のデバイス。友情の印に最新型をプレゼントしよう!」
彼女はそういって、銀色の手甲のようなデバイスを差し出してきた。
「いいのか?」
「いいのいいの。ようは試作品のテストも兼ねてるわけだからね!」
「ああ、そういうこと」
「みんながつけてるやつと違うのは色と付け心地だけだけどね。みんなのは黒でシリコン製だけど、これは銀色のアルミ製。重い代わりに強度は抜群で防具の代わりにもなるはずさ」
びっ、と親指を突き立てる女鹿島。
ガスマスクのせいで表情は見えないが、楽しそうな雰囲気は伝わってくる。
「こんど感想をいいにくるよ」
「頼んだ! あと君の相棒の修理だけど、とりあえずレアメタルがたくさん必要になるから電子部品を手当たり次第に回収してきて!」
「わかった」
「たくさん回収すればポイントにもなるし、大変だろうけどがんばってね」
「……ポイント?」
「ああ、それもまだか。まぁ、おいおいまひるあたりが教えるでしょ。じゃ、あたしはまだ作業の途中だから! またねー!」
女鹿島はワークベンチに戻っていった。
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