第7話 お友達の宮廷魔道士カレン



「ガイさーん!」



明るく元気な声が草原に響く。



「お庭にいらっしゃったんですね!」



 現れたのはオレンジの長髪でふわふわした縦ロールの髪型が特徴的な、

宮廷魔道士のカレン。

口ぶりから、明るく、常にポジティブで誰からも好かれる性格をしているのが伺える。


 宮殿魔道士に選出されるだけあり相当実力のある魔道士で、

この世界でも1、2を争う実力者とカレン自身は豪語している。


 好きな魔法は透明化魔法。

透明化魔法を使い、入ってはいけない所を散歩するのが趣味らしい。



「いやー、この前また第8層に冒険者が入ってきてさー」


「あら、それは災難でしたね〜、もっと強い結界魔法にしますか?」



第8層に通じる隠し扉はカレンの魔法によるものであった。



「いや、どんなに強くしてもあいつら破ってくるんだよ!もう何しても一緒だろうな・・・」



悲しい顔で呟くガイ。



「それに最近、侵入してくる冒険者が増えてる気がする・・・」


「まあ、今は冒険者ブームですからね!」


「誰だよそんなブーム作ったやつ!」



 今日、冒険者は儲かるという噂が流れており、仕事を辞めて冒険者になる者も多いのであった。



「あ!そういえば例の物持ってきましたよっ!」


「えー!持ってきてくれたの!?」


「はい!」



 子供のように飛び跳ねて喜ぶガイ。

先日、侵入してきた冒険者を冷徹に斬り伏せた人物とは思えない程だ。


 カレンが魔法を唱えると何もなかった場所から、異次元の空間が出現する。

これは収納魔法である。

便利だと人気で冒険者でも魔法を覚えて使う者は多い。


 カレンがその中に手を入れて取り出したのは、

手のひらサイズの大きさのボトルに入った緑の液体だった。



「ガイさんに頼まれていた、植物の成長を促す栄養剤です!」


「これこれ〜!使ってみたかったんだよ〜。最近、庭の花が元気なかったからさ〜」



カレンからボトルを受け取り、宝物のように見つめるガイ。



「ガイさん!私にお礼言ってくださいっ!」


「マジでありがとう!」



お礼を言われて気を良くしたのか、えっへん!と腰に手を当てるカレン。



「じゃあ早速使いますね!」



 第8層の花畑に移動してきたガイとカレン。

カレンが水魔法を唱え、空中に水の塊を出現させる。

そしてそこに、ボトルに入っている緑色の栄養剤を混ぜ合わせる。



「上手く調合できたと思います〜。では!」



カレンが水と混ぜ合わせた栄養剤を花畑に撒いていく。



「これで花達も元気にスクスク伸びるだろうな〜」



ガイは美しい花畑を想像しているのか、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。



「ん?あら?」



カレンのおかしな一言にも気づいていない。



「目を開けると広がるのは美しく輝く花畑!あぁ、スローライフは楽しいなぁ!」


「ちょっとガイさん!」


「ん?何?」



 我を取り戻したガイの目の前には、

自分の身長をも超える長さに成長した花の姿があった。



「え!?なんか想像以上に伸びてるんだけど!?」



 栄養剤を与えられた花たちの成長は止まらず、縦だけでなく横にも太くなっており、

葉をどんどん増やしていた。

よく見ると顔のようなものが現れ始めている。



「な、なんだこりゃぁ!?」


「うーん?・・・あっ、私間違えました!これ”栄養剤”じゃなくて”栄養魔剤”でした!」


「栄養魔剤!?」


「植物に撒くとモンスター化する薬ですぅ!」


「はい!?」



花たちは既に見上げる高さにまで伸びている。



「グァァァ!」



 先程まで花だったものがモンスター化し、雄叫びをあげている。

それを聞いたガイは目から滝のように涙を落とす。



「あがっ・・・うぅ・・・!」



大切に育ててきた花たちの変わり果てた姿に絶望するガイ。



「でもよかったじゃないですか〜、これで第8層が賑やかになりましたね!」


「よくないわ!」


「えー、じゃあ燃やします!」



カレンが炎魔法を唱え、途端に灼熱の熱球が現れる。



「ちょちょ!ちょっと待って!俺が大切に育てた花なんだけど!」



炎魔法を放とうとするカレンをガイが必死に止める。



「ダメですガイさんっ!仲間がゾンビになったら容赦無く殺すのが冒険者ですよっ!」


「いや、ゾンビじゃなくて花だからぁ!」



ガイの叫びは届かず、カレンは炎魔法を放った。


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