第七話 幽玄の女

 同日深夜。

 禁忌の地に足を踏み入れようとする人影がひとつ。


 その姿は逞しいものの、どこか幼さを残した少年だった。


 暗く細い道を照らすのは懐中電灯の光のみ。

 森の中はしんと静まり、少年の足音だけが響く。


「ふん。何が禁忌の森だよ。誰も彼も怖がりやがって。見てろよ。オレが暴いてやる」


 少年は学校で流行りの怪談話を笑い飛ばした。ここは昔から入らずの森として地元では有名な場所だ。神社の裏側に位置し、広大な土地に木々が生い茂っている。

 

 しばらく進むと開けた場所に出た。

 一基の赤い鳥居があり、そこに人を拒むように注連縄しめなわが張られている。それをくぐると円形の広場に岩が佇む以外何も無い。


 少年は懐中電灯を動かして辺りを見回す。


「はっ、やっぱり何もねぇじゃねぇか。馬鹿らしい。ぇんべ」

  

 そう言って引き返そうと踵を返した時、背後に人の気配を感じて振り返る。

 そこには岩の上に座る一人の女がいた。


「え……、さっきは誰も……」


 訝しがりながらも懐中電灯を向ける。


 それは世にも美しい女だった。

 白い肌は光を放つように滑らかで、濡れるような艶を持つ長い黒髪が背に流れる。身に纏うのは白いしゃの薄絹一枚。乱れた襟元からは豊満な双丘が露わになり、薄く色づく果実が透けて見えた。


 少年はその美しさに息を呑む。

 静かに女が顔を上げれば赤い瞳が少年を捉えた。


 そっと手を伸ばす女に導かれるように少年は一歩一歩近づいていく。その顔はうっとりと夢を見ているようにだらしがなく、体からも力が抜けていく。懐中電灯を取り落とした少年はそれにも気付かずに女に惹き寄せられた。


 その下半身はズボンを張り裂かんばかりに猛りきっている。


 岩の元まで辿り着くと、女がしなだれかかり、細い指を少年の頬に沿わせ唇を重ねた。少年がゆるゆると胸を揉みしだけば短い嬌声が上がり、その声に少年の体は更に熱を帯びる。


 女が足を絡めると、少年はその肢体に覆いかぶさり貪るように指を這わせていく。


 そして、辺りに淫靡いんびな水音が響いた。

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