第12話フウの望み
やっぱり、もう、フウは自分がすでに昔の弱虫どころか、むしろ、その正反対の人間になっていることに気がつくべきなのだ。そうさせてあげなくちゃいけないのだ、と自分に言い聞かせる。さっき少し泣いたので、いくらか気持ちは強くなっている。
「だめだよ。フウちゃん、もっと、しっかりしなくちゃ。学校は違っても、私はかわらないよ。いつもフウちゃんのこと、大切に思ってる。でも、私がいなくちゃ、何もできないなんて言われたら、私の方が困っちゃうよ。私だって……」
みゆは胸元に熱いものがこみ上げてくるのをぐっとこらえた。
「できたら一緒に行きたいよ。私に東校に行けるだけの頭があればなってすごく思うよ。でも、私、行けない……馬鹿だから……だけど、だからって、フウちゃんをふさわしくない高校になんて入れたくないよ。そしたら、もっと、大馬鹿になっちゃう。ちゃんと勉強してこなかったことをすごく後悔しているの。でも、もう、どうしようもない。だから、私を、これ以上、後悔させないで!」
みゆの声は、胸のかたまりをおさえこむように、少し大きくなってしまったかもしれない。フウが息をつめて、少し身を固くする気配を感じた。
しまった、少し強く言いすぎたか……みゆは、何か言わなくちゃと、言葉を探したが、どう言葉をついでいいかわからなかった。
薄闇の中、沈黙が流れた。言葉を出すのが恐ろしい気がした。シルエットになったフウの向こうに、公園の小さな街灯に照らされた滑り台が見える。
ああ、いいじゃない! こんな悲しい気持ちになるんだったら、フウの望み通り、一緒に矢津高に行こうって言えばいいじゃない! だって、それをフウも望んでいるんだから!、心の中でそう叫んだ。
ふいに、フウが、ほんとうにささやくような小さな声で、とぎれとぎれに話し始めた。
「みゆちゃんの言うとおりだって、そう思うよ。もっとしっかりしなくちゃって、ずっと、そう思ってきた。いつもみゆちゃんに頼りきってるばかりじゃなくて、自分から何でもできるようにならなくちゃいけないって、わかってる。ぼくはこれでも、少しずつ努力してきたつもりなんだよ。これから、もっと、きっと強くなってみせる。でも、その努力、みゆちゃんと同じ学校でしちゃいけない? 『高校なんて、どこでもいい、要は自分次第だもの』って、ずっと、みゆちゃん、言っていたじゃない……ぼくもそう思うよ。だったら、ぼくが行く高校もどこでもいい、って、そういうことでしょ。学校では、みゆちゃんの邪魔はしないよ。ぼくなりにしっかりやる。登下校もみゆちゃんの希望通りにする。えーと、ぼく、考えていたんだけど……東校に行けば、勉強はできるようになるかもしれない。でも、それだけでしょ。言われたことをただ忠実にやって……ぼくは、わりと、そういうことだけは得意だから……だけど、みゆちゃんの言うしっかりした人って少し違うでしょう? 自分で考えて行動できるしっかりした人になることでしょう? そのためには、みゆちゃんが近くにいないと、たぶん、まだ、無理なんだ。東校のいいところって、勉強ができるっていうことだけでしょう? もっと大切なことがあるって、みゆちゃん、いつも言ってたじゃない」
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