第11話みゆの義務
幼かった日々から、毎日を重ね、小さな変化が本当に少しずつ、少しずつ、二人の上に塵のように積み重なってきたことに、みゆはついこの間まで気付かなかった。
たぶん、フウはまだ気づいていない。忠実なフウは、みゆと同じ学校へ行くという目的のために、勉強をがんばってきたというのだ。フウにとって二人の関係は小さいころのままだった。
ついこの間まで、みゆもずっとそう信じていた。高校入試という現実がなければ今でもそのままだったかもしれない。
けれども、気がついてみると、もうすぐ二人は高校生になり、みゆもフウも大人になっていく。
みゆがいつもフウのそばでフウを守り導いていくことなんかできるはずもないことだった。ましてこんなだらしないみゆには……。
フウは、みゆがいつも正しいと信じている。たぶん、フウの両親も、フウの言うとおり、みゆを信頼している。だから、みゆは正しくなければならなかった。
フウを、きちんと東校に入れて、その持てる能力を最大限に発揮させてあげなければいけないのだ。それが、みゆの『義務』だった。
「ぼく、みゆちゃんが近くにいてくれないと、不安になっちゃうんだ。これまでも、みゆちゃんがいると思うから、がんばってきたんだよ」
「フウちゃんは、もう、昔のフウちゃんじゃないんだから何でもできるよ。生徒会だってすばらしい働きだって、先生もほめていたよ」
「あれは、みゆちゃんと一緒だったからがんばれたんだよ。よくやったっていっても、先生の指示通り、きちんと動いたってことだけだし……」
「違うよ。そんなことない」
そもそも、生徒会に誘ったのもみゆだった。なり手がいなくて困っているというのを聞いて、フウを誘って入った。あいていたポストが、副会長と書記だったので、フウを副会長にして、自分は書記に入った。入ってみると、フウは何事も率先してやった。人が嫌がるような仕事も平気な顔で引き受けて、文句も言わずにこなした。一人、そういう人がいると、みんなもひっぱりこまれる。文化祭や合唱祭、みんなが一致協力して、あんなに楽しくできたのは、たぶん、フウの力によるところが大きい。「フウって、かっこいい」とみゆでさえ思ったくらいだ。
「フウちゃん、フウちゃんはね、とても才能のある人だよ。たぶん、私が、一番そのことをよく知ってる。だから、東校に行って、その才能を十分に伸ばしてほしいの。それが私の願い……わかるでしょう?」
「わからないよ。才能を伸ばすっていうんなら、みゆちゃんのそばにいた方が、ぼくはがんばれる。みゆちゃんが見ていてくれるだけで、力が出るんだ。そのことは、みゆちゃんが一番よく知っているでしょう?」
みゆは言葉に詰まった。そう、たぶんその通りだ。それほどに、昔のフウにとって、いや、たぶん、今のフウにとっても、みゆの存在は大切なものなのだ。フウは、今でも自分が、小さいころの、あの劣等生のままでいると思いこんでいる。そして、みゆに頼りきっている。こんなだらしないみゆを……
みゆは目を閉じた。
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