第52話 卒業試験は過酷だ……ヨシ視点
私はバンズ村で生まれたヨシ。狩人の村なのに、狩人のスキルに恵まれなかった。
その上、一歳歳上のサリーとミクみたいな役に立つスキルも賜わらなかった。
私が賜ったスキルは『知識』。狩人の村に居た頃は、本当に辛かったよ。
でも、アルカディアで
それと学舎で、魔の森の狩人の村、アルカディア、そして人間の国について、勉強できたのは素晴らしい経験だった。
「教会に行こう!」と決意したのをミクは驚いていた。
前は、教会に行くしかないと思っていたけど、色々と学んで、他の生き方もできるとわかった上で、教会に行って、いずれは神父になりたいと思ったんだ。
私が教会に行って十年が経った。今は、神父さんの助手として、魔の森の巡回をしている。
神父さんは、いつものように子どものスキル判定、結婚式、それと諸々の相談。
私は、子ども達に文字や数字を教えたり、光の魔法の習得ができていない
「ジミー、どうしたの?」
「卒業試験を受けるそうだ」
相変わらず、口の重いジミーだ。まぁ、誰が卒業試験を受けるのかは、神父さんも私もわかっている。
「そうか、ミクとサリーが卒業試験を受けるのか? 修業も終わるのだな」
神父さんは、感慨深げだけど、そんな呑気な事を言っている場合じゃないんじゃないかな?
「竜の討伐が卒業試験なのでしょう。ジミーは、自信があるの?」
バンズ村でもジミーは腕の良い狩人として、有名だ。それに、光の魔法もかなり上手く使うみたい。
「えっ、ミクは薬師、サリーは風の魔法使いの卒業試験なのだろう? 竜の討伐? 馬鹿な!」
神父さんは知らなかったみたいで狼狽えている。
七十歳になったけど、なんとか光の魔法を習得して、六十歳からあまり老けていない。
でも、あまり驚くとロバが暴れるよ。
「行こう!」
ジミーは相変わらずだなぁ。私達に守護魔法を掛けて、木の上にスチャと飛び上がる。
私は、枝を使って上がるんだけどさ。
神父さんは、ロバでゆっくりと歩いているから、ジミーが警戒してくれる。
私は、ここら辺でも生えている下級薬草を摘みながら、次の村に向かう。
木の上から探した方が見つけやすいんだ。目に魔力を込める遣り方も習ったからね。
それと、ミクのオリビィエ師匠に簡単な煎じ薬の作り方を習った。
魔の森には、下級薬草は割とあるけど、人間の村では滅多に見つからない。
それに、これは教会で預かっている孤児院でも使えるんだ。人間の子どもは、すぐに風邪をひく。ひきはじめなら、下級薬草でもよく効くんだ。まぁ、ミクの作る煎じ薬の方が効き目は早いけどさ。
ジミーが護衛なので、
「試験に間に合うの? 護衛をつけて貰って、ジミーだけ先に行っても良いんだよ」
ジミーは、首を横に振る。
「約束している」
そうか、ミクとサリーだけじゃなく、アルカディアの女の子と良い感じなんだよな。
この口の重いジミーが彼女を作るだなんて、信じられなかったよ! それに、私は、ジミーは、ミクの事を好きだと思っていた。
まぁ、狩人の村では同じ村の
確か、ジミーとミクはハトコだったかな? でも、他の血も繋がっているから、従姉妹ぐらいになるのか? どちらにしても同じ村の相手との結婚は避けた方が良い。
「ほぅ、あの赤毛の美人のマリエールと約束しているのか?」
神父さん、竜の討伐は知らなかったのに、恋愛関係は鋭いね。いや、これは人間関係の基本だから、私もこれからは注意深く観察しなくては!
「討伐を手伝う約束だ!」
ジミーは、照れくさいのか、サッサと進む。
数年前に、アルカディアの何人かの若者が卒業試験に合格して旅立った。
マリエールは、そっちと一緒でも良かったのに、ミクとサリー、そしてヘプトスとリュミエールと受ける事にしたんだ。
きっと、数年前ではジミーは竜を倒すことができなかったからかもね。
アルカディアに着いた。私がここで修業したのは、一年そこそこだったけど、第二の故郷の気がする。
「ジミー! 来てくれたのね!」
マリエールとミクとサリーが門まで歓迎に来た。
「ああ」
それだけ? まぁ、マリエールもミクもサリーもジミーには慣れているよね。
「ジミー、夜まで竜討伐の計画を
それに、嬉しい事に私は
ミクの料理は、本当に美味しいからね!
前は、集会所でこうした卒業試験の計画は立てていたみたいだけど、今は狩人の村の子どもが滞在しているからね。
神父さんもメンター・マグスの家に泊まるみたいだ。
「ヨシは賢いから、私達の計画に何か穴がないか教えて欲しいの」
ミクとサリーにそう言われたけど、竜討伐なんて何も知らない。
ジミーとリュミェールとヘプトスがミクとサリーとマリエールの卒業試験を手伝う。
マリエールは、可愛い女の子だけど、火の魔法が得意だ。
「先ずは、何頭かの魔物を仕留めて、ここに罠を仕掛けるのだ」
実は、リュミェールとヘプトスは、もう竜を討伐済みなのだ。だから、指揮をとっている。
まぁ、リュミェールらしいね。偉そうにするのが子どもの頃から好きだった。面倒見も良いから、私は気にならないよ。
私は、リュミェールがミクを好きだと思っていた。でも、どうやらサリーと仲が良いみたいだね。
ミクは、穏やかなヘプトスの方が気が合うのかも。菜園を作ったりしている時間も長いからかな?
夜は、神父さんとメンター・マグスも食事に招待していた。
「ミクの料理は、とても美味しい。できればアルカディアにずっと居てほしいが、卒業したら人間の街に行くのだろう」
ミクとサリーと仲間達は、先に卒業したガリウスやエルグレース達と同じ街に行くつもりみたい。
「西の国に行くのは良いだろう。東の国は戦争が続いているから」
神父さんは、戦争で亡くなる人を思い、エスティーリョ神に祈りをあげた。
一瞬、静寂が
「おお、このナスのチーズ焼きは美味しそうだ! ミクは、人間の街でレストランを開けるぞ!」
確かにね! こんな美味しいものは他では食べられない。
「レストランは考えたけど、ガラの悪い客とか貴族が偉そうにしたら嫌だわ」
そう、人間の国には王様もいるし、貴族もいる。魔の森には、そんな身分はなかったから、教会で勉強していた時に戸惑ったよ。
「ガリウス達もいるから、変な客は追い出してくれるわ。それか
サリーは、やはりしっかりしているね。
「でも、サリーと治療院を開く計画じゃない! 料理は、メンバーだけで良いと思うわ」
まぁ、そうだよね。でも、ヘプトスが心配そうだ。
「仲間って、どこまで含まれるの? サリー、マリエールだけ?」
女の子三人は一緒に住まうと約束しているみたいだ。
「えっ、私は食べられないの! 酷いよ」
リュミェールの抗議に、ミクが慌てる。
「リュミェールやヘプトスやジミーは、仲間だもん! 一緒に食べましょう」
あれ? ジミーも一緒に街に行くって聞こえたけど?
「ジミー、親御さんに言って来たのか?」
神父さんが心配しているよ。護衛だけ、卒業試験の手伝いだけだと思っているかもしれない。
「言った」
まぁ、巡回した時にジミーの両親には話しておこう。
次の日の朝早く、ミク、サリー、マリエールの卒業試験が始まった。手伝いは、ジミー、リュミェール、ヘプトスだ。
「無理だと思ったら逃げるんだぞ! また受け直したら良いだけなんだから」
オリビィエ師匠の忠告を聞きながら、魔の森の奥、川を渡った最奥部分へと向かった。
私は、狩人の村から来ている子ども達と話し合う。
「光の魔法を習いに来たのに、勉強ばかりだ!」
ああ、狩人の村では勉強はあまり重要視していなかったからね。
「今までは、狩りができたら、それで良かった。でも、三百年生きるのに、文字や計算ができなくて良いの? 人間の街でお釣りを誤魔化されたり、変な契約で損をするよ」
狩人の村でも光の魔法が使える
だから、アルカディアに子どもを送って、学舎に通わせたり、技術を身につけさせようとしているのだ。
それでも、中には狩りにしか興味のない子もいる。こんな場合は、さっさと光の魔法を習得させて、他の子にチャンスを与える事にしている。
貰ったチャンスを活かせない子は、狩りだけして、貧しい暮らしをするしかないんだ。
私は神父の助手だから、一応はアドバイスするけど、それを聞くかどうかは、その子次第だと、この数年で諦観したよ。
まぁ、殆どの子は、四の巻ぐらいの知識を得て、何か手に仕事を付けて帰るんだけどさ。
前は、バラバラと子どもが来ていたけど、光の魔法だけなら村でも習得した
今は、各村二人ずつ一年で勉強に来ているんだ。勿論、各師匠に弟子入りできたら、期間は伸びるよ。
まぁ、今日は子ども達の不満を聞いたり、勉強でわからないことを教えて過ごそう。何もしないでいたら、ミクとサリーが心配だからね。
夕方、ミクとサリーとマリエールがくたくたで、ヘプトスやリュミェールやジミーに支えられて戻ってきた。
手ぶらだったけど、ミクがマッジックバッグを持っているのは知っている。
「ミク、サリー、マリエール! 大丈夫か!」
オリビィエ師匠とアリエル師匠、それとマリエールの師匠が、今日は一日中門の辺りをうろうろしていたから、姿を見て飛び出す。
「オリビィエ師匠、竜を討伐できました。調合薬を作りたいです!」
皆、どろどろで、くたくたなのに、ミクは薬師の最終調合を習いたい! と目がキラキラしている。
「その前に解体だわ! 竜を出して」
村の広場にはアルカディアの
ミクがマッジックバッグから、竜を出した。
「おお、これは大きいな! たいへんだったろう」
苦労したのは、竜の身体に刻まれた傷でわかるよ。
「サリー、一発で倒せないと駄目よ」
アリエル師匠は、見た目は優雅だけど、日頃はぐうたらだ。でも、竜の討伐には煩い。
「私達の時の若い竜ではなく、かなり大きくなった竜で、ずる賢かったのだ」
リュミェールも、いつもは綺麗な長髪が、かなり乱れている。
「逃げようと言ったけど、ミクとサリーとマリエールが倒すと言うから。三人の卒業試験だからね」
ヘプトスは、
「解体しよう」
ジミーはブレないね。
「肝は貰うわよ! 水につけたいから、先にちょうだい!」
竜の肝は、調合薬の素材みたい。これまでも、ミクは手伝いはしていたけど、今回は全て一から作るのだと張り切っている。
解体は、アルカディアの狩人も手伝ってくれた。誰が見てもヘトヘトだからね。
「今日は、ドラゴンステーキだな!」
神父さんは喜んでいるけど、ミクは大丈夫なのかな?
「美味しい!」
ドラゴンステーキは、とても美味しくて口の中で蕩けた。
「ねぇ、ミク! ずっとここに居ない?」
アリエル師匠が口説いているけど、ミクはキッパリと拒否した。
「皆と人間の街に行って、治療院を開きたいのです」
オリビィエ師匠は笑っている。
その夜は、皆で竜との戦いを聞いた。割とギリギリだったんじゃないかな?
「餌に食いついた竜をミクが光の蔦で縛り、私は飛んで逃げないように空気のドームで囲ったの。皆で攻撃したけど、ジミーとリュミェールの光の矢が両目に刺さったのが大きかったわ。でも、それで怒った竜がブレスを吐いたの!」
サリーが淡々と説明してくれるけど、それは、怖そう!
「マリエールは火の魔法使いだから、平気だったけど、盾役のヘプトスは守護魔法を掛けても、かなりダメージを受けたの。でも、ミクがすぐに回復魔法を掛けたのよ。後は、総攻撃して、やっと倒したの」
ふと、サリーだけが話していると思ったら、ミクはコックリ、コックリ船を漕いでいた。
「さぁ、調合薬は明日作ろう! ミク、サリー、寝なさい!」
ミクは目を開けて「肝が新鮮なうちが良いのに……」と言っていたが、オリビィエ師匠は時間停滞のマジックボックスに入れてあると笑う。
「えええ! そこには、私が居ない間のスープ鍋や調理した肉や、野菜が入っているのですよ!」
うん、竜の肝と料理は一緒にしたくないよね。オリビィエ師匠は、少し大雑把なところがある。
「大丈夫だよ! 蓋をした容器に入れてあるから」
サリーは、我関せずで部屋に上がる。興奮して話していたけど、疲れたのだろう。
ミクも明日は全部自分で調合薬を作ります! と宣言して、部屋に上がった。
「卒業試験、少し厳しすぎませんか?」
私の発言に、オリビィエ師匠とアリエル師匠が笑う。
「そのくらいできない子を外に出さないさ」
そうなのか? 私には厳しすぎると思うけどね。
次の日、ミクは調合薬を一人で作った。
「これを売れば、当分は食べていけるさ。それに、竜の皮も高く売れる。ちょっと傷が多いけど、問題ないだろう」
ああ、それもあって竜の討伐が卒業試験なんだね。
ミク、サリー、マリエール、ヘプトス、リュミエール、ジミー、どんな冒険をするのかな? ただ一つわかっているのは、ミクの料理目当てにアルカディアの
終わり
【書籍化】転生したら、子どもに厳しい世界でした 梨香 @rika0
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