第36話 皆でわいわい

 長老会は見学できたのに、長老会のメンバー何人かと神父さんの話し合いは見学できないんだよね。何だか不思議な気分。


 ただ、食事は集会所に運んだから、少しは聞き耳を立てちゃった。


 冷たいトマトスープ、ポテトサラダ、ビッグボアのロースト焼き野菜付け、そしてデザートのプリン!


 ワインも誰かが持って来たみたい。


「ミク、サリー、お疲れ様!」


 長老会メンバーからお小遣いと食事代を貰ったけど、このまま残って聞くのは駄目みたい。




「神父さんなら、きっと狩人の村の森の人エルフを説得できると思うわ」


 サリーと二人で話し合っていると、お隣りさんのヘプトスがやってきた。


「なぁ、ミクはご馳走を作ったんだろ? 余ってないか?」


 ヘプトスには菜園を手伝って貰ったり、木工品をちょこちょこ作って貰っているから、残りのご馳走を一緒に食べる。


 夏の気持ちの良い夜なので、外にピザを焼く時の椅子とテーブルをはこんで、三人で食べていると、他の学舎のメンバーもやってきた。




「ヘプトス、抜け駆けだなんてずるい!」


 リュミエールが騒いでいるけど、アルカディアに連れて来てくれただけで、手助けはして貰ってないよね。


「一緒に食べましょう」


 女の子達は、それぞれ何か食べ物や飴とかを持って来ている。その心使いが嬉しい。




「今度、竜を討伐したら、肝をあげるから!」


 リュミエールが竜を討伐できるのは、何年後かはわからないけど、私よりは早そうだから、それで手を打つよ。


「気長に待っているわ」


 余ったら行商人に売っても良いと多めに作ったから、全員が食べられた。




「プリン、残ってないか? 師匠に持って行きたい」


 鍛治の師匠にはお世話になっているから、冷蔵庫に残しておいたプリンを一つガリウスに渡す。


「えっ、まだ残っていたのか?」


 リュミエールが騒いでいるけど、本当はサリーと二人で後でゆっくり食べようと残していたんだよ。


「それにしても、ミクの料理は凄く美味しいな。やはりスキルのお陰なのか?」


 ヘプトスが一番よく食べているかも? お隣さんだからね。


「どうかしら? 学舎ではスキル以外も身に着けるようにと言われているけど……」




 そうだ、他の子に訊いておきたかった事があるんだ。


「ねぇ、もし狩人の村の子が来たら、仲良くしてくれる?」


 一瞬、間があった。


「それは、その子次第だよ」


 リュミエールの言葉に全員が頷く。


「私達もそんな感じだったの?」


 それは、ヘプトスが一番に謝ってくれた。




「学舎に来た時、挨拶しなくてごめん! 外から子どもが来る事なんて無かったし、どんな子かも知らなかったから。それに、私は少し人見知りなんだ」


 それは、分かるよ。ヘプトスは、知り合ったら、凄く優しくて良い奴なんだけど、黙っていると無表情で少し怒っている顔に見える。


 森のエルフって顔が整っているから、笑顔じゃないと少し怖いんだよね。だから、大人達は少し笑顔を意識的に作っているけど……畜産の師匠とか、ガラスの師匠とかは、もろ怖い。そういえば、うちの師匠達も笑顔は作らないタイプで怖がられているのかも?


 鍛治の師匠も顔は怖いけど、甘味が好きなのはバレているし、私の顔を見ると笑顔全開で、まぁ、それも少し怖い顔になっているんだけどさ。




「もし、神父さんが狩人の村を説得できたら、子どもがアルカディアに来るかも? 仲良くして欲しいわ」


 サリーの方がやはり言葉を操るのが上手いね。言っている事は、私と一緒なのに、お願いするって感じが出ている。


「ええ、なるべく優しくするわ」


 女の子のリーダー、エレグレースが言うと全員が賛成する。




「誰が来るか、わかるのか?」


 リュミエール、無茶を言うね。他の村なんかわからないし、バンズ村だって知らないよ。


「多分、若者小屋の子じゃないかな?」


 サリーは、そう言うけど、どうかな? あの子達は、自分では自立している気だから。




「若者小屋? 何なの?」


 全員が食いつく! アルカディアには無いシステムだからね。


「狩人の村では、三歳になったら、親から独立して若者小屋に移るの。大人達との狩には参加できなくても、若者同士で協力して狩りをして暮らすのよ」


 へぇ! と興味津々だ。


「それって、女の子も一緒なの?」


 エレグレースの言葉にヘプトスの頬が赤くなる。


「ええ、でも狩人の村では同じ村の子は結婚できないから、兄弟姉妹みたいな感じなのよ」


 また、全員が驚いた。


「結婚できないなら、どうするの?」


 マリエールは少しオシャマだね。恋愛関係に熱心だ。


「だから、夏になると他の狩人の村の若者小屋に泊まりに行ったり、来たりするの。そこで、共同生活しながら、将来の伴侶を見つけるのよ」




 サリーの説明に、何故か全員が頬を赤らめる。


「アルカディアにもそんなシステムがあれば良いのに!」


 リュミエールは、親の監視が必要な気がするよ。


「でも、自分で狩りをして、菜園も作り、掃除や洗濯もしないといけないのよ!」


 全員が、それは大変そうだって顔になった。




「それより、もし狩人の村の子が来たら、何処で暮らすのかしら?」


 アルカディアの木の上の家は、狩人の村の小屋よりは広い気がする。それでも、今のスペースを他の子が使うと、狭く感じるのかも?


「私とサリーが一部屋で寝れば、一部屋は空くわ」


 ベッドは、親のベッドの下に収納していたのより大きいし、二人でも十分だよ。




「集会場に寝泊まりするんじゃないかな?」


 神父さんや行商人は集会場の二階に泊まっている。


「そうなるのかしら?」


 私とサリーは、少し気の毒だと思っちゃう。だって、自分の村から離れてアルカディアに来て、集会場の上で生活するのって寂しくない?




「それより、光の魔法をどのくらいの期間で習得できるかが問題よ。サリーはもう習得できているけど、ミクはまだ十分とは言えないわ」


 うっ、それを言われると辛い。


「ミクは、土の魔法が使えるのに、習得するのに時間が掛かっているのよね。なら、狩人のスキルしか持っていない子は、もっと時間が掛かるのかもね?」


 ふぅ、やはり早く光の魔法を習得しよう。




「でも、師匠達は森のエルフは、基本的に光の魔法を持っていると言われたわ。それを意識的に使う方法を学べば良いだけなのよ」


 うっ、サリー! 胸に突き刺さるよ。


「ええっと、では私の光の魔法のスキルは意味なくないか?」


 リュミエールが不貞腐れる。


「違うと思うわ。だって、凄く簡単に光の魔法を使っているでしょう? 私よりも上手いもの」


 美人のエレグレースに褒められて、リュミエールの機嫌がなおる。単純だね!




「私も師匠に弓を練習するように言われているの。スキルが無いからと言ったら、人間の殆どはスキルを授かる事がないのに、弓を使っていると叱られたわ」


 竜を倒すには、手斧では怖い。遠距離から弓で弱らせなきゃね。




「オリビィエ師匠は厳しいのね」


 エレグレースに同情された。良い機会だから、他の子にも聞いておきたい。


「あのう、オリビィエ師匠は、竜ぐらい倒せないと弟子は卒業できないと言われたの。そんなの無理じゃないの?」


 サリーも横で頷いている。


「えっ、そのくらいできないとアルカディアから出ていけないのは常識だよ?」


 リュミエールの言葉に全員が頷く。




「えええ、やはり師匠は本気でそう言ったのね!」


「一生、弟子のままだわ」


 プッと笑われた。


「何も一人で討伐しろとは言われないだろ。何人かで討伐しても良いのだし、何なら私が手助けするよ」


 リュミエールは、自分で竜を討伐する自信があるんだね。


「リュミエールより、私が手伝うほうが良さそうだけどな」


 ガリウスの言葉に、全員が笑いながら同意する。




「私は、まだまだだけど、ミク達が十歳になる頃には、竜ぐらい討伐できると思うよ」


 ヘプトスにも言ってもらえた。何だか安心したよ。


 女の子達も「私の時も手伝ってね!」と約束させている。


「ふぅ、竜の討伐が弟子の卒業試験なのね……アルカディアから出ていくには、そのくらいできないと安心できないって事なのかしら?」




 皆が口々に意見を言う。


「人間の国にも竜は偶に出てくるし、そんな時は森のエルフに討伐要請がくる。その時に怖くて逃げだすなんて格好悪いからじゃないか?」


「いや、そのくらいじゃないと親は安心できないのよ」


「アルカディアから出て行かせたくないのかも? うちの親は過保護で困るわ。若者小屋があれば……掃除と料理は困るけど」


 一番年長のガリウスが笑う。


「竜の討伐が出来ても、鍛治士として未熟なうちはアルカディアから出て行かないよ」


 それもあるのか! 竜だけでなく、薬師として合格もしなくちゃね。

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