第34話 色々と準備!

 私は、光の魔法を使えるように、毎日練習した。

 朝は、火食い鳥カセウェアリーの世話があるから、防衛魔法を掛けるし、養蜂箱の横の果樹の世話をする時もね。

 でも、やはり風の魔法のスキル持ちのサリーと比べて、私は魔法が少し苦手だと思う。

 植物育成スキルのお陰で、土とは相性が良いのだけどさ。


「植物育成スキルで土の魔法が使えるなら、光も育成には必要だし、水も必要だと思うわ」

 サリーに駄目だしされたけど、なかなか上達しない。

「でも、前みたいに柵の中にいる時に防衛魔法が切れそうになる事は無くなったわ」

「当たり前よ!」

 サリーに危険だと叱られる。


「私は薬師になれるのかな?」

 弱気発言にサリーが驚いた。

「ミクは、薬師になると張り切っていたのに、何故、そんな事を言うの?」

「オリビィエ師匠に、竜を倒せないと薬師の修業は終わらないと言われたのよ」

 サリーは、あの時はアリエル師匠と話していたので、よく聞いていなかったみたい。

「えっ、本当に? それ厳し過ぎると思う」

 だよね!

「オリビィエ師匠が作る薬には竜の肝が必要なのもあるから、そう言われたのかも? でも、私が竜を倒せるようになるとは思えないのよ」

 サリーも考え込む。

「もしかして、私の修業も竜を倒さないといけないのかも……ちょっと無理な気がするのだけど……」

 アリエル師匠はエンシェント・ドラゴンを倒したドラゴン・スレイヤーだからね。弟子も普通の竜ぐらいは倒せて当然だと思っているかも?


 それは、まだ先の話だろうから、先ずは、光の魔法を習得する事と、西からの行商人に売る物を作る事に集中する。

「サリーは、火食い鳥カセウェアリーの殻のガラスコーティングを売るの?」

 サリーは、かなり腕を上げて、近頃は3回に2回は成功するようになった。

「半分は売るけど、残りは加工しようと考えているの。でも、そうなると金属加工も習わないといけないかも?」

 それって、甘党のルシウス師匠なのかな?

「細かい作業は、錬金術になるみたいなの。でも、火の魔法は使えないから、当分は置いておく事になりそうだわ」

 火の魔法を覚える気、満々のサリーのやる気に触発されて、私も頑張ろう!


 ピザ屋を時々しているし、卵を集会場で売っているから、お金は貯まっているけど、自立する時はもっと必要だと思う。

 だって、人間の町の汚い宿とかは泊まりたくないんだもん。師匠達も泊まらなかったと言っている。ノミとかシラミとか嫌だからね。

 私は、前世で薬剤師さんにはとてもお世話になった。だから、薬師になって病気の人を助けたいと思っているのだけど、その前に清潔な暮らしが必要だよ。

 

「石鹸をいっぱい作れば、少しは値段が安くなるのでしょうか?」

 オリビィエ師匠に相談するけど、首を捻られた。

「どうだろうなぁ。まぁ、少しは安くなるかもな」

 植物製の石鹸は高価だ。匂いは良いけどね。

 動物製の石鹸は、ちょっと臭くて、木の家アビエスビラでは掃除や洗濯に使っている。


「庶民は、動物製の石鹸しか買わないですよね」

 ちょっと躊躇ってから、オリビィエ師匠は頷いた。

「だけど、夏場に動物製の石鹸を作るのは臭いぞ」

 あっ、そうなんだ。

「なら、木の家アビエスビラの外で作ります」

 

 集会場には、魔物の脂身が残っている。秋とかは、蝋燭を作るのに脂身を買う森の人エルフも多いみたいけど、夏は人気がない。

 脂を溶かすとか、暑いからね。そりゃ、やりたくないのわかるよ。

「ああ、失敗したかも?」

 木の家アビエスビラの裏で、簡単に石を積んだ釜に鍋を掛けて、焚き火をしていると、汗がだらだら流れてくる。

 脂身が溶けて、カスを取って塩水を入れて不純物を取る。これは、オリビィエ師匠に教えて貰ったんだ。

 狩人の村で蝋燭を作る時も、これをしたら良かったね。燃やすと臭かったんだ。

 

 脂に灰を浸けていた水を加えてかき混ぜる。それを石鹸を作る容器に入れて、冷やしたら石鹸の出来上がりだけど、冬よりは時間が掛かる。

 やはり、秋から冬に作るのが正解なのかも?


 下級薬草は、わっさりと生えているから、それをついでに摘んでおく。

 上級薬草は、まだ増えていない。枯れないだけマシだけど、毒消草は枯れちゃった。

「師匠、上級薬草と毒消し草を採りに行きたいです」

 オリビィエ師匠も、行商人が来るなら、調合薬も作りたいと考えていたみたい。

「そうだな! 森に行こう!」


 夏休みだから、いっぱい森歩きして薬草を採取したい。あれこれ雑用ばかりしている気がするよ。

「ミクは、下級薬草は作れるなら、上級薬草を採りなさい」

 つい、見たら下級薬草も摘んでしまうけど、そうだよね。

 目に魔力を籠めて、上級薬草を摘んでいく。


「ミク!」師匠が小声で注意する。私は、上級薬草を摘むのに集中していて、周囲を警戒するのを忘れていた。

「これなら、ミクでも倒せるよ。やってごらん」

 えっ、鹿? というか角が大きなビッグエルクだ。とは言っても子鹿かな? 親離れしたばかりみたいだ。

 こちらには気づかず、むしゃむしゃと草を食べている。

「先ずは、脚を止めるんだ」

 つまり、茨の鞭を脚に巻き付けて、次に身体を拘束し、トドメを刺すのだ。

「茨の鞭!」

 手のひらの薔薇の実から鞭を出して、ビッグエルクの脚に巻きつける。

「キュン!」

 暴れて逃げようとするビッグエルクの身体を鞭でぐるぐる巻きにして、素早く駆け寄って首を手斧で切り付ける。

「偉いぞ! ミクもできるじゃないか!」

 はぁはぁ、息が荒い。

「ビッグエルクがこちらに気づいてなかったから……」

 ビッグエルクは、師匠のマジックバッグに入れてくれた。私のは薬草が入っているからね。


 帰り道で、トレントにも出会った。

「あれも討伐しよう! 甘い樹液が取れるんだ」

 それは、欲しい! スイーツを作ると蜂蜜がすぐに無くなっちゃうんだ。蜂蜜酒ミードや酢も作るからね。


「ミク、枯らす魔法を使ってみないか?」

 えっ、それは使った事がないんだけど?

「いつも、植物を成長させる時の反対をすれば良いのさ」

 えっ、オリビィエ師匠は植物を成長させれるの?

「手を重ねてごらん」

 手を重ねて「枯れろ!」と師匠が唱える時の感覚を掴もうと集中する。

 あっ、マジックバッグの掃除をした時の、バッグをひっくり返す感じに似ている。魔法を反転させているんだ。


「やってごらん!」

 師匠に励まされて、やってみる。

「枯れろ!」

 木の根っこを一本枯らせた。

「その調子だよ!」

 褒められると、調子にのっちゃう。

「根っこよ、枯れろ!」

「おお、良いぞ!」

 根っこが枯れたトレントがドスン! と倒れた。

「ほら、急所を叩くんだ」

 手斧で根元のコブを思いっきり叩きつける。

「やったな!」

 これの枝を落としたり、マジックバッグに入る程度に切ったりと、疲れたよ。


「これで甘い樹液が取れるな!」

 葉っぱや細い枝は火食い鳥カセウェアリーの大好物だった。

「ギョエー! ギョエー!」

 争って啄んでいる。

「樹液を絞るのは、明日にしよう」

 流石の師匠も疲れたんだね。それにビッグエルクの解体もある。

 解体の仕方も習ったけど、内臓を取り出すのは、ちょっと苦手かもね。

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