第63話 不埒者!
先ずは正面からぶつかる事にした。
時間が掛かる身体能力向上の魔法を使える者は、開始の号令と共に使っていく。
「考える事は同じか」
身体能力向上は発動までそれなりに時間が掛る。
咄嗟の戦闘では中々使えないが、こういった試合形式の場合、予め発動させておけば合図と共に実行し、即時に身体能力向上を使う事が可能だ。
アルテイシアと俺の身体能力向上は恐らく同じ位の効果が見込まれるだろう。
つまり、あの華奢な体と、その美しい顔に騙されてはいけないという事だ。
俺は斧使いと戦ってみたかった。
本当はアルテイシアさんと戦ってみたくもあるけど、どうも女の子相手に戦う事に躊躇がある。
だからメイヤに任せようと考え、相手を頼んだ。
向こうは5人がバラけており、こちらも各々戦いたい者の所へ向かう。
つまり5vs5の形を取る。
俺はワクワクしていた。
先程のタニスとネイリスの戦いを見ていて、体の芯が熱くなっていた。俺は闘技場の中心にいて、もし闘技場の形が四角形だとしたら、角に当たる位置に4人はバラけていった。
皆やる気満々だ。
ネイリスとタニスは戦う相手をチェンジしている。
しかし、気が付いたら俺がいる中心の方にアルテイシアがいた。
アルテイシアと戦うはずだったメイヤは斧使いの男、ハーニャはメイス使いの女と相対する位置にいた。
話し合った訳では無いが、早く決着がつこうが加勢しない感じになっているようだ。
「他の戦いを心配するだなんて余裕です事」
「どうかな?これだと邪魔されないなと、君との戦いに専念できる事を確認したんだ。こうやって敵として相見えるのは残念だけど、君の奥の手を見せてよ!」
俺は対戦相手に不満があったが、おくびにも出さない。
女の子を殴れるかな?勿論顔は殴らないよ!
「ふんっ!今のうちよ。貴方も色々持っているようですが、ゲームでは何度も戦って倒して攻略しているの。だから万が一にも勝ち目はなくてよ。だらしない顔をしていると、一撃で沈みますわよ!それでは参ります!」
俺はにたーと悪い笑みを浮かべながら、アルテイシアさんが接近するのを見ていた。
予想より速い。
取り敢えず実力を確かめるか。
アルテイシアさんは杖を片手に駆け出し、杖を振るう。
向こうの獲物の方が長い。
懐に入り込むと、剣を突き付けるも、剣先が存在感がある双丘の先っぽに触れるのが精一杯だった。
胸を突いて心臓を破壊した判定を取りに行ったが、軽く当たるのみだ。
繰り出してきた蹴りを躱しつつ呟く。
「可憐な白ですか」
「下衆ね!」
そしてにたーとしつつ、振り向きざまに背後へ剣を振る。
しかし、軽くお尻を撫でるだけにとどまった。
俺はアルテイシアの懐に踏み込むと、彼女もそうしており・・・ゴチン!
額と額が当たり、更に俺は右、アルテイシアは左に飛んで距離を取る。
しかし、同じ方向に跳び体がもつれ、お互い武器を落とし、更にもつれて転がる。
俺は顔にあった柔らかなものを押しのけたが、それは彼女の胸だった。
あっ!
と唸るも、涙を浮かべた彼女を見て固まり、平手打ちを食らった。
会場にどよめきが起こったと言いたいが、笑いが起こる。
実にやり難い。
こちらの動きをトレースしている訳ではなく、予測しての行動も、予測が外れているようだ。
「ふ、不埒者!私如きに本気を出すまでもないと言った感じなの?体を弄り回すのを止めなさい!やはり下衆でしたね!もう我慢できません!」
ヒューン、ドカン!
俺は吹き飛ばされ、観客席に叩き付けられた。
一瞬の静寂。
まさかの大将が場外負け!と。
「あー、あー、アルテイシア選手はこちらに!これより1分間の退場タイムです!セルカッツ選手、大丈夫ですか?」
俺は周りの人に助け起こされるが、顔に大きな裂傷がある。
砕けた椅子の破片が頬に刺さり、口の中にまで破片が侵入していた。
それと深刻なのが指が欠損している・・・
魔法の直撃であちこちがやばい。
「只今の場外は魔法攻撃によるものですので、無効です!アルテイシア選手は、セルカッツ選手の治療が終わり、それから1分のペナルティです!」
別の司会が説明をしつつ、その間に俺は駆け付けた治療しに治療される。
「・・・リカバリー!」
治療魔法の中では、死者蘇生や欠損修復のレストアに次ぐ高位の再生魔法だ。
落ちている指を拾い、リカバリーにてくっつけ、更に顔の傷も綺麗さっぱりだ。
「乱暴で悪いが、水の中に閉じ込める。その後乾かすから少し息を止めるように。取り敢えず闘技場の方でやろうか」
闘技場お抱え魔道士がそう告げた。
俺は歩けるようになると、自らの足で闘技場の方へと移動し、治癒士と一緒にいる魔道士が俺に【アクアプリズン】を唱えた。
上級魔法の一緒で、直径3mほどの水球に対象を閉じ込めるシンプルな魔法だ。
ただし、デカイ。
発動と共に息を止め、20秒ほどで解除され、辺りは水浸しだ。
そして【アクアドライ】を唱えた。
これも上級魔法で、対象から水分を奪う。
ずぶ濡れの人でも1秒もあれば乾き、殆ど通り抜けるだけで十分だった。
先程の【アクアプリズン】で濡れた地面の上に【アクアドライ】を発動した。
俺はその中に入り、表面の水分を吸って貰う。
注意は、入って直ぐに出ないと、水分が奪われダメージが入る事だ。
俺は綺麗になるも、髪がボサボサだなあとぼやきつつ、闘技場の中央にてアルテイシアが戻るのを待った・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます