第164話 身バレ=即死
”ターゲットは他の奴らとリンクしているのか?”
”コントロールしている寄合衆とか?”
”でなくて、他の上杉とか、鷲宮とか”
”無い袖は振れぬ”
いくらエルフでも必要電力が確保出来なきゃ通信は出来ないのか。
そういや、四つ耳もそうだったな。
”ただ、ログは残せる。一帯のファージを死滅させなければいずれ解析されると思った方が良い”
面倒だな。
”最も、その可能性は低いがな。上杉は過激派寄りじゃ。分かりやすい証拠を残すのはプライドが許さん”
そういや、そういう奴らなんだっけ。
”そろそろ限界だ。追ってきてる奴らは片付けるぞ?”
”了解。展開次第、サーチを開始する”
”見つけたら位置情報はわたしにくれ”
それでゴーサインが出たら、荒井たちに送って大砲でジ・エンドか。
何かあれば直ぐにのじゃロリにDOSアタック出来る下準備はしておく。
この一帯はごちゃごちゃで弄れない。保持しているアシストスーツの電力では嫌がらせが関の山だろう。
だが、カンガルーがロリの首を捻る時間くらいは稼げるはずだ。
カンガルーが俺よりロリを取ったら・・・。
それは死ぬしかないな。
上空に展開してあるテックスフィアの走査範囲を前方に広げていく。
見付かって逃げてるフリをしているピアス兄ちゃんたちや、それを追っている寄合衆たちがカメラで視認される位置に入る。
”凄い数だな”
どこからかき集めたのか。
これ全部本物か?
寄合衆たちが、真っ暗闇な山の斜面をファージ誘導による影響を無視して、波となって迫ってくるのがスフィアから確認できる。
巻きこまれて動かなくなったりする奴もかなりいるが、隊列を変形させ直ぐに補完されている。
全員がギリースーツなので、赤外線カメラからだと茂みが波となって迫ってくる感じだ。
斜面の起伏は大きく遮蔽になるモノばかり、一人一人の間隔が十メートル近く空いているので、これでは対人地雷も制圧射撃も効果が薄い。
逃げてるピアス君たちが時々撃っているが、何人倒されても全く怯まず距離を詰めてくる。時々撃たれても気にせず動いているのがいるが、多分幻影だろう。
ファージ誘導を可視化させると何が何だか分からなくなるのでもう諦めてそっちはロリに任せている。
三男たちに喰いついた奴らは既に川を渡り始めた。
俺らの周囲も奴らが駆け抜けていく。
手を出せば位置バレして囲まれるので潜んだままスルーだ。
狙いは統率しているエルフ一人のみ。
”範囲内に収めた。アタリはつけたが、三カ所ある”
この対応で炙り出されるのを想定していたのか分からないが、三つとも同じに見える。俺には見分けがつかない。
”目で見てみぃ”
そりゃそうだ。
スフィアのカメラで確認する。
”尾根に潜んでいる奴は量子ステルスの装甲を着ている。集団の後からついて行ってる奴はギリースーツだ。もう一つの場所には誰もいないな。でも、強い電磁波の発生源は存在している”
うち二人は中継器を所持しているのだろう。
判別つけにくい。
”装甲は荒井に任せい。ギリーはおのこがDOSアタック。潜んでる奴はわっしが圧殺しよう”
迷いが無いな。
失敗すれば手がバレる。三つの中のどれかがターゲットだと願う。
”金持よ”
”やれ”
カンガルーからのゴーサインと同時に、狙いを付けていたギリースーツへ、周囲を無視してファージ経由のDOSアタックを行う。
俺の全力アタックだ。
物理的に遮断してくるファージを無理矢理こじ開け、カウンターで起動した熱源により過熱され死滅するファージを気にせず全方位からブッこんでいく。
びっくりして立ち止まったそいつのギリースーツの中にファージの針をこれでもかと刺し込み。周辺のゴミ情報を大量コピーしながら送信した。
コンマ一秒で五百ペタ程度だから、俺が鼻血出してぶっ倒れる量の五千倍ブッこんだ計算になる。
全てを送信する前に回線として使っていたファージが焼き切れ、雷が落ちたのと同じくらいの音が発生し、一帯の空気が震えた。
狙った奴は一瞬明滅して倒れ伏す。
一拍遅れて荒井の大砲の音が響き、まぁ、撃ったのはゴブリンだろうが、尾根を見るとステルスしていた奴は既に跡形も無い。
のじゃロリが対象にしていた奴は文字通り圧殺されてる処だった。
ファージで形成された菌糸状の繭の中でグズグズと体積を縮ませ、既に事切れても更に縮んでいってる。
ガードごと潰してしまった。えげつないな。
三人の内どれかが司令塔だったのは間違いなかった。
あっという間に瓦解した包囲網は最早逃げ惑う野犬の群れだ。
やはり、データ上の偽装だったらしく、本当に追ってきていたのは二十人程だった。
逃げながらまき散らす弾も味方への誤射が関の山。
電子的に防衛されなくなった上杉エルフの部下たちは、のじゃロリに頭の中をかき混ぜられ、あっという間に一人も動かなくなった。
こいつにファージ浸食されるとああやって死ぬことになるのか。
”ふん。気配は消えたの。これで仕舞いの様じゃな”
ざわりとファージ全域を動かして感触を確かめた後に端から解放していった。
見つからないと分かっていても、動悸が止まらなかった。
言う気もなかったが、こののじゃロリの空間支配も後三十秒足らずで切れる。
ここ一帯の電位差が少なくなりすぎて生み出せる電力が足りないからだ。
いくらエルフでも、無から有は生み出せないだろう。
周りが敵だらけでファージ誘導出来ない環境は心臓に悪い。
大宮のツーリングでやらかした時を思い出す。
例え邪魔がはいらなくとも、俺はこのファージ濃度ぐちゃぐちゃの環境でこいつみたいな捕食者を無力化出来る気がしない。
”追われる心配も追い込む苦労も無くなった。点検終了次第目的地まで直行する”
”はぁ?課長俺少し休みたいんだけど”
”死体にゴキブリとショゴスが集まってくる。休憩ポイントは山二つずらす。アオヤギ。喰われたいなら貴様だけここで休め”
”優しい上司に反吐が出るぜ”
俺も休みたいが、生きながら餌にはなりたくないので黙っておこう。
「課長、エアーが足りない。もう一戦やらかしたら途中で尽きる」
ボンベの残量を集計している荒井が声を出すと、誰に聞かれてる訳でもないのにヒヤッとする。
「本来、最終戦のみに使う予定だったからな」
金持も無線を使わず肉声で答えた。
俺の無人機に有るっちゃ有るが。
「上にボンベは有るが、コンプレッサーの規格が合わないから充填するには機材がいる」
元々、自分用だし、こんな事になるなんて想定していなかった。
「とりあえず移動するぞ。安地に入ったらマスクは直ぐ取る」
炭田メンバーでエアーに余裕があるのは俺だけだ。
ロリとか三男はどんな大気でも平気で生きてそうだけど。
てか、あのタコ、呼吸とかどうなってんだ?
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