第162話 三分クッキング

「カエデコ殿。後どのくらい抑えられる?」


「なんじゃ。気付いておったか。そうの。・・・十分は無い。八分じゃの」


 のじゃろりは北の空を見ながら指を折っている。


「十分だ」


 カンガルーが全員を見渡した。


「さて、諸君。予定より早いが、戦闘プログラムの試運転だ。配布されてるモノの起動確認は手順通りに。設定はこちらでやる。ヤマダ」


「何だ?」


「可視光と赤外線をカットした上で、ハリネズミ起動。スフィアによるノイキャンを全員に」


「設定終了。可視光の切り替えは基本任意だ。全員確認よろしく」


”プログラムの起動と確認、点呼”


 夜戦だ。


 一方的な殺戮が始まる。




 後ろから三男を追ってきている奴らが何か大規模なファージ誘導を使った。

 それが俺らに到達するのにあと七分弱。

 それまでに前でヤキニクパーティしてるクソ共を再起不能にする。

 金持はこいつらの追い込みが間に合わないと踏んだ。

 なので後顧の憂いは断つ。


 俺が組んだ夜戦用の設定は、完全な暗闇で光源無しで戦闘できるプログラムだ。

 敵味方全員にマーカーを打つ必要があるが、一度打てば、どこに注意が向いていて、射線がどこを向いているかまで全員がしっかり分かり、共有出来る。

 MODのハリネズミは、青柳が”訓練場に飛び交う大量の射線を見てそう言ったのでその呼び名になった。

 視覚は完全遮断するので、フラッシュも怖くない。


”狙撃は三名。擲弾一名。マイバル、ハシモト、アライ、ヤマダは降下後指定ポイントに。以下、全員で殴り込みだ。バイザーを下ろせ”


 そうだ。


”あー。お前ら。戦闘はログ取るからな”


”だそうだ。針に触れなければヤマダからボーナスが出るぞ”


 無線で一斉に口笛が返ってくる。


 俺金無いんだけど。


”もう少しで月が隠れる。戦闘準備”


「カエデコ殿。風渡りを」


「ふん」


 バリバリと音を立てて全員が二メートル程浮き上がった。

 冷たい風が吹き始め、蜘蛛の巣に磔にされた気分のまま、徐々にスピードを上げ山を下る。落ちそうで落ちない変な感じだ。腐葉土を巻き上げ、木々の間をすり抜け、足跡一つ付けず、降りた時には既に山のふもと。歩けば三十分はかかる距離が三十秒。

 山を登ったりするにはエネルギーが足りなそうだが、降りるだけなら超有用なファージ誘導だ。


 待機組以外が風と共に接近する。

 川を挟んで展開する焚火に消火剤が投げ込まれ、煙幕弾展開されると、怒号が上がり散発的な銃声が始まる。

 照明は点いた傍から狙撃組に破壊され、ライトを所持した寄合衆は優先的に処理されていく。

 慌ててギリースーツを被る奴らもいるが、丸見えだ。

 サブマシンガンを乱射しているバカも何人かいるが、射線が見えているので致命打はもらいにくい、怖いのは跳弾だけだ。

 突貫組の動線が、ハリネズミに縫い針を打ち込んでいく。

 縦横無尽に駆け回り、青柳の無気味な笑い声がのじゃロリに操作され、焚かれた煙幕の中に響く。

 奴らの雄叫びは悲鳴と断末魔に代わり、もうもうと焚かれた煙幕は、止め置かれた空気により停滞して、逃げ出してきた奴らは狙撃組に鴨撃ちされている。

 一分と経たずに数は半分以下になった。

 こいつら乱戦だと鬼の強さだ。

 俺と殴り合ったときは忖度してたのか?


”アオヤギ被弾”


 言わんこっちゃない。ゲラゲラ大声出してるからだ。


”うるせー!跳弾だ!頭掠っただけだ!”


 催涙ガス使いにくくなるな。


”マスクに穴は?”


”ノーッ!!”


 青柳がシャベルで目の前の食人族の首を切り裂きながら叫ぶ。


 跳弾の反射角を表示させてみるか?

 今だけでも針の森だし、いきなりやると混乱するか。

 俺だけ表示させてみよう。

 っと。バラバラと何人か向かいの林に逃げ込んでる。


”抜けてるぞ”


”見とるわ”


 逃げ込んだ奴らはその勢いのまま倒れ込み起き上がらなかった。

 何をやったんだろう?今はファージ操作ノータッチなので良く分からない。


 乱戦する金持たちのやり口に気付いた奴らが、SUVの荷台から味方ごと重機関銃を動く者全てに向けて乱射し始める。

 作戦通りだ。


 重機関銃の乱射は数十秒で終わり、呻き声を上げた奴らは、霧の中に潜む金持たちに止めを刺されていく。


”死んだふりしとる奴が多いぞ?おのこや、マーカーを打て”


 容赦ないな。


 機転を利かせ、ギリースーツを着て動かない奴も何人かいたが、狙撃組が確実に頭を弾けさせ沈黙させた。


 動く射線は味方のものだけになり、耳を澄ませた金持は小さく息を吐く。


”作戦終了”


 高架下でキャンプしていた寄合衆総勢百七十一人、皆殺しにかかった時間は二分四十四秒。


 死臭と怨嗟の残滓が漂う煙の中から、突撃班が平然と戻ってくる。

 マスクで顔は見えないが、全身から汗を煙らせて、煙で燻っているみたいだ。


”後三分程でこの辺り一帯は二酸化炭素の海に沈む。縁に陣取って確認をするだろう。三男殿には餌になってもらう”


”如何様にも”


 触腕の塊を背負ったイケオジが首を垂れた。


”西の山を登り始めてくれ。近づかずに狙撃で片を付けてくるはずだ。わたしらは全員把握してから仕掛ける。それまで耐えろ”


 イケオジと部下二人は霧の中に消えていった。


”狙撃班残弾は?”


”十二”


”八”


”三十一”


 紙一重じゃねぇか。

 次一戦やらかしたら秒で尽きる。


”分配しておけ。生きてるマガジンも報告。突撃班は一分間被害確認、一分で弾の回収。二分後に移動開始。アライ”


”ポイントは選定してある”


”アオヤギと先に移動してくれ。ヤマダ。成果は?”


 荒井は戻ってきた青柳と一緒に茂みに潜っていった。

 反応は残っているのでトレースは出来ている。


 んで。オープンで聞くんだ?

 言わせたいのか?


”更新する要素は無かった。合わせるとダウングレードする事になる”


”だろうな”


 炭田メンバーたちから息が漏れる。


 寄合衆自体は、食い意地の張った野犬の群れと同レベルだ。

 こいつらだけなら、油断しているところを正面から火力と数で押し込まれない限り、炭田側が負ける事は無いだろう。


 寄合衆をコントロールしている上杉という奴ら、交戦記録に関しては既に目を通している。

 ここ七年ほどの記録に、ガチで銃撃戦が行われたのは数回しかない。

 奴らは少人数だったり防衛力が低かったりという状況に対して飽和攻撃を行って無力化から突貫してくる。

 そして略奪と暴虐の限りを尽くす。

 奴らは、狩りはするが戦争はしない。

 現在、日光から上信越にかけてのこの山岳地帯で、ナチュラリストの勢力以外で話の通じるコロニーは数えるほどしか無いそうだ。

 略奪されてないのは奴らが支配する街か、関係する労働キャンプのみ。

 金持たちに拾われたのはホント運が良かった。

 聴くだけでゲロ吐きそうな惨状だが、キャンプの労働者たちを解放しても地上では維持管理が出来ないし、助けた奴らが押しかけてきて地下に集団確保したら暴動を起こされて、それからは炭田側もかなり慎重になっている。


”上杉の采配で動くと全く別の生き物になる。アクセスの遮断は必須だ。遮断後は電子戦の応酬になるだろう。連携に関しては、今回のアタック中にカエデコ殿とすり合わせてくれ”


「良いのか?」


 思わずロリの顔を見てしまった。

 エルフ同士の魔法合戦なんて、都市圏側で見たやつは皆無なんじゃないのか?

 いや、今の俺はどっち側でもないな。

 只のクソスリーパーだ。


「見つけても、戦闘記録が揃うまでは殺さん。電子戦は多彩じゃが、戦術は教本通りの奴が多い。確と見定めい」


”電子戦を俺に見せて良いのか?”


 暗号通信でログを送った。


”わっしらの電子戦を見て、おのこが狂喜乱舞するのにあの歌を賭けても良いぞ?”


”それ、俺が負けたらどうなるんだ?”


”なんじゃ。負けるトキを考えて賭け事をするんか?”


”聞いてみただけだ”


”そうさの”


 唇に小さい指を当て、俺を見てワザとらしく考え込む。


”一つ願いでも聞いてもらおうかの”


”割に合わないな”


「シシシ」


”それはおのこが、聞いてから判断すればよい”


 タイマンの魔法合戦で俺を驚かせる自信があるのか?

 レアモノではあるだろうけど。

 大宮への電子攻撃以上の何かがあるのか?


”時間だ。いくぞ”


 俺らの応酬に気付いていたのかいないのか。カンガルーが号令を出しロリを担ぐ。

 空を見上げると、魚野川を中心にファージコントロールされた薄い霧が山間全体に被さってくるのが分かる。

 あの霧はサーチ機能も備えた二酸化炭素の塊だろう。

 吸い込めば、全ての動物は一瞬で死滅する。

 炙り出された三男たちを無力化するのは訳無いと思っているだろうか?


”彼奴らがわっしの範囲に入る。始まるぞい”


 お手並み拝見といこう。

 

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