【書籍二巻発売中】無慈悲な悪役貴族に転生した僕は掌握魔法を駆使して魔法世界の頂点に立つ〜ヒロインなんていないと諦めていたら向こうから勝手に寄ってきました〜
第百二十一話 名もなき犯罪者集団壊滅のお知らせ
第百二十一話 名もなき犯罪者集団壊滅のお知らせ
夕刻、帝都でも
“古傷”のロッティを名乗るリーダーを中心とした犯罪者の集団。
いや、彼らのこれまでしてきたことを
彼らの多くは
冒険者になる訳でもなく、真っ当な職につく訳でもない。
地方の都市から追い出されるようにして
だが、欲望のままに生きてきた彼らが高い
最初の頃の目的もすっかりと消え失せ、時々非合法な仕事により手に入ったあぶく銭で一杯やるだけの連中。
ロッティはそんな帝都の日陰者たちを取り纏め十人ほどの集まりを作った。
そんな彼らが今日この日廃れた酒場へと集結し悪巧みの
しかし、所詮は冒険者以下のはみ出し者たちの集まり、常日頃からガヤガヤと五月蝿いだけで、有意義な内容のものは一つもない。
風の噂で聞いた割のいい儲け話、羽振りのいい商人の噂、騎士団の活動を揶揄する中傷めいた雑談、最近の稼ぎの悪さを嘆く声。
毎度集まりはするものの
だがそんな中酒場の一角に騒がしい怒鳴り声が響く。
「バカ野郎がッ!!」
「ガッ!?」
「レント! オマエが任せてくれって言ったんだろうが! この俺様にあの『カモミール』への対処は全面的に任せてくれとデカい口を叩いた。なのになんだこの体たらくは!」
ロッティは酒場の汚い床へと横たわるレントを見下ろすと怒りを顕にして真意を問い質す。
「レントよぉ。俺様はあの店の土地の権利書を奪ってこいといったはずだぞ。それがなんだ。数週間かかってなんの成果もねぇ。これは一体どういうことなんだ!」
「いや、
それもそうだ。
ロッティから下された命令では老夫婦の営む『カモミール』の土地の権利書を奪ってくるはずが、数週間たっても一向に進展がない。
それどころか何やら目立つ行動をしては老夫婦に金銭をせびっているらしいとロッティの耳にも届いていた。
「わざわざ騎士団に目をつけられるようなことをしやがって。権利書を奪うだけの簡単な仕事だろうがっ! それがなんではした金をせびることになるっ!」
「そ、それは…………」
「オイ聞いてんのか、レント! せっかく俺様が孤児院から出て野良犬みてぇな生活をしていたオマエを拾ってやったってのに! ああん! 言い訳してみろ!」
無理矢理胸ぐらを掴みレントを立たせるロッティ。
彼の顔に刻まれた痛々しい古傷が否が応でもレントの視界に広がる。
「か、
「当然だ! 小せえ土地だがあそこの土地を求めてる商人は複数いる。それに周りの土地のいくつかはすでに俺様たちの手の内にある。纏めて売ればかなりの大金になるはずだ。潰さねぇ道理がねぇだろうが!」
「で、でも……あの店は人気もあるしなにより長く続いてる。店を潰しちまうより長く絞り取り続けた方が……」
か細い声で反論するレント。
しかし、それは激昂しつつあるロッティの怒りの火を更に燃え上がらせるだけだった。
「はぁ? で? 肝心の金はどうした? 奪えたのか? 俺様が聞いた話じゃババアに言い包められて禄に金も奪えてねぇって聞いてるぞ!」
「いや、それ、は……」
「ほら見ろ、下手な言い訳しやがって。俺様の考えに楯突こうなんて十年早えぇんだよ。それにな、小銭より大金だ。はした金を奪うより大金を手にして俺様たちはさらなる高みへ行くんだ。そしてゆくゆくは帝都を
レントを酒場の壁へと雑に放り投げると集まったゴロツキ共を焚きつけるように叫ぶロッティ。
ゴロツキ共は酒に酔っているのもあるのだろうが、一層騒がしくロッティを称える声をあげる。
「……ところで
「そうだな……この大事な時に仕出かしてくれたレントには相応の仕置きが必要か……殺すか」
「こ、殺しですか? それはあまりにも……」
「何だ? 俺様の決定に文句でもあるのか?」
「い、いえ別に
殺人と聞き一気に熱の覚めるゴロツキたち。
それもそうだ。
ここに集まった連中はどいつもこいつも武力を伴わない犯罪ばかりを起こす
そもそもそれなりの武力や人を殺す度胸や覚悟を持っているならすでに商人を襲う賊や魔物を殺す冒険者となって生活している。
それが裏社会での成り上がりを
一線を超える命令に彼らはすっかり及び腰になっていた。
「まあいい。死体の処理も面倒だしな。なにより足もつく。殺しは無しだ。……だがなあレント。オマエはこの辺で少し痛い目を見た方がいいだろう。二度と俺様に楯突かねぇようにな。オウ、オマエら少し痛めつけてやれ」
ロッティの命令に渋々ながらも動き出すゴロツキたち。
「グッ!? ガッ!」
それでも殴る蹴るの暴行を続ける内に彼らは再び調子に乗り始める。
『反省しろ!』、『オレたちに二度と迷惑かけるなよ!』、『孤児の癖に生意気なんだよ!』、口々に発せられる
「……あんたたちあまり物は壊さんでくれよ」
「オウ、マスター、そんなヘマをする馬鹿はいねぇよ。ちょっと床が汚れるくらいだ。それぐらいは勘弁してくれるよな?」
「……ああ、金さえ払ってくれるなら私はそれでいい」
「勿論だ! 大金が手に入ったらすぐにツケごと払ってやるさ!」
「…………」
暴行が続く中、レントの胸ポケットから何かが不意に零れ落ちる。
「ん、レントオマエ何を落とした」
「っぅ……あ!? それは」
それはメイラの渡した小遣いの入れられた封筒だった。
「何だコリャ。銀貨が五枚しか入ってねぇじゃねぇか。ゴミか」
帝国銀貨五枚は日本円にして約五千円の価値がある。
だが、野心家のロッティに取ってははした金同然の取るに足らない金額。
「おいおい、銀貨五枚程度床に這いつくばってまで掻き集めるようなものかよ。意地汚ねぇな」
「これは……この金はおれが貰ったんだ。おれがバアさんから貰った。大事な……大事な金なんだ」
ロッティに取っては銀貨五枚以上の価値などないはした金、しかし鼻血を流しながらも必死に暴行に耐えていたレントに取っては掛け替えのないものだった。
彼は両手を床へと伸ばし一心不乱に床へ散らばった銀貨を掻き集める。
「……わからねぇな。何がそんなに大事なんだか。バアさんから貰ったってことはあの店からせしめたのか? にしても、たかが一軒のしがねぇ店。それを潰すなだなんて俺様に歯向かってくるとは、そいつらを守るような真似をしてオマエにどんな得がある。一体何がしてぇんだ?」
不思議なものを見るような目でロッティがボロボロになりつつあるレントを見下ろす。
実際ロッティにとっては意味がわからなかった。
他人、しかも大した繋がりも利用価値もないものを後生大事にする意味が彼には見い出せなかった。
「おれだって……わからねぇよ。でも……あそこの飯はどれも
「……そうか。だが関係ねえ。店は潰す。諦めろ。――――オウ、オマエらまだ足りねぇぞ。もう少し躾けてやれ」
集めた銀貨を守るように床で丸まったレントに向けてさらなる追い打ちを命じるロッティ。
だが、それを途中で遮る者がいた。
「――――もうその辺でいいだろう」
「あ?」
突然酒場へと入ってきた乱入者の静止の声に、
そこに立っていたのは子供だった。
白磁の髪、漆黒の瞳の明らかに汚い場末の酒場には不釣り合いな貴族らしき子供。
「は? なんだ……貴族? だがガキ一人で何の用だ。ここはお子様の来るところじゃねぇぞ」
「お子様か……。だがな、いまはそこのレントの保護者みたいなものでな。これ以上そいつを痛めつけさせる訳にはいかないな」
「はぁ? 保護者ぁ?」
「……ルドルフとメイラから頼まれてしまったからな。『どうかあの子をよろしくお願いします』と。貴族相手に頼み事とは……だが、全面的に頼られるのもたまには悪くない」
「独り言か? 気持ち悪いガキだ」
「それに常に行動は監視していると伝えていたとはいえ、最後まで僕たちに助けを求めなかった。……まあいいだろう。助けてやる」
大勢の男たちの視線が集中するこの状況に、一切たじろぎもせず自然体でいる子供。
ロッティはようやく子供の異様さを感じ取り、同時嫌な予感を覚えた。
というのも彼にはほんの僅かだが子供の容姿に心当たりがあったからだ。
いま帝都で話題になっている貴族の子供がいる。
かつて、いやいまも悪童と呼ばれ嫌われている魔法学園の一生徒。
しかし、いまは彼を形容する呼び名はもう一つ存在する。
「はぁ……それにしても証拠を集める方が苦労したぞ。お前たちを捕まえようにも多少は決め手となる証言や証拠が必要だからな。でないと僕の方が逆に騎士団に疑われてしまう」
「証拠集め? 俺様たちを捕まえる、だと? しかもその容姿、まさかオマエ……いやそんなはずは……ガキ、オマエ何もんだ?」
「お前たち程度に名乗るのもな。……だがまあいいか。自分たちがやられる相手ぐらいは知っておきたいだろう。――――僕の名はヴァニタス。ヴァニタス・リンドブルム」
その名を聞いた時の反応は劇的だった。
「ヴァニタスだって!?」
「リンドブルム……まさかあのリンドブルム家の悪童!」
「なんだお前知ってんのか?」
「馬鹿! いま帝都中で話題だろうが! 竜殺しの学生! 何故こんなところにコイツがいるんだ!」
ゴロツキたちにしては魔法学園の一学生のことをよく知っている。
だがこれは皇族であるラゼリア・ルアンドールの多大なる尽力のせいでもある。
普段は出席しない大貴族主催のパーティーで散々にヴァニタスの活躍を言い触らし、帝都で発行される新聞のインタビューにもそれはもう積極的に応じた。
ヴァニタスの功績を余すことなく伝えるためとはいえ、過剰とも言える根回しと広報活動。
結果魔法学園の生徒のみならず貴族から帝都の住民たち、果ては犯罪者の間にもヴァニタスの新たな二つ名は広く知られることとなっていた。
「ヴァニタス・リンドブルム……“
ロッティは喉が異様に乾いているのを自覚していた。
目の前の人物こそいま帝都で最も話題の人物。
――――邪悪を殺す者。
「ほう、僕を知っているのか。こんな小悪党共にまで知れ渡っているとは予想以上に広まっているんだな」
何処か感心した様子のヴァニタスと違いロッティは内心の焦りを隠せなかった。
(“
「ではお前たちこれまでの悪事の精算の時だ。……覚悟はいいな?」
「「「ッ!?」」」
ロッティがどれだけ自身に言い聞かせたとして無駄だ。
ここにいるのは本物のヴァニタス・リンドブルム。
彼と敵対しタダで済むはずがない。
(なんだよアレ。何が起こってんだよ)
事前の話し合いの元、ヴァニタスたちが暴れ始めた途端物陰に身を潜めたレントは、その光景を見ながら自分の判断が間違っていなかったことを悟っていた。
(さ、逆らわなくて良かった。直感を信じて良かった。バアさんがこの人たちの言うことをよく聞くんだよって忠告してくれたのを素直に聞き入れていて良かった)
「吹き、飛べ!」
先輩面して何に対しても五月蝿かった盗賊崩れが、
「
いつも事あるごとに突っかかってきては自分をパシリ扱いしてきた金にがめつい男が、腹に強烈な一撃を食らって胃の中身をすべて床へとぶち撒けていた。
「……動かないで」
ロッティの腰巾着でいつも威張り散らしていた痩せぎすの男が、酒場の壁に矢で張り付けにされ恐怖に打ち震えていた。
「は〜い、こっからは先は通行止めだよ」
「逃げ道はありませんよ。……お覚悟を」
二人の奴隷の女に裏口すら封鎖され、行き場を無くし絶望の表情を浮かべる元仲間たちの姿を見た。
瞬く間に倒れ戦意を失うゴロツキたちに、先程まで暴行を受けていたレントですら思わず同情してしまうほどに悲惨な光景だった。
「何でだ!? 何で俺様の邪魔をする! “
「なんでもやるか……生憎だが僕はお前たちに興味がない。寧ろ目障りだ。だから……ただ沈んでいってくれ。僕の目の届かないところへ」
「クソォ!!」
「騎士団に引き渡すから殺しはしない。ただ暫くものが食えなくなることは覚悟しておけ。――――
ヴァニタスの掌打と共に放たれる魔法はロッティの顎を直撃し、前歯を根こそぎ吹き飛ばした。
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