第二十話 奴隷三人娘と街へ繰り出す


 アシュバーン先生が来てから僕の魔法ライフは充実していた。


 先生の変身魔法は掌握魔法と同じく特殊属性魔法に分類される特異な魔法。

 長年変身魔法と向き合ってきたアシュバーン先生と行う掌握魔法の研究は習熟は遅くとも非常に有意義だった。


 しかし、僕には一つ不満があった。


 この際だ、はっきり言おう。


 僕最近おっさん父上お爺さんアシュバーン先生としか触れ合う機会がないじゃないか!


 奴隷三人娘とはアシュバーン先生との魔法研究が始まると近寄り難いのか距離を取られてしまう。

 また、屋敷のメイドたちも最近は僕に近づくとお尻を撫でられるとわかっているからか、警戒が強くなっていて中々隙がない。

 数日以内には屋敷を訪れてくれるはずだった双子の妹たちもまだ到着していない。


 つまり僕の周囲には女っ気がまったくなかった。

 

 

 



 という訳で僕は奴隷三人娘を連れて屋敷の外、領民たちの住む街中に繰り出していた。


 この時のために父上には当面の軍資金を強請ねだり、アシュバーン先生には留守番を頼んでおいた。


 父上は快く了承してくれて金貨五百枚ほど入った魔法鞄マジックバッグ、所謂異世界ファンタジーでよく見る道具等を収納のための魔導具マジックアイテムを渡してくれた。


 これはかなりの優れ物で中の空間が拡張されていて外観以上の物を収納できる。

 しかも重さまで軽減してくれる親切設計で、僕のような膂力のあまりない人間でも軽々持てる。


 ただし、注意点として生きている生物を入れられないこと。

 野菜や果物など生ものを入れたら忘れないようにしないと中で腐ってしまうこと。

 定期的に魔力の補充が必要なことがあるそうだ。


 父上と反対にアシュバーン先生は一緒に散策に着いてきたがったが、今回は遠慮して貰った。

 せっかくの見目麗しい三人娘たちとの交流の機会なのだから、またの機会にお願いしますと誠意を込めてお願いしたのだが……。


「何故じゃ! 何故儂を置いていく! 自由になれとお主が言ったんじゃろうが! その儂を置いて……そんな小娘たちと街に出掛けるつもりなのか!」

「すみません、今回はご遠慮願います」

「ぐぅ〜〜、やはり若さか……儂がもう少し若ければヴァニタスを取られることはなかったのに〜〜。ぐぅ〜〜悔しいぃ」

「いや、若さとか関係ないです」

「グスン…………儂、寂しい」


 メンヘラ女みたいなムーブをしないで欲しい。

 まさかアシュバーン先生にこんなに寂しがり屋な一面があるとは。

 一緒に掌握魔法の研究をしている時は気づかなかった。


 ……一時的なものだと信じたい。

 帰ってきたら治っていると願おう。


 なんだかんだ長い間拘束されてウンザリしたのはナイショだ。


「それでは主様、今日はどちらに向かいましょうか?」

「うん、まずは何か美味しい物でも食べたいな」

「主、朝ごはん? 食べる? 食べる!」


 今日はこの日のために朝食を抜いてある。

 屋敷から送ってくれた馬車を降りる。

 うん、ヴァニタスの記憶では何度も訪れた場所だけど、僕としては初めて訪れる屋敷以外の場所。

 文字だけではわからなかった物語の中の世界。

 それがいまや現実として目の前にある。

 ……ちょっとした感動だな。


「よし、なら……はい」

「何でしょうその手は?」

「何ってせっかく街中を歩くんだ。手を繋ごうってことだよ。――――恋人繋ぎで」

「はぁ!?」


 クリスティナに手を差し出すと思いっきり後ろに飛び退かれる。

 うーん、やっぱりまだ嫌われてるなぁ。


「こ、こ、こ、恋人繋ぎですか!? あの恋人同士がやる恋人繋ぎの恋人!?」

「そうだけど、そんなに動揺する?」

「ど、動揺などしておりません! しかしですね……私は主様の護衛役のようなもの。手が塞がっていては支障がでます……ですが主様がどうしてもとおっ――――」

「じゃあいいや。ヒルデガルドは?」

「手? 繋ぐ!」


 うんうん、ヒルデガルドは大分僕にも慣れてくれたな。

 やはり模擬戦で通じ合えたのが良かったか。

 転生についてはまだいまいち理解していないみたいだけど、まあ、細かいことを気にしても仕方ない。


「転生してから初めての街。さあ、存分に楽しみに行くぞ」











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