第107話 悪魔の歓喜
『じょっちゃんごめ。三つ葉のお姉ちゃん達を方メインでサポートする。』
八木は、丈二にあらかじめ伝えておく。
『ん。あっち佳境ってことか。』
『そ、バフォメットもやる気満々のクライマックス。』
『話してて大丈夫なんか?』
『大丈夫、こちらの作戦タイムでインターバル中。』
『へ? あの悪魔が休憩OKしたの?』
『僕あいつ嫌いじゃない。いい感じにバトルジャンキー!』
『何それ。面白そう。こっち……クレイジーだよ? 絶対。』
『でしょ! もしこの事件終わって、まだお互い生きていたら、一回話してみ?』
『生きていたらって……はぁ。OK。こっち気にしつつ、そっちは任せた。』
丈二は、親友のスイッチが入っていることを確認して、それ以上は何も聞かずに、自分の役割に集中することに努める。
※ ※ ※
カットレイ達が、中級ダンジョン下層の階層ボスを倒したとき、バフォメットとの戦いは作戦タイムに入っていた。
ギリギリの戦いであり満身創痍の戦いを終え、またもやフラフラなカットレイであったが、後ろで繰り広げていたレベルの高い戦いが静かになり、且つ、バフォメット……見た目ジアス・ピオンが仁王立ちしている姿を見て、一瞬負けの戦局が脳裏に過る。
恐らくは、頭脳戦含めての頂上決戦は小屋の中であるが、目に見えるその状況に体が勝手に動いて組合長の方へ「みたらし団子」の面々を引き連れ歩き出す。
奇しくも、領主の息子ラスルトが小屋から消滅し、ゼアス・ピオンが小屋に現れたタイミングであり、この時彼女が耳栓をしていれば、行先は小屋であっただろう。
「組合長はん、無事やったか。戦いが中断されているようやが、何がおきてんねん?」
歩み寄ったカットレイが、組合長に状況を確認する
「みたらし団子か。すまないが時間がないので、これを。彼から説明を受けてくれ。」
組合長は耳栓を彼女に渡し、『三つ葉』の面々とローズヒップの盾受けがどうの真剣な顔で指示をだしている。その顔は何処となく高揚に満ちており、『三つ葉』の面々のその顔は、遠足にわくわくが我慢できない子供のような顔になっていた。
脳内で、女神ケレースから説明を受けて、何が何故そうなったのか全く理解できないカットレイであったが、お互いが恨みっこなしの戦いを楽しんでいるのだけは分かり、組合長に一応の質問を入れる。
「なぁ。お互いボロボロやけど。回復はいるんか?」
その話が聞こえていたのだろうか、ジアスの顔をしたバフォメットの眉がピクリと動く。
「おう、そこの悪魔。安心せい!回復するならお前もや! わし等はそんな野暮やないで?」
その顔に気が付いていたカットレイが悪魔に言う。
「ふふふ、お前らも同じタイプか。面白い! こいつ等との戦いに勝たせて貰ったら、次は貴様らとの戦いを所望したいな。 ああ、回復は結構。このお互いのダメージがこの戦いの勲章だ。」
嬉しそうに、実に楽しそうに話すバフォメットに、ゾクリとしながらも好感を抱いてしまったカットレイではあったが、「戦いは戦いである」と考える現実主義の指揮官である。組合長の顔を見る。
「だそうだ。悪いが手出しは無用。 私達の提案を飲んでくれた彼に敬意を表したい。」
「それでこそだ。お前達は俺のライバルだよ。ふふふ。ただ、すまないが……そろそろ……。」
互いに笑いながら、インターバルを終える。
組合長は、カットレイに「この戦いを見届ける」か、「小屋にヘルプに行くか」何方かの対応を頼み、自分の作戦に全てをかける覚悟で、再び『三つ葉』の3人と共に悪魔バフォメットと対峙する。
その姿を見て、「こっちは問題あらへんな」と、回復ができるエイディとアビーを残し、戦いに背を向けて小屋へ向かうカットレイ。
当然、彼女の耳には、小屋の中での出来事が八木からもたらされており、兎に角ヤバいであろう「ゼアス・ピオン」の元に、背中に流れる汗を感じながら、向かっていく。
◇
カットレイが、振り向いてから小屋に辿り着く迄の間に、バフォメットと組合長と『三つ葉』の面々との戦いに決着が付いていた。
それだけ、短い時間で練ったお互いの戦略対戦略の戦い。
その戦いは一瞬で、そして最後の止めは、ファランクスのローズヒップが繰り出す大盾で殴る単純な攻撃に因るものであった。
お互いの顔には満足感が表れている。
バフォメットの意識は、薄れゆく視界の中で、一瞬の戦いにお互いの全てを賭けたライバルの満足そうな顔を見て、今までに無い人間への好感を感じ、また戦うことに夢を見ながら『歓喜』と共に、意識の闇に落ちていった……。
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