第105話 チームみたらし団子の絆
闇の復讐者。それは、とある中級ダンジョンの下層ボス。
難易度も上級ダンジョン下層のそれに匹敵すると言われるボスモンスターであるが、それは、ひとりの元冒険者にあっさりと倒される。
最も、ひとりというのは、人間を数える単位であって、倒したのは、その元冒険者と使役された魔物や生気のない人間達であったのだが……。
それは、数の暴力でもあり、力の暴力。
そして、その中級ダンジョンの下層ボスは、その軍門に下ることとなる。
◇
カットレイは、自分の感じている予感と、丈二が確信を持った「それ」を待っていた。
「何や……前にも、そんなことあったなぁ。あんときは、結局間に合わずに終わったけどなぁ! ミッツ!」
アビーとベンジーの献身的な介護により、何とか回復した虎人族を見下すように言う。
「はぁ? あんときは、ワシかて必死やったんやで?」
「まぁええわ。今回はお前はこっち側やで? きばりや!」
「任せえ! 格上と戦うのは、誰かのせぇで、もう慣れっこやで?」
「ほな防御スイッチや! 一端ワシが作戦組みなおす!」
虎人族のミッツは、苦笑いしながら闇の復讐者の攻撃を、カットレイに代わって受ける。
アビーから貰った、丸薬を飲み各毒耐性を得ているうちは、言い訳も出来ないなと一撃一撃を集中して受け止める。
「ふう。コールマンさんから買っておいて正解だったなぁ~。」
アビーが、後ろから銀色に輝くスティングを構えながら、八木の調べた「関節部の弱点」に弱点の銀武器を打ち込むタイミングを待つ。
光魔法が無効な厄介な敵、闇の復讐者。
神官でもあり光魔法が得意なベンジーにとっても厄介な敵ではあったが、彼にはバードとしての音楽支援がある。
厄介な敵から、バフが届けられるギリギリの距離を保ち、ミッツに耐久力を、アビーに命中力を配る。
その場所取り、タイミング、そして回復に切り替える判断力と胆力とも彼は研ぎ澄まされていた。
―――黒猫は猫の危険感知が発動したと言っていた。その危険がばあちゃんに及ぶ可能性があの小屋にはある。
彼は、大切な育ての親で先生を守りたい一心で、大切な人を守りたい一心で、持てる力をフルに発揮する。
◇
戦いは、やはりというか予想の通りというか、常に押され気味ではあったが、この後衛2人の能力に助けられ、タンク職が耐える展開。
既に一度倒され、傀儡状態で自我は無いであろう闇の復讐者には、どう映っているかは定かではないが、その実力差を考えると、間違いなくそれは攻め倦んでいた。
その要はやはりカットレイ。
自分とミッツの受けを巧みにスイッチさせ、ベンジーのマナが尽きることなく戦況をコントロールしていく。
そんな一進一退の攻防の中、何処からか甲高い音の指笛がなる―――。
「やっぱ来たんやな! ミッツ今や!」
「おう!」
虎人族の雄が、全身の力を盾に籠め、闇の復讐者に当たる!
―――ズコンッ!!
鈍い音を立てて、復讐者は仰け反り上半身が傾いたその瞬間!
アビーのスティングが復讐者の右肩の関節に突き刺さる。
1本・2本・・・と突き刺さり、右手がだらりと垂れ下がる復讐者。
代わりに、硬直をして一瞬動けないミッツに、何とか自由になる左腕に全ての毒を乗せ、闇の復讐者が奥の手であろう腕を不自然に伸ばして攻撃をする。
本調子のミッツであれば、避けられるであろうその攻撃であったが、硬直状態の中で躱そうと力を入れた腹の傷が開き、彼は苦痛に顔を歪める。その痛みによる遅れは、本来なら致命的であったのだろう。
―――キィィィン!
甲高い音を立て、闇の復讐者の左の肘から下が宙に舞う。
「相変わらずピンチが好きなんだ……やな!」
無理をした偽関西弁が、横から聞こえた。
「待っとったで!
ドドドドドッ! と、闇の復讐者の仰け反った上半身前面に銀の矢が3本、6本、9本と突き刺さる!
「
◇
それでも、ノックバックの硬直から復活し、残った身体で反撃をする体制を取ろうとする闇の復讐者。
だが、カットレイはそれをさせない。
「持てる攻撃を全部に込めて、一気に殲滅やああああ! AB氏(アビー)毒とか毒とか毒とか受けった奴らを頼んだでえええ!」
「おっけー♪ やっちゃええ♪」
畳み込むように、殴る!刺す!打つ!投げる! カットレイもミッツも闇の復讐者の爪を掠め、毒を食らう。その度に、「ぶちゅううう」と言いながら注射を打ち解毒をしていくアビーちゃん。
ベンジーが、2度目のバフの掛け直しを終えたとき、闇の復讐者の目は光を失い、ピクリとも動かなくなった。
※ ※ ※
カットレイは、無言で闇の復讐者の亡骸の亡骸に近づき、剣に力を籠める。
その剣の先は、それのコア。
ザクリとコアが切れる音がすると同時に、金属音がする。
やはり、操られるための措置が施されているのをカットレイは確信し、小屋の方を見て言う。
「にいちゃん……気張りいや! 理由はどうあれ、ゼアス・ピオンがこの戦いバリバリに関与しとるで!」
カットレイが危惧したその名前は、奇しくも今、丈二の目の前にキャスリングされた、本当の敵であった。
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