第104話 小屋の中で垂れ落ちる血潮
さてと……あの野郎の余裕は何なのだろうか。
闇の復讐者のキャスリング召喚だけでは、恐らくないと考えている。
黒猫の言う通り、ラスルトを倒すことが今は大切だと思える。
あのミスリードのような感覚も不可解だ。
それにしても、何故か舌戦で時間を稼ごうとしている『弱腰』な自分がいるのも気になる。
今までなら、仲間が傷つかないためにも、調べて考えて、なるべく早い決着を着けることで実力差を補ってきた気がするが、こいつに対しては印象が逆なんだよな。こちらが乗せられている。
丈二は、自分をゆっくりと分析する。
『マリダさん。扉から中に入った瞬間に、俺とサニーさんで突っ込みます。魔法で防御壁を築いて応戦しますので、隙を見てラスルトに止めを頼みます。』
『あいよ! わたしも少しだけ無理をするからね。その前に――ホーリーコンフュ。』
マリダ婆さんは、光魔法で全員の思考をクリアにする。
『少しラスルト様に引っ張られすぎてるわね。落ち着いて行きましょ。』
『ありがとうございます! それでは行きます!』
◇
丈二は、扉を蹴り開ける。
その瞬間にサニーは壁となる位置取りで、全員の前に立ち「威嚇」を放つ。
―――ガウウゥゥゥゥゥッ!!!
中の様子を見渡すサニーに戦慄が走る―――!!!!!
《ご主人様。中に入ってはいけません!!!》
その一言に後一歩のところで丈二は留まるも、中の異様を目の当たりにする。
ゼアス・ピオンが死んでいたとされる椅子に腰かけ、全身を切り付けて血を出している『神殿の神官メーリエ』の姿をしたラスルトが、誰かの手を頬張っている異様な姿。
その血が垂れ落ちる床から、黒い靄が下から上へと湧き上がっている。
「この瘴気は、『悪魔』のものだにょ……。婆ちゃんここに封印してあるのって、まさか。」
「あぁ。バフォメットの心臓……魔核だねぇ。ラスルト様は気が付いていたのかい……まずいね。」
「どういうことでしょう。奴は気が付いていないのではなかったのです?」
「少なくともメーリエは知らなかったはずさね。それより……封印が解けるよ。」
「え、ええ? どういうことです?」
「メーリエは、ここの封印をした神官の孫さ。その血はある意味で封印の鍵なのだが、ラスルト様の能力はそこも再現出来てしまっているんだね……。」
「フンにょ!」
黒猫が尻尾を振り、黒い靄が黒い靄を吹き飛ばす。
すると、ラスルトの周りが ぐにゃり と歪み、メーリエの見た目がラスルトに戻ると、部屋の雰囲気が一変する。
◆
「な! この部屋の雰囲気が……禍々しい!? こんなのだったっけ?」
「やっぱりお前たちには、そんな感じだったのかにょ。はぁ。しかしこれは……にょ。。」
《・・・。》
「お前は、この雰囲気をはじめから?」
「僕も初めは嫌な予感はしたけれど、雰囲気は普通だったにょ……気が付いたのは、結界が張りなおされたタイミングで、婆ちゃんのマナに守られ只の猫に成り下がった時にょ。」
「恐らく、全員が強い幻覚作用か認識阻害を受けていたということか?」
『恐らくマナへの干渉……。僕たちの方に映る映像も多分じょっちゃん達と同じだから、異世界TVの根源のマナがじょっちゃんと考えると、道理が通る。』
八木が、複数の情報を整理していき、それを丈二に送る。
なるほど、これは在りうるし、道理が通る。
それならば、完全にこいつの掌で俺たちは踊っていたのか?
『え? それなら、あの恥ずかしいお遊戯……寸劇……茶番は、俺は馬鹿にされ損なんじゃね?』
『そんなことはないっすよ!あの茶番で分かったことは有効じゃないっすかね?』
『お前……一番馬鹿にしてたじゃん。って、分かったこと?』
『アビーちゃんっすよ。』
『あ……嗅覚は、誤魔化せなかった?』
『そうっす。この気持ち悪い空間は、何が一番変っすか?』
『一面の血糊かな……。』
そうか。それなら、総てが掌で踊って……ではないのだな。 なら!
「ラスルトさんよお。ここで色々「いたしてた」みたいだけど、そんな破廉恥な思い入れが、お前をここまで血まみれにしているものなのか?」
交渉術ををONにして、敢えて悪魔の封印について聞くよりも「過去の情事」のことを、敢えてぶつけてみる。
「ふふふふ……そう…だねぇ。あれは…奇跡だったよ。」
青白い顔で、目線が定まらない表情でラスルトが細々く言う。
「はぁ? 何、死に掛けた振りをしてるんだ?」
「そう……思う…か……ね?」
確かに、こいつの精気が無くなって来ているようにも見えるが、また偽装なのだろうと丈二は思い、次の質問を投げかけようとすると、マリダがそれを制止する。
「え? マリダさん?」
マリダが、素早い詠唱で光魔法をラスルトに放つ。
それ合わせて、黒猫とサニーが、ラスルトの首を跳ね、胴を切る。
◇
「流石……だね。ただ……少し遅かったね…。私は君たち…が、外で……迷っている内に…既に……絶命している…としたら? そして、私…という……存在は、愛する…あの……男の手で。。。くぁ……。」
ラスルトの首が、幸せそうな笑みを浮かべながら、胴体と共に赤黒く光り出し『魔法陣』が現れると、その刻まれた姿が消えていく―――。
「何が起きた!? そして、これは……キャスリング?」
「あのラスルトは、ツブちゃんが幻影を解いた時には既に死んでいたのさ。そして、こいつこそが、その犯人……なんだろうね。」
《すみません。私も気が付いていましたが、それを伝えるとご主人様は中に入ると確信をしており静止しました。》
「まったく、お前だけ経験不足にょ。それよりも、こいつが恐らく……。」
ラスルトは小屋に入ると死んでおり、それを誰かが操っていた?
ラスルトの言葉から察するに、その死は自らの意思であり、愛するあの男……。
と、いうことは……入れ替え転移魔法キャスリングで目の前に現れたこいつが、その人物であり、死者を操ったということは、即ち……。
―――ネクロテイマー ゼアス・ピオン !!!!
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