第3話 ダンジョンについて:メンバー加入

 俺は今、新宿支部に徒歩で向かっている。


 その間に、ダンジョンの仕組みなどを説明しておく。


 10年前に突如できたダンジョンは、日本のみならず世界でその姿が発見された。


 世界ダンジョン対策機構WDMOが発足され、世界規模でダンジョンに対する対応策を模索した。


 魔物の氾濫スタンピードの発生報告はまだないが、もし発生すれば近隣諸国が応援に駆けつけることも決定している。


 また、基本的に自国で発見された素材やアイテムは自国の物であり、取引する場合は、世界に公表して裏取引など不正は禁止とされている。


 ダンジョンが発生した付近に冒険者施設を設置し、冒険者を所属させ、ダンジョンの入退場の確認を厳格化した。


 他にも、ダンジョンにランク付けを行い、冒険者階級以上のダンジョンには入れない(パーティーの場合は2人以上当該階級者がいれば入場可能となる)ようにするなどした。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 説明も粗方終わった所で冒険者支部に到着した。


 ここには基本的にE級冒険者ボブとしていることが多いから、気持ちが浮ついている。


 さて、今日来た目的はクランの勧誘である。


 受付まで歩いて行き、奏の元へ行く。


 「おはよう奏。今きたよ」


 「あ、おはよう。もう来てるわよ」


 「わかった。今からでも大丈夫?」


 「もちろん。私もいた方がいいよね?」


 「そうだね。いきなり2人きりってのもあれだし、まだ向こうも信用してないだろうからね」


 「わかったわ。じゃあ着いてきて」


 俺たちは、受付の横にある普段、高額な報酬を受け取る会議室に移動した。


 奏がノックする。


 「美咲ちゃん。入るわよ?」


 すると中から、可愛らしい返事が返ってきた。


 「は、はーい」


 奏が先に入り、続けて俺が入る。


 中にいたのは、金髪に染めたポニーテールと目鼻立ちがはっきりした少女が座っていた。


 「美咲ちゃん。こちらが今回クランを創設した天豪雅人よ」


 「はじめまして」

 

 俺は奏に紹介されて一礼する。


 「それで、こちらが『付与』スキル持ちの金谷美咲ちゃんよ」


 「よ,よろしくお願いします」


 美咲ちゃんは、緊張しているのかおぼつかない様子だ。


 「美咲ちゃんは、今回クランに入るかどうかではなく、説明を聞きにきたってことでよかったかしら?」


 「はいそうです」


 「それじゃあ雅人、教えてあげてちょうだい」


 奏は昔から場を回すのがとても上手である。


 奏からパスをもらった俺は、美咲ちゃんに、現状の戦闘スキル至上主義が気に入らないこと。非戦闘スキル持ちがもっと活躍する世界を目指していること。そのために奏に新宿支部でクランを作らず、待ってもらってようやく非戦闘スキル持ち専用クランを作ったことなど、なるべく丁寧に説明していく。


 「な、なるほど」


 感触が芳しくないが、説明に熱を入れすぎて引かれたみたいだ。


 「まだ信用できないかな?」


 「いえ、支部公認でなおかつ奏さんもいらっしゃるので信用はしているんですけど……」


 どうやら美咲ちゃんはまだ踏み切れていない様子。


 「もしかしてお金の心配?」


 俺がそう聞くと、目を見開いて驚いた顔をしていた。


 「そ、そうです。両親はもう他界していて家には祖父母と弟しかいなくて……」


 聞けば、現在高校3年生で祖父母と弟を支えていかなければならないんだとか。


 「口約束で任せてとは言えないからこれを見て信用してほしい」


 そう言って俺は胸ポケットから、虹色に輝くペンダントを取り出した。


 これはS級冒険者を示すペンダントで、B級からもらえる。


 B級は青、A級は赤、そしてS級は虹色だ。


 「そ、それは……」


 「そうだ。俺はS級冒険者だ。このペンダントに誓って俺はこのクランを大きくし、非戦闘スキルの発展と地位向上を約束する。どうだ?着いてきてくれないか?」


 そう聞くと、美咲は笑顔で頷いた。

 

 「はい!よろしくお願いします!」


 「ああ、任せとけ。お金の心配もしなくていいからな」


 「まとまったみたいね」


 話が一区切りついたタイミングで奏が声をかけてきた。


 「ああ。やっとスタートできるよ」


 「これからの方針は?」


 「いやまだ1人だからな。最低4人は集めないと。だからせめてあと3人だな」


 奏と話していると美咲が声をかけてきた。


 「あ、あの」


 「ん?どうした?」


 「私の高校の友達にも非戦闘スキル持ちの子がいるのですが……」


 「おお!ぜひ誘ってみてほしい。ただ俺がS級なのは当分黙っててほしいんだ」


 クランが始動する前に野次馬が集まってくるのは活動に支障がでる。


 「わかりました。誘ってみます」


 「ああ、頼んだよ」


 そうして美咲がクランメンバー第1号となった俺たちは今後の方針を相談しながら絆を深めていくこととした。

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