第20話

 毎日になんの希望もなかったけれど、どうにか立ち直って生きていくべきだと思った。


 私が生きているのは、サイラスが自分を犠牲にして助けてくれたおかげなのだ。


 辛くても生きなければならない。


 時折なんとか元気を振り絞ってパーティーに参加してみたり、落ちぶれた私を招待してくれる奇特な方のお屋敷を訪ねてみたりした。でも空元気は長くは続かない。


 私はちゃんと、元気でいなきゃ。


 気合を入れて立ち上がろうとするたび、足元から力が抜けていく。



 どうしてこんなことになったのだろう。


 元をたどれば、ジャレッド王子とカミリアのせいだ。カミリアがくだらない嘘で私を貶めて、ジャレッド王子がその嘘を信じるから。全部あの二人が悪いのだ。


 今度は依頼なんかしないで、直接この手で二人を手にかけてやろうかしら。そう考えたら、ちっとも力が入らなくなっていた体に少しだけ元気が湧く気がしてきた。



 一瞬暗い感情に呑みこまれそうになりかけたが、すぐに思い直す。


 こんな風に恨みに流されてばかりいたから、私はサイラスを死なせたんじゃないか。あんな馬鹿なことはもう二度とやるべきじゃない。彼の想いまで無駄にしてしまう。


 急に力が抜け、ベッドに倒れ込んだ。


 やめよう。醜い感情に心を縛られるのは。どんどん不幸に足を踏み入れてしまうだけだ。もう手遅れだけれど、せめてこれからは正しく生きたい。


 ああ、でも、もっと早く気づけていたらよかった。


 そうしたらサイラスを失わずに済んだのに。取り返しがつかなくなってようやく気づくなんて、私は救いようのない馬鹿だ。


 もしもサイラスが戻って来てくれるなら、私は絶対に彼を幸せにするためだけに生きるのに。


 これまで受けてきた悪意も理不尽も全て忘れるし、ジャレッド王子のこともカミリアのことも許してあげる。これから国王と王妃になる二人を笑顔で称えよう。


 派手な幸せなんていらない。このまま王子に捨てられた哀れな令嬢だと、ずっと蔑まれていてもいい。



 何にもいらないから、サイラスが私の元に戻ってきてくれないかしら。


 気がつくと目から涙が流れ落ちていた。拭っても拭っても涙は止まらない。


 いくら泣いたところで叶わない願いであることは、ちゃんとわかっていた。

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